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ブーケは誰のもの?

結婚式で起きた小話その1。

短いです。

 式を終え、退場してからブーケトスをすることになった。やっぱり結婚式と言ったらこれだし、「やらないっていうのもちょっとね……」と周囲から言われまくったから。


 本当なら、みちるにあげたかった。みちるに一番に幸せになってもらいたいんだもん。

 でも速攻で断られた。


「あんたね、式場スタッフであるわたしがブーケなんて貰ったと知られたら、ブーイングもいいとこよ。気持ちだけ受け取っておくわ」


 そう言われてはどうにもできない。あーあ、みちるに渡したい……。





 今からブーケを投げるんだけど、めっちゃ怖い。参列者の独身女性が目をギラつかせてこっちを見ている。うえぇ、餌になった気分。怖いよぉ――!


 それを見ないように背を向け、思い切りブーケを後ろに投げた。「わー」とか「キャー」とか言っているので、すぐに振り返ってブーケの行方を捜した。


 するとそれに群がる女性が伸ばす手の中からにょきっと長い手が伸び、ブーケを掴んだ。それを見て、ギョッとした。


 あれ、女の人の手じゃない。――――まさか、ひろみ先生!? ダーリンの嫁になりたいのか!?


 ようやくその人物の姿を確認できた。それを見て、またビックリ。


「菊池くん……」


 そう、ブーケを取ったのは菊池くんでした。彼はわたしを見て、ニコッと笑ってグーサイン。手にしたブーケを高く掲げた。


 まさかみちるにあげたいという、わたしの思いを汲んでくれたのか……。そのことでちょっと愚痴っちゃったし。素晴らしいよ、菊池くん! グッジョブ!!

 わたしも笑ってグーサインを返した。


 周囲の女性たちはブーケを取ったのが男性で、ブーイングの声を上げかけたのだが、彼の外行き様の笑顔に見惚れてすぐに収まった。さすが外面大王。


「菊池くんが取っちゃったね」


 慎也さんの言葉に、頷いた。


「いいんです。菊池くんならみちるに渡してくれますよ」

「ああ、そういう意味か……」

「どういう意味だと思ったんですか?」


 彼は口ごもりながら、ちょっと顔を赤くした。


「菊池くんが、三田さんのお嫁さんになりたいのかと……」


 とんだ勘違いですね。もしかして慎也さん、天然なんですか!?







※※※







 結婚式、披露宴が無事終わった。大したハプニングもなく、とても温かい式だった。


 気を利かせてくれた同僚に後のことを任せ、わたしは二次会へ向かうべくロッカーで着替えを済ませた。

 二次会会場は式場近くのレストラン。式に出られなかった分、親友を目一杯祝おうと思う。


 式場の従業員通路から外へ出ると、そこにたたずんでいたのは見慣れた顔の男だった。


「あ、みちるちゃん。お疲れ様」


 わたしの姿を確認し、笑みを浮かべながらこちらに近寄ってきた。


「お疲れ」


 普段見慣れないこの男のスーツ姿に、少し見惚れてしまった。


 連れ立ってレストランに向かっていると、途中で立ち止まった悠真。


「みちるちゃん、あのね……」

「何?」

「これ、受け取って」


 手にしていたのはブーケだった。それは式でラナが持っていたものと同じだった。


「これ……」

「ラナちゃんはみちるちゃんに貰って欲しそうだったから、頑張って取ったんだ」

「また……」


 この男は、自分の姉の式でもブーケを取った過去がある。

 呆れたが、親友の気持ちを汲んでくれたとなると嬉しさもあるから厄介だ。


「ねぇ、みちるちゃん」


 真っ直ぐとこちらに視線を向けられる。いつものチャラさが感じられない真剣な表情に釘付けになる。


「今はまだ学生で、とてもじゃないけどプロポーズなんてできないけど、頑張ってみちるちゃんに釣り合う男になるから。だから……」


 ブーケを差し出し、悠真は言った。


「そのときは僕と結婚してください」


 ドキドキと心臓がうるさい。


 こんなキザなこと、年下のくせに……。


「……悠真のくせに、生意気」


 ぶっきらぼうに言うと、悠真からブーケを奪って歩き出す。


「みちるちゃん、それってOKってこと!?」


 慌てて追い掛けてきた悠真に、明確に返事をすることはなかった。


 でもきっとばれていると思う。


 自分の顔がありえないほど真っ赤だったから。


 悠真が追いつき、空いている方の手に指を絡めてきた。


「ふふっ。みちるちゃん、かわいい」


 からかうような言葉に、持っていたカバンを悠真にぶつけたのは不可抗力だ。





次回も小話。

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