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馬には乗ってみよ人には添うてみよ

作者: 伊織ライ
掲載日:2026/01/05

SNS文芸部「馬、ウマ、午!」をテーマに書きました。


「──馬刺し、そう、馬刺しだ」

「はぁ? 何、いきなり」


 向かいのデスクでパソコンを見ていた同期の鈴木が不意に呟いた。今日から仕事初めで、まだ脳の起動が行われていないのだろうか。おやすみモードはそろそろ解除して欲しい。


「俺たちは馬刺しを食わねばならない。今天啓が降りた」

「先月はぶりしゃぶだったし、その前は確か……そう、さつまいも掘り体験に行ったよね?」

「ああ、そうしろって天啓が降りたからな」

「あんたの神様はいったいそれで何を伝えたいのよ?」


 鈴木はいつもそうなのだ。急に突飛なことを言い出しては、何故かそれに私を付き合わせてくる。大概私とこうして二人残業している時に天啓とやらが降りてくるらしいので、その流れなのかもしれないが……。


「今週末、なんか予定あるか?」

「いや、ないけど」

「よし、じゃあ行くぞ」

「はいはい、分かりましたよ。んで? 土曜、日曜? ああ今週末って三連休になるんだ」

「うん、だからその三日間」


 モニターから顔を上げると、正面の鈴木とばっちり目があった。いつからこっち見てたんだろう。


「どういうこと?」

「だから、馬刺しだよ。馬刺しといえば、行くしかないだろうが」

「馬刺しといえば……? えっ、もしかして熊本?!」


 こくりと深く頷くこの男は一体何を言っているのだろうか。いや、言っていることは分かるけど、そうじゃなくて。


「旅行ってこと? ……あたし達二人で?」

「まあ、そういうことになるな」

「いやいやいや、流石にそれは」

「駄目なのか? お前も馬刺し食いたいだろう」

「えっ天啓ってそんな凄いやつなの? 絶対従わないと天罰とかのアレなの?」

「どっちかというとご褒美だろうが」

「……いや、はぁ?」


 入社して三年。同期の中でも特に馬が合ったし、同じ部署に配属されたこともあって親しくしてきた実感はある。一年位前からは()()によって近場のグルメドライブへも幾度か行った。私たちの関係が一体何なのかと考えたこともあるし、総務の若い女の子から問いただされたことだって実はある。この男、顔面はそこら辺にいそうな親戚顔だけれど身長が高くスタイルも良いため、案外モテるのだ。

 けれど一緒に出掛けても話す内容は仕事のことや、最近ハマっているお笑い芸人の話やら推しているアイドルグループの新曲についてなど、色気なんて全くない内容ばかりだったから。

 

 だから、期待しないようにと気をつけていたのに。


「──流石にそれはもう、ただの同期じゃ済まないよね?」

「そりゃますます楽しみなこと聞いたわ」


 気楽だから、私なんだと思ってた。ちょっとでも匂わせたら、もう誘われないだろうって。


「……からし蓮根の天啓は降りてないの?」

「おお、好きなだけ食えってさ」

「熊本ラーメンは」

「そりゃ食わないわけにはいかないよな」

「……お土産にいきなり団子だって買っちゃうけど?!」

「お前、あれ好きだって言ってたもんな」


 自分でも忘れているような話題を、こいつは全部覚えているのか。


「そんなの、行くしかないじゃん!」


 空を行く天馬のように自由なこの男と一緒なら、きっともっと楽しい景色が見られるだろうから。


 互いに仕事を片付けてオフィスの電気を消し、施錠を確認したら駅へと足を向ける。旅の計画を立てながら歩く私たちの手は自然と重ねられ、寒空の下でもじんわりと温かい。

 

「……天啓様様だなぁ」

「……もう一回、神社にお参り行っておこうか」


 初詣からわずか四日後の話である。

 

 

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― 新着の感想 ―
かわいい…!!!です! 彼女の好きそうなところに天啓おりてくるんだ! 好きです。ありがとうございました。
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