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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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83.花火

いつもありがとうございます。

 最終日の仕事は特に目ぼしい情報もなく、マリィさんの親父さんが西2から無事帰宅して、助っ人クエストは終了した。


 報酬はLUK+30の釣り竿と10万コルト。釣竿は近いうち購入予定だったから、これは嬉しい。


「短い間だったけど、兄ちゃんの飯も美味かったぜ!」


「また遊びに来いよ!」


 最後は常連のおじさんたちにエールをめっちゃ飲まされて、まあ俺はゲームの年齢制限に引っかかってるから全部口の中でほうじ茶に変わってたんだけど、それから親父さんの料理をいろいろご馳走になった。


 うん、都会っ子の俺には出せない荒波のソウルが込められた料理だった。これが本場の味かあ。勉強になりました。


 俺たちは父娘と陽気な常連さんたちに見送られて店を出た。


「カイ君、今回は助かったわ。ありがとう」


 歩きながら、キサカさんが頭を下げる。


「でも結局情報収集はうまくいかなかったですね」


「いや、あれだけNPCに喋らせたら上出来だって」


 ヒカリがフォローを入れてくれる。


「今後もし何かわかったら教えてもらえるかしら。ええと、連絡先を……」


「あ、ヒカリに伝えとけばいいですよね」


 連絡先交換を華麗にかわす。ほら、あまり近づき過ぎて姉ちゃんに迷惑かけたくないし。


 それに気づいたのか否か、キサカさんが俺をじっと見つめた。


「ねえカイ君。うちのクランもそのうちバーか飲み屋みたいなものを作ろうって話が出てるんだけど、よかったらカイ君もこっちのクランに入らない?」


 ヒカリがぎょっとした表情をする。


「いえ」


 俺は首を振った。


「せっかくですけど、俺は今のクランが気に入ってますので」


「それじゃ、料理人のアルバイトとか」


「すみません、あまり義務にはしたくないので」


 この五日間で悟ったというか、この人につくとなんかこき使われそうな気がするんだよな。


 情報を扱う人っていろんな意味でスピード感があるから、のんびりやりたい俺とはちょっと合わないんじゃないかと思うのだ。そういう理由でもごめんこうむりたい。


「そう。また気が変わったらいつでも言って頂戴」


 眉を下げて、キサカさんは微笑んだ。


「今回のクエストは楽しかったです。ありがとうございました」


 これからクランの人たちと会合があるという二人と別れて、俺は仮宿に向かった。


 まだ人通りのある夜の港を潮風に吹かれながら歩いていると、ウィンドウに緋炎からメッセージが入る。


『港から不知火で飛んでみたが、一定距離から先は濃霧で進めない。島は正規の手順を踏まないと発見できないらしい』


 おお、試してみたのか。なんとなく予想通りの結果だったけど。


『お疲れさまです。検証ありがとう。残念だったね』


 返信を送って、月光に照らされた黒い海を眺めた。砂浜では小学校高学年くらいの年齢の数人の少年たちが火のついた花火を振り回して遊んでいた。


 この世界にも花火ってあるんだな。現実世界より手軽にできそうなら、姉ちゃんたちを誘ってやってみるのもいいかもしれない。


 道路から砂浜に降りる階段に座って花火を眺めていると、そのうち少年たちが輪になって座り込み、頭を寄せ合ってなにか相談を始めた。


 花火はもう終わりなのかな。それじゃ俺も帰るか。


 立ち上がると、ちょうど顔をあげた少年のひとりがこちらを見た。


「ねえちょっと! そこの兄ちゃん!」


「え? 俺?」


 他の少年たちもいっせいにこちらを見る。


「兄ちゃん魔法使える? できれば風魔法!」


 俺は階段を降りて子供たちに近づいた。


「どうして? 風魔法でなにをするんだ?」


 なんのことかと訊ねると、


「ボールを上に飛ばすんだよ!」


「この腕輪って補助魔法ブレス?」


「風魔法できる?」


「高いとこに飛ばせる?」


 口ぐちにわーっと喋られて、俺は両手で宥める。


「待って待って。風でボールを飛ばすの?」


「そう! 投げたボールを上までびゅっと飛ばすの」


 最初に声をかけてきた少年が、人の輪の中心を目線で示した。


 ガシャポンの殻のような二つに割れた球体の中に、仲間の男の子が火薬のようなものを詰める作業をしている。周囲にはほぐした花火の残骸がいくつも転がっていた。


「えっ、花火?」


「そうだよ!」


 って、めっちゃ得意げな顔をしている少年たち。いや、これあかんやつでしょ!


「これ火薬だよね、改造花火なんて危ないだろ?」


「ううん火薬じゃないってば。光砂(ひかりすな)だから大丈夫だよ!」


「光砂?」


「知らないの?」


「俺、渡り人だからよくわからないんだ。光砂ってなにか訊いてもいい?」


 俺が答えると、少年たちは顔を見合わせて頷いた。


「光砂っていうのは、光魔法の力を吸わせた砂のことだよ。強い魔法の力を与えると弾けて光るんだ」


 うん? つまり魔法の力に反応する火薬的な感じか?


「光るだけ?」


「だって光魔法だもん」


「それって他の魔法だと他の効果があるってこと?」


 子供たちは呆れた顔をする。


「兄ちゃん、ランタン使ったことないの? あれ火の魔石入ってるでしょ」


「蛇口にも水の魔石入ってるよね!」


 あれ? あれれ? 魔石?


「えっと、つまりその砂ってもしかして光の魔石を粉にしたものなの?」


「違うよ、普通の魔石砂」


 またわからん単語出てきた。俺がハテナマークを飛ばしまくってるのがわかったのだろう。子供たちは哀れなものを見るような目をした。やめて、ハートに突き刺さる。


「普通の魔石砂をお店で買ってきてね、神殿に行って礼拝のフリしてこっそり光魔法の力を吸わせるんだ。バレると怒られちゃうから。そんで、光魔法の力が入った魔石砂に金属の粉とかいろいろ混ぜて色が出るようにしたのがこの花火なんだよ」


 おお、わかりやすい。


「その魔石砂って大きいままの石も売ってる?」


「売ってるけど目ん玉飛び出るような値段だよ」


「大きい石は強くて硬いから弾けないよ」


「飾る以外何の役にも立たないよね」


 いやいや。ものすごく大事な情報だよそれ。


「ありがとう、わかったよ。それじゃ、その花火を風魔法で高いところまで飛ばせばいいんだな」


「うん!」


 作業をしていた少年が球形にぐるりとテープを巻いて「完成!」と叫んだ。周囲の少年たちがわーっと手を叩く。


「それじゃ、兄ちゃん。俺がこれを上に投げるから風魔法で上に飛ばして! 素早くやらないとその風魔法に反応して低い場所で弾けちゃうから、ビュッとやってねビュッと!」


「オッケー!」


 わくわくした顔の少年たちに囲まれて、身構えて待つ。


「いくぞー!」


 少年が大きく振りかぶって花火を投げた。


「突風!」


 俺は最大速度の風で球体を上方へ飛ばす。あっという間にそれは小さくなり、そして、


 パアアァン!


 空中で弾けた。


 色とりどりの、光の粒が夜空に丸く広がる。


「やったあーー!!」


「成功だーー!!」


 キラキラと光る星が尾を引いて消えていく。少年たちはぴょんぴょんと飛び上がって、歓声をあげた。



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