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慎太郎君

 


「あっ………」


 バタバタとノートが床に落ちる。

 先生に頼まれたクラス全員分のノートだ。

 やっぱり一回で全部運ぶのは難しかったな。


 休み時間の階段の踊り場にはそこそこの数の生徒がいたが、ノートを落としたあたしに目を向ける人はいなかった。


「ふぅ…………」


 思わずため息が漏れる。

 本当にあたしはどんくさいというか何というか。

 ノートすらまともに運べないのか。

 先生ももっと適当な人材を選んで頼み事はしてほしい。


 4月に高校に入学したものの、状況は中学の頃と全く変わっていない。

 言いたいことも言えない性格が災いして、クラス委員を押し付けられたり、こうして頼み事やらなにやら……。

 高校ならば何かが変わると思ったのにな。

 環境は変わっても、自分が変わっていなければ意味がないか。


 一つ、また一つとノートを積み上げていく。



 すると。


「あー、手伝うよ」


 目の前に一冊のノートが差し出された。

 私のノートだ……。

 あっ、たまたまか。


 というか誰……?


「こんなにたくさん……、一回じゃしんどくね?」


「あっ……うん。やっぱり落としちゃった」


 同い年かな。

 一人の男の子が立っていた。

 制服の首のところに「1‐B 」の組章が付いている。

 1年生だ……。


「しんどかったら言った方がいいよ」


「うん………」


 それができれば苦労は………。


「それができれば苦労はしねぇか」


「えっ」


「わり、忘れて。……よし、これで最後っと」


 ポフと最後の一冊がおかれて、彼は「じゃ」と階段を下りて行った。


 私はしばらくの間、呆気にとられていたと思う。



「……」



 彼がいなくなった後も、あたしはただ彼が下りて行った方向を見ていた。





 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「また……この夢か」


 初めて慎太郎君に会った日の夢。

 ()ごろから見るようになり、また最近よく見る。


「起きないと………」


 肌寒い冬の空気が部屋に充満している。

 あとひと月もすれば今年度も終わり、あたしは晴れて受験生になる。

 しかし。

 それもどうでもよかった。

 大学に行けなくてもいい。

 何なら、このまま人生が終わってもいい。


 ()のいない世界なんて。















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