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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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9.依頼と暗い店

いつもありがとうございます。

 それからしばらくの間は、俺も姉ちゃんも北側の過疎った森で資金集めとレベル上げに勤しんでいた。


 相手は小動物なのであまり小細工は必要ないけど、できるだけ持っているスキルを使うようにして経験値を貯めている。


 風魔法スキルも取ったので、補助魔法で起こした風に直接毒を付与して流す方法も覚えた。これがまた強かったりする。


 でも餌を作ることによって料理や製菓レベルがあがるので普段は毒餌を使うようにして、ちょっと手間取るモンスターが出た場合だけ風を使うようにしている。


 初日に四人がかりで倒したグレートハンティングベアをひとりで討伐成功したときは思わずガッツポーズをしてしまった。




「毒耐性のレベルが8になったよ~」


 姉ちゃんは歩きながら俺が作った毒入りのお菓子をポリポリ食べていた。


 今日も一緒にレベル上げをするため街の外へ向かう途中である。


 姉ちゃんもHPが増えて毒を摂取しても即死しなくなったので、毒耐性のスキル上げを始めたのだ。


「これすごく美味しい。外側についてるカリカリのキャラメル味が癖になっちゃう」


 ゲームだから太らないと思って、この人甘いもの際限なく食べてるぞ。その辺を訴求すれば女子に売れるんじゃないのこのゲーム。


「褒めてくれるのは嬉しいけど食べすぎんなよ、毒なんだから」


「ちゃんとHP見ながら食べてるってば」


「やばいと思ったらすぐポーション飲んで」


「はーい」


 今日の姉ちゃんは、デイジーさんが作ってくれたくすみピンク色のマントの下にレースをあしらった白いチュニックと赤いフリルスカートを身につけている。足元はニーソックスとショートブーツ。初期装備のベージュ色のキュロットよりも断然可愛い。


 俺の服はまあ、適当だけどね。


 服のセンスなんてさっぱりなのでデイジーさんに丸投げしたら、なんかアニメでしか見たことがない中世貴族みたいなモールつきの軍服もどきを差し出されて「俺コスプレ無理です!」って叫んだら低い舌打ちとともに普通のストリートっぽい服が出てきたから、ありがたくそれを着ている。


 デイジーさんが効果つきの商品を作れるようになったので、どちらの服にもHPが少し加算されていた。


 俺たちは道すがら武器屋を覗いて歩いていたが、いまひとつ気に入る武器がなかった。お金はもう貯まってるんだけどな。


 初心者用を買うとすぐに買い替えなくちゃいけなくなる。だから少し良いものが欲しいんだけど、そういった武器はランクがあがった他のプレイヤーたちがこぞって買っているため全体的に品薄なのだ。


 姉ちゃんは今使っているのより小ぶりで拡張性の高い弓を気に入って購入できたが、俺は結局フライパンでの討伐が続いていて、料理スキルだけがどんどんレベルアップする始末だった。


