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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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89.逆走(4)

いつもありがとうございます。

 目を開けるとマイルームだった。


「あー……死に戻ったか」


 戦いはどうなった?


 俺はベッドから跳ね起きると、西1の仮宿から出て全速力で駆け出した。


 デスペナルティがついてるから、これからゲーム内で三時間は全パラメータが半分の数字になる。そのせいか、いつもより速度が遅い。もどかしい。


 現在こちらの時刻は二十三時を回っている。暗く静まり返った街に足音が響く。


 少し行ったところで同じように走っているロウさんとカリウムさん、蒼刃さんの背中が見えた。


「蒼刃さん!」


 大声で呼びかけると三人は驚いた表情でこちらを振り返った。


「カイさんもやられちゃったの!」


「はい! でもまだ古義さんと唐竹さんは負けてないですよね?」


 四人とも小走りでウィンドウを確認する。クエスト失敗したならそう表示されるはずだから。


「あの最後の歌って結局なんだったんだ?」


「全部逆効果になる感じ? 回復かけるとその分HPが減るし。死霊は斬るとかえって元気になってなかった?」


「じゃあ味方も斬ればHPあがるのか?」


「リスクが高いよ」


「それとも敵に回復かけたら倒せたのかな?」


 あの最後の不可解な現象について、口々に自分の考えを話す。


 その時、ポーンと電子音が鳴った。


【戦闘終了です】


「終わった!?」


 俺たちは思わず足を止めた。次のお知らせが出るのを息を詰めて待つ。


【みなさまにお知らせします。ウェスファスト北の境界『昏き死淵の乙女たち』がパーティ『斬鉄団with死神タン』によって初討伐されました。これより北の国ミスティン第六の街ノーシクスへのルートが解放されます】


 ワールドアナウンスだ。


「勝ったあ!?」


「よっしゃあ!!」


 俺たちは路上にもかかわらず、両手を天に突き上げて大声で叫んだ。というか、パーティ名。誰がつけたのこれ。




 境界戦の成否はパーティ単位だから、途中で死亡した俺たちも勝利判定が貰える。


【称号を獲得しました : 逆走の鉄人】


 称号の詳細は西1の時と同様に『最初にノーシクスへのルートを開いたことを讃える』とだけ書いてあり、特別な効果はない。


 初討伐報酬は『収納のブレスレット』、効果はアクセサリーを四つまで収納して身につけられること。


 現在、アクセサリー装着枠は補助魔法ブレスレットや護符類も合わせて五つまでだけど、このアイテムを使えば四つ収納したものを一つとしてカウントできるのでアクセサリー装着枠が+3になる。なかなか便利だ。


 そして通常の討伐報酬が『冷たい耳飾り』MND+30。ドロップ品は『闇の魔石』、『死霊のストール』『死霊のため息』『死霊の爪』。


 それらのお知らせがずらずらとウィンドウに流れていくのを、俺たちは歩きながら眺めた。


「あ、『闇の魔石』が出たぞ。航海石に使えるんじゃないか?」


 蒼刃さんの言葉に、ロウさんが「いや」と首を振る。


「光の魔石は作れるが闇の魔石は今のところ入手方法がない。念のため取っておいたほうがいいんじゃないか?」


「それもそうだな」


 俺、それ作れますなんて口が裂けても言えないな。素知らぬ顔で相槌を打つ。


『なんとか勝てたよ。石窟寺院前で待ってる』


 古義さんから全員にメッセージが入った。


『いま四人でそちらに向かってます』


 蒼刃さんが代表して返信した。


 さっき来た時と同じように岩山を周り込んで谷に入ると、石窟寺院の前に新しい道ができていた。寺院の入り口の壁にもたれるようにして、古義さんと唐竹さんが水筒を傾けている。彼らはすぐに俺たちに気づいて手を振った。


「お疲れ~!」


「いやあ、やったな!」


 抱き合うようにして、お互いの肩や背中をバンバンと叩く。みんな疲れが出ているけどいい笑顔だ。


「本当に申し訳ない。回復でみんな殺しかけちゃって」


 ひと息ついたところで、ロウさんがそう言って頭を下げた。


「いや、誰も予測してなかったことだから気にするなよ」


 眉を下げた唐竹さんが、手を振る。


「ロウがやらなかったら俺がやってたわ」


 カリウムさんも大きく頷きながらつけ加えた。


「それで、あれからどうなったの? 二人だけでどうやった?」


 蒼刃さんが訊ねた。うん、俺もそれが聞きたい。


「いや、カイさんが落ちる直前に石化で歌を止めてくれたから。その後は大技も入るようになってあっさり終了」


 古義さんが俺をみてニカリと笑った。そっか、あの石化がちゃんと役に立ったんだ。


「よかった……」


「うん、本当に助かったよ。あの麻痺解除といいカイさんがいてくれなかったら今回も勝てなかったと思う。ありがとう」


 他のメンバーたちも口々にお礼を言って頭を下げる。いや、なんかむず痒い。


「みんながいなかったら俺だって無理だったから、お互い様です。ありがとうございました」


 俺も頭を深く下げた。




「それにしても、絶対にここを通したくないっていう運営の意地を感じたな」


「最後のあれはないですよね」


 話しながら、俺たちは新しく出現した道に入った。


 うーん、これから北国行くなんて実感がわかないなあ。俺はみんなと違ってついさっき買い物のついでに誘われて戦闘についてきたから、さあいくぞォ!! みたいな意気込みがちょっと足りないというか。


「そういえばカイさん。あの麻痺を解いたのってどういうスキルか聞いてもいい?」


 前を歩いていたカリウムさんが半分振り返って言った。


「スペルショートカットを使ったんです。……ってご存知ですか?」


「うん、俺も持ってるよ。『光清らかなれ』を登録してたけど」


 カリウムさんが杖を見せてくれた。頭の部分に巻いてある装飾品ぽい鎖がスペルショートカットのようだ。石はひとつか。


「スペルショートカットを補助魔法ブレスに取り付けて『聖なる癒し』を「ん」で登録してたんです。呻き声でも出せればなんとかなるかなって」


「おお……そんな手があったのか」


 カリウムさんとロウさんが低く感嘆の声を漏らした。


「というか、それ補助魔法ブレスにもつけられるのか。いいこと聞いたぞ」


「杖と併用できるかどうかはわかりませんけど……」


「スペルショートカットって超レアドロップだもんな。俺がふたつ持つ前にまずロウの分確保しないといけないし」


 あれだけ塔を周回したのに、と彼らは口を尖らせた。


 そっか、超レアドロップなのか。俺が石三つのものが拾えたのはきっと運が良かったんだな。




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