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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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86.逆走(1)

いつもありがとうございます。ようやくGWですね!

 西1の街壁の北門から出て荒地をまっすぐ進むと、高くそびえ立つ岩山に突き当たる。今度はその岩山に沿って西の方向に歩いた。


「これ一見、旧皇国との間を分断してる山脈と同じものに見えるから突き当たりだと思っちまうんだけど、回り込むとまだこの先に少し、西国の領土が続いてるんだよ」


 ずっと急な崖の下を少しずつカーブしながら歩いていくと、谷間になった細い道が現れた。


 そこから両側を圧のある高い壁に挟まれて進むと、やがて岩山を直接掘って作られた寺院のような建物が見えてきた。


 この石窟寺院、見たところアルケナ神殿とは様式がかなり違うようだけど、なにか関係があるんだろうか。


 寺院に足を踏み入れる。入ってすぐの広くなっているスペースで、それぞれ身支度をした。


 俺はデスサイズと死神セットに着替える。もし初討伐できたらまたPVに動画を使われる可能性もあるので、忘れずにゴーグルで顔を隠した。


 それから古義さんの大剣、唐竹さんと蒼刃さんの長剣に聖霊属性を付与する。カリウムさんとロウさんは魔法使いで光魔法を持っているから必要なし。


「この中で自力回復できないのは蒼刃さんひとりですね?」


 古義さんと唐竹さんは補助魔法ブレスレットを身につけているようなので、確認しておく。


「うん。ただ、聖霊魔法は回復と状態異常キャンセルを同時にできるけど、光魔法は別個の技になってるんだ。場合によってはお互いのフォローもしてくれ」


「え、そうなんですか」


「聖霊は一緒になってるぶん、いちどの回復量が少ないんだよ。光は別個のかわりに回復量が多くなってる」


 ロウさんが説明してくれた。


「へえ、そういう違いがあるんですね」


 光魔法を使う人間が周りに誰もいないから初耳だ。


「そうだ、これ良かったら」


 俺はインベントリからSTR+30のレモンタブレットを出して三個ずつ配った。物理攻撃力を少しだけ底上げできる。


「おお。+30か、サンキュ」


 近接組が一個だけ手元に残してインベントリに仕舞う。


「これINTのやつは作ってない?」


 カリウムさんが情報を見て言った。たしかに、魔法使いは魔法攻撃力のほうを上げたいよな。


「INTは+20のしか無いんですけど……」


 ぐるっとカリウムさんとロウさんが振り向いた。


「それで充分です!」


「ください!!」


「あ、はい」


 INTはぶどう味だ。こちらはそんなにたくさん作ってないので、二人にだけ渡した。


「効果時間は十分です。食べ物のバフは重ねがけできないので、どれか一個ずつ食べてくださいね」


「了解」


 ウィンドウを見ると、アルケナ神と謎神の称号に色がついてて、パラメータの数字が大きくなっている。敵のレベルがどれくらいかわからないけど、役に立つといいな。


「それじゃ行こうか。三度目の正直だ、今度こそ勝とう」


「おう!」


 古義さんの言葉にみんなが声を揃えて応えた。




 拝殿の中には、青色の炎のランタンが灯されていた。いかにも死霊の棲家っぽいロケーションだ。アルケナ神殿のものと違なる直線的な形状の柱に施された彫刻や、おそらく神話の一場面を模った壁のレリーフの陰影を青く照らし出している。


 奥の方の神様が祀られているあたりは真っ暗でよくわからなかった。


 電子音とともにアラートが出る。


【ご注意:このクエストは味方への攻撃が有効となります】


 えっ、フレンドリーファイアありなのか。


 いつもは無効だから攻撃圏内にメンバーがいてもばんばん技をうつ習慣がついてしまってるけど、今回は味方を巻き込まないように注意しなくちゃいけないんだな。


「始めるぞ」


【ウェスファスト北の境界『昏き死淵の乙女たち』との戦闘を開始しますか? Yes/No】


 古義さんがYesを押した。


 すうっと拝殿内の温度が下がった。足元にドライアイスのような冷たくて湿った霧が立ち込める。


 打ち合わせ通り、大剣兼タンクの古義さんと長剣で敏捷性に優れた獣人剣士の唐竹さんが前に出た。デスサイズの俺と長剣の蒼刃さんが中衛、魔法使いのカリウムさんとロウさんが後衛で援護する形だ。


 奥の暗闇から白い人影が出てきた。歩くのではなく、宙を平行に移動している。数は複数……全部で六体のようだ。


 それは身体より大きなデスサイズを構えた青白い顔の女たちだった。


 暗闇に溶けるような黒いドレスを身にまとい、老婆のような灰色の長い髪をしている。マネキンのようなつるりとした顔はつくりは若いが表情がうつろだ。目は虹彩がなくて眼球全体が真っ黒。うええ、ホラーだ。


 身長は人族の女性と変わらない。なるほど、俺たちと同じ大きさの魔物が複数入り乱れて戦う場合、フレンドリーファイア有効は相当やりづらい。


「来るぞ!」


 古義さんが叫んだ。


「あああぁぁぁあぁあぁぁあ!」


 先頭にいた女が口をあけて哭いた。気持ち悪い。


「わっ」


 全身の力ががくんと抜ける。デバフつきの嘆きだ。全部のパラメータに30%マイナスがつく。


 同時に俺はデスサイズを振り上げた。ガキィン、と耳障りな金属音が鳴る。


『まず死霊の第一撃。嘆きと同時に物理攻撃をしてくる』


 古義さんたちにさっき教えてもらった通りだった。


 死霊の一体が振り下ろした刃が俺のデスサイズに阻まれている。まっすぐに俺の首を狙ってきたのだ。


 これ、初見だとデバフに気を取られた瞬間にスパンと殺られちゃうんだろうな。


 打ち合った刃を押し戻し、自分と真横の蒼刃さんに回復をかける。


聖なる癒し(セイクリッドヒール)聖なる癒し(セイクリッドヒール)!」


 白っぽい光が全身を包み、デバフが消えた。


「サンキュー!」


「はい!」


 再び向かってくる死霊の刃を避けて腹部に突きを入れる。後方に吹っ飛ばしたようには見えたが、手応えがなかった。敵にダメージが入ったのかどうかよくわからない。


 と、耳の後ろで空気を斬る音がして身を屈めると、背後から来たデスサイズの刃が頭上を通り過ぎた。この死霊たちはひとりの相手をするんじゃなくて、近くにいる人間を無差別に襲う習性らしい。


 しかしこのデスサイズ、自分が使ってて言うことじゃないけど、刃の部分が大きくておっかない。刃の部分が弧を描いているから、圏内に入ってしまったら避けにくい。


 再び前から来たデスサイズを自分の刃で止める。刃の部分が擦れ合って黒板を引っ掻いたような音が出た。ギャー! この音嫌い!!


 武器を引いて、床を転がり距離を取った。



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