「ねえログ見た? 攻略パーティの人たちが西3に入ったって」


「そうらしいね」


 俺たちがログアウトしている間に『西国ウィンドナ第三の街ウェスサード』への開通を知らせるワールドアナウンスが流れたとログに書いてあった。


「西3は商業が盛んな都市でしょ。なんか新アイテムもいろいろあるらしいし、武器もそっちの方があるかも」


 たしかに始まりの街よりは良いものがありそうだ。


「行ってみた方がいいかな」


「人が多いのは嫌だけど、開通だけしておけばお買い物とか便利じゃない?」


「ただフライパンでエリアボスに勝てるかって問題が」


 はああ、と二人のため息が揃った。


「武器を買いに行くのに持って行く武器がないってやつね……あら?」


 姉ちゃんが小さく声をあげた。


 少し先に見えている石段に獣人の老人が座っていた。灰色の耳はぺしゃりと下がり、疲れたように項垂れている。


「あの人ってさ……」


「いかにも『困っている感』を演出してるような」


「うん。話しかけたら絶対イベントクエスト始まるよね」


 どうしよう、と目で会話する。


「やってみる?」


「やってみようか」


 合意した俺たちは老人に近づいて行った。


「大丈夫ですか?」


 老人はのろのろと顔をあげた。


「ああ、こんにちは。冒険者さんですかな」


「そうです」


「この娘をどこかでみなかったでしょうか」


 老人は手に持っていた紙を差し出した。


 若い女性の似顔絵が描かれている。黒髪黒瞳、黄土色の耳の獣人だ。顔のアップと全身像、それに洋服の色や特徴が書き加えられていた。


「この方は?」


「孫娘のユリアです。三日前に仕事から帰宅する途中で行方不明になってしまいました」


 老人が咳をしたので、俺はインベントリから葡萄の果汁で作ったジュースを取り出して飲ませる。


「ありがとう、親切なお方。……騎士団に届けたのですが、まだ数日のことで取り合って貰えない。それでなにか手がかりがないかと聞いて回っていたのです」


「それは心配ですね」


 老人は俺たちをじっと見つめた。


「冒険者さん。ユリアを探すのを手伝ってはいただけないでしょうか。もちろん報酬はお支払いします」


 はい。予想通りの展開でした。


「僕たちにできることがあれば。お引き受けします」


 お爺さんは深々と頭を下げた。




 ユリアさんが最後に目撃されたのは、働いている商店から自宅へ戻る方向に少し歩いた十字路だった。そこで顔見知りとすれ違って挨拶した後の消息が途絶えているそうだ。


 疲れきった老人を一旦自宅まで送り、似顔絵と付近の地図を貰った。それらと一緒に、彼は小さなプレート型のペンダントも俺たちに手渡してくれた。


『リンネ神の護符 氷魔法耐性+5・リンネ神の領域内でVIT/MND+10%』


 ええと、VIT/MNDってことは物理と魔法の防御力アップってことか。


「私たちの神の御加護が有りますように」


「ありがとう」


 お礼を言ってそれを首に下げる。


 それから俺たち二人は彼女の自宅から最後の目撃地点までの道をじっくりと検分して歩いた。


「なにかの事故で動けなくなっているとかかな?」


「うっかりどこかに閉じ込められてるみたいな?」


 落とし物はないか、不自然な痕跡は残っていないか。今来た道を注意深く観察しながら歩いていく。


「あらっ」


 姉ちゃんが小さく声をあげた。


「なにか見つけた?」


 意気込んで尋ねた俺に、姉ちゃんは「そうじゃないけど」と首を横に振った。


「さっき通った時あんな店あった?」


「えっ?」


 小さな指が指し示す先には、一軒の武器屋があった。並びにある他の建物より黒っぽい外壁と、この近隣の店とは少々テイストの違う装飾の古そうな扉が特徴的だ。


「……覚えてないな。気づかないはずないと思うんだけど」


「見ていく?」


「良い?」


 せっかくなので寄ってみることにした。




 分厚い扉を開くとギギギイィ……といかにもホラー映画に出てくるような音がした。


 店内は薄暗かった。他に客はいない。そして商品がひとつも並んでいない。


 もしかして休みか閉業した店だったろうか。


 姉ちゃんと顔を見合わせる。


「武器を探しているのか」


 不意に低い声が聞こえて俺たちは飛び上がった。


 今まで気づかなかったけど、帳場の暗がりにある椅子に尖った三角の耳を持つ獣人の男が座っていた。猫のように目が光っている。ちょっと怖い。


「は、はい」


「『信頼の証』は持っているか」


「しんらい……?」


 姉ちゃんが首を傾げる。


 そういえば、森であの仔犬みたいなのに貰った白銀のコインがそんな名前だったような。


 インベントリから取り出して男に渡した。


 男は帳場の上にあるランプに明かりを入れると、コインを自分の目の前に持ってきて確認して、すぐこちらに戻して寄越した。譲渡不可だったもんな。


 そして背後の大きな棚の戸を開け、中からいくつかの武器を取り出して帳場の台の上に並べた。


「今あんたに売ることができるのはこれだけだ」


 いずれも闇のように真っ黒な武器だった。


 ポップアップには『いわくつきの大剣』『いわくつきの双剣』『いわくつきの大鎚』と表示されている。なんかどれも怪しい。どういう「いわく」ですかね?


「あんたは所有しているすべてのコルトと引き換えに、この中からひとつを手に入れることができる」


 あ、これ普通の店じゃないな。


 それは直感だった。


 ここは何かの条件によって出現する系の場所だ。おそらく今逃したら次は見つけられるかどうかわからない、そんな気がする。


「俺今11万コルトくらいしか持ってないんですけど」


 姉ちゃんの衣装代にも結構使っちゃったし。


「それで構わない」


「じゃあハンマーをください」


【110,670コルトを支払いますか? Yes/No】


 Yesを押す。


 男は頷いて後方に大剣と双剣を片づけた。


「これも持って行け」


 シルバーグレーの太い革ベルトのようなものを渡される。『武器用ホルダー』と表示が出た。


「ありがとう」


 姉ちゃんに手伝ってもらってその場でホルダーを装着してハンマーを背負った。


【いわくつきの大鎚 STR+30%】


 物理攻撃力アップがついているんですね。


 持ち上げた時はそれなりの重量があったのに、ホルダーに差した途端に重さを感じなくなった。戦闘時以外は身体的負担をなくすような設定なのかもしれない。


 俺たちは店を出た。


 来た時と同じような、ドアが閉まる不吉な音色を背中で聞いた。それから振り返るともうそこに店はなかった。


「ふぇ……?」


 釣られて後ろを見た姉ちゃんが間抜けな声を漏らす。


 店があったはずの場所は、通りに立ち並ぶ他と同じ白い外壁の建物に変わっていた。


「え、なにこれ……」


「やっぱりね」


「カイくん、こうなるって気づいてたの?」


「途中からなんとなく」


「ええ……」


 スキル『大鎚術』がリストに出ていたのでポイントを使って追加する。


「このハンマー、加算が固定値じゃなくてパーセントだから結構強いんじゃないのかなあ」


「そうなの?」


「たぶん?」


 ゲーム素人だからよくわからないけど、自分の数値があがるほど武器も強くなるってことだよな。俺のSTRの現在値は45だから58になる。これは大きい。


「ここしばらくの課題がひとつ解決して良かったよ」


「ふわぁ、不思議な体験したわ」


 俺たちは再び捜索に戻った。


 あのコインのことを聞かれたので、姉ちゃんに森で助けたモフモフした小さな生き物のことを話しながら歩いた。盛大に羨ましがられたのは言うまでもない。


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(2023.1.9修正)改行を一部変更しました。

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