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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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85.意外なお誘い

いつもありがとうございます。気候の変動が激しくてしんどいですね。皆様もご自愛ください。

 翌日からは、しばらくほったらかしにしてしまった姉ちゃんと合流することにした。


 午前中剣道の練習をして帰ってお昼を食べてからログインすると、姉ちゃんが帰宅するまでの間、オビクロでは約一日暇になる。


 まずはクランハウスの厨房でお菓子と軽食を作って、途中で赤ネームをさくっと暗殺してから夜鳩商会に行った。


 今日は店内にやたらと人が多い。


 スタッフオンリーの扉から入って、調理場で簡単な仕上げ作業をしながらデリの担当者さんに訊ねると、「渡り人が魔石を求めて詰めかけてるみたいです」と教えてくれた。わあ、戦犯は俺ですねすみません。


 甘く煮たアンズを花のように飾ってのせたシャルロットとほうれん草入りの緑色の生地に彩り野菜を入れて焼いたケークサレの二品を担当者さんに引き渡し、かわりにお米を買って帰ろうと思ったんだけど。


「すみません、米はいま在庫を切らしていまして」


「えっ、そうなんですか……」


 肩を落とした俺の様子を見て、食材売り場の担当者さんは言葉を継いだ。


「あの、ウェスファスト支店にはあるので、お時間をいただけるのならこれから取って参りますが」


 え、あるの?


「それなら自分で向こうの店に行ってきますよ」


「ありがとうございます」


 担当者さんに手を振って俺は店を出た。


 仮宿を通って西1へ。


 西4に到達してからはそちらの店ばかり使っていたから、西1の夜鳩商会に来るのは久しぶりだ。


 店内に入ってまっすぐ食材売り場に行き、担当者さんに金色の会員証を見せる。暗殺料理人の修行が終わった時に師匠から渡されたものだ。米はこの西国の店舗では一般のお客さんに販売していない特殊な商品だから、この会員証がないと買えない。


 奥の部屋に通されて、そこで必要なものを伝えた。お米と、ついでにこうじ味噌も頼んで持ってきてもらい、お会計が済んだものをインベントリに放り込んで一般のフロアに戻った。


 こちらの店舗は客の流れもいつもと変わりない様子だ。みんな西4のほうに殺到したんだな。


「あ」


 知ってる顔がいた。向こうも俺に気づいたようだ。


「カイさん。お久しぶり」


 ポーション売り場にいた古義さんが片手をあげて言った。その背後には斬鉄団がフルメンバーで揃っている。彼らと会うのは、ゴーレム戦のあと姉ちゃんと西4の夜鳩商会へ武器を見に行った時以来だ。


「こんにちは」


 あれ、今は平日の午後だよな。この人たち社会人だと思ってたけど仕事はどうしたんだろ。詮索っぽいから口には出さないけど。平日休みの仕事もあるだろうしな。


「えっと、無の魔石を買いにきたんですか?」


「いや、そっちは保留。カイさんはここで何を?」


「食材を買いに」


 彼らはお互いに目配せをする。そして小さく頷き合った。え、なに?


「カイさん。ちょっとお茶でもいかがかな?」


「はい?」


 俺は斬鉄団に連れられて目の前にあった併設カフェに入った。西1の店のカフェに入るのは実は初めてだ。


 おや、西4の店に納入した俺のケーキ、こっちのお店でも出してるみたいだ。


 頼んでみたら、金色の縁取りのついた高級そうなお皿にホイップクリームやフルーツと一緒に綺麗に盛り付けられて出てきた。盛り付けひとつでずいぶん違うものなんだな。感動してついスクショを撮りまくってしまった。


「カイさん、今から俺たちと一緒に来てくれないか?」


 俺がやっと落ち着いたところで、おもむろに古義さんが切り出した。妙に深刻そうな表情をしている。なんかやばい話ですかね。


「どこへですか?」


「北国行きの境界戦だ」


「……………………はい?」


 今なんつった? 北国? って、えっ!?


「えっ…………と、その、境界の魔物を発見したんですか?」


 想定外もいいところだ。だって、この序盤から逆方向に国境を越えてみようだなんて普通、思わないだろ。


「ああ」


 彼らは重々しく頷いた。


「いや、でも……正気ですか? その、相当強いんじゃ……」


「すでに二度、負けてる」


 そうだよな、北国って最後に行く予定の国だ。運営だって用意はしてみても、始まりの国との境目なんてきっと通すつもりはない。うんと固くしてるに決まってる。


「……なんで行こうと思ったんです?」


 首を傾げると、古義さんは顎に手を当てて小さく唸った。


「いやあ、せっかく見つけたから? 蒼刃も北国行きたいって言うし」


 あ、あああー……それって、もしかして俺のせい? 雷魔法の話をして焚きつけちゃった?


「いまから三度目の挑戦に行くところだったんだ。カイさん、聖霊魔法の付与ができるだろう? うちは五人パーティだからひとり空きがある。手伝ってもらえないだろうか」


「聖霊魔法が必要なんですか?」


「敵が死霊なんだ。光か聖霊が欲しい」


「ああ……」


 そうか。蒼刃さんは付与スキルがあるけど光魔法も聖霊魔法も持ってないし、アルケナ神殿で聖霊魔法をもらった古義さんと唐竹さんは近接武器だから補助魔法ブレスレットでの単体回復しか使えない。


 つまり近接の三人は、攻撃するときに死霊に有効な属性を使えないということだ。それはたしかにキツイだろうな。


「でも、北国って宗教鎖国をしてるって噂ですよね、勝っても入国できないんじゃないですか?」


「そうだな」


 と古義さんは神妙な表情で頷いた。


「すまない、それを最初に言うべきだった。カイさんには申し訳ないが、最悪、蒼刃だけでも入国できればいいと思ってるんだ。他の人間もなにか条件つきになると予測しているが、それは直接聞いてみないとわからないし」


「そうですか……」


 わあ、俺こういう感じ、嫌いじゃないよ。男の友情っていうか、この潔さが。


 こんなの聞いてしまったら、俺も協力したくなるでしょ。


「わかりました。俺も行きます」


 俺が承諾するとメンバーたちの間にほっとした空気が流れた。


「助かる。頼むよ」


 それから俺は、彼らから今までにわかっている敵の情報を、最初の攻撃から事細かに教えてもらった。


「とにかく状態異常が多いんだ。戦いの間ずっとキャンセルをかけまくることになる」


「なるほど」


「ただ、あそこはなぜかアルケナ神の領域になってる。俺たちアルケナ教徒は少しだけ戦いやすくなるはずだ」


「え、北国なのに?」


「おかげで諦めも悪くなるんだよ」


 唐竹さんが肩をすくめて笑った。


 さて、装備はどうしようか。


 本職の魔法使いが二人もいるから、魔導書は使わなくてもいいだろう。デスサイズに補助魔法ブレスレットでいいか。でも自分のパーティ以外であまり闇魔法は見せたくないな。


 補助魔法ブレスレットに取り付けたスペルショートカットから『闇の触手』を外して代わりに『聖なる癒し』を登録しておく。


 それから商会の店内で聖水とMPポーションを購入して、俺は斬鉄団とともに境界戦の場所へ向かった。



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