77.西5境界戦(2)
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「聖なる……」
回る視界に目を瞑って、俺は状態異常回復を自分にかけようとしたが、その瞬間、強い衝撃とともに身体が宙に投げ出されていた。
「ぐあっ」
固い岩場に背中を打ちつけてやっと、自分がカエルの体当たりを受けたのだと気づく。そして焦点の合わない目がさらに攻撃を加えようとこちらに迫るカエルの姿を映した。うえっ。
「くそ!」
耕助さんが俺の前に立った。
カエルが彼の大楯に肩から身体を打ちつける。感覚異常で万全ではない耕助さんの大楯は堪えきれずに身体ごと弾き飛ばされてしまった。
「風!」
俺は補助魔法ブレスレットの風魔法をクッション状態にして耕助さんを受け止めた。
カエルの背に魔法の矢が続けて打ち込まれる。姉ちゃんだ。さらにこちらへ向かってこようとしていたカエルはそちらへ方向転換した。
「こっちよ!」
迎え撃つようにデイジーさんが双剣で斬りかかり、陽南さんがハンマーで一撃入れる。
「聖なる癒し!」
三人がカエルを俺たちから引き離してくれている間に、俺は急いで自分と耕助さん、そしてまだ回復してない様子のヒカリに状態異常回復の聖霊魔法をかける。
これは通常回復と状態異常系の回復がオールインワンになった便利呪文だが、単体に作用するものなので一人ずつ処置しなくてはいけない。こういう時もどかしい。
「きゃっ」
デイジーさんの身体がカエルの体当たりで後方に転がる。重ねて攻撃を加えようとしたところを、
「挑発!」
耕助さんが前に出てヘイトを買った。カエルが振り向きざま、太く長い舌を飛ばした。まっすぐにすごいスピードで迫ったそれを、耕助さんは今度はしっかり構えた大楯で弾いた。ゴイン、と重たいものをぶつけたような音がする。
耕助さんが舌打ちをした。
「雷耐性もあるのか!」
どうやら大楯から出た雷魔法が効かなかったようだ。
カエルの舌が跳ね返って宙を舞う。その背後から陽南さんとデイジーさんが攻撃すると、伸びたままの舌がぐいっと方向を変え、真横から弧を描いて二人へ向かった。
「アイスっ!」
舌を白く光るビームが貫いた。姉ちゃんの氷魔法だ。
「グエッ!」
カエルが悲鳴をあげる。制御を失ってたわんだ舌に、ヒカリが長剣を一閃させた。
「よっしゃ!」
切断された舌がふっ飛ぶ。
そこへ俺が踏み込んでデスサイズをスイングさせる。カエルが上方を向いた。
ボエーーーーーー!!
「うっ」
あの変な咆哮。
思わずひるんだところに体当たりをされて、俺とヒカリは後方に吹っ飛んだ。
「銀矢の雨!」
追撃しようとしたカエルに姉ちゃんの大技が炸裂し、鋭くとがった氷の雨が降り注ぐ。
苦しげに身体を捩ったカエルは姉ちゃんの方を向くと口から何か大きな白い塊を飛ばした。
「きゃっ」
姉ちゃんが避けようとしてよろめく。咆哮の感覚異常を回復せずに大技の詠唱を優先してたみたいだ。白い塊が姉ちゃんの身体に巻きついて両腕を拘束する。
「なにこれ!」
カエルが今度は姉ちゃんに体当たりしようとして、それを陽南さんがハンマーで阻止する。
「こっちだ!」
すぐに耕助さんが挑発スキルでカエルを姉ちゃんたちから引き離した。
「これゴムみたい! 取れない!」
白いものを引っ張ったデイジーさんが双剣でそれを切り始める。俺は自分とヒカリに状態異常回復をかけた。
なんかこのカエル、むかつくなあ。
こいつはどうやら一度ぶっ飛ばした相手に再度攻撃を加える習性があるようだ。それから、回復要員を狙ってくるところ。性格が悪い。
「うおりゃあ!」
陽南さんがハンマーをスイングさせるが、打ち込む直前のタイミングで体当たりを受けて吹っ飛ばされた。起き上がる前に追撃の舌が飛んでくる。間に入った耕助さんが弾いた。
「舌が再生したのか!」
背後から斬りかかっていた俺とヒカリはターンして襲ってきた舌に薙ぎ払われる。
「やっと取れた!」
デイジーさんが白いゴムを全部切って、姉ちゃんを解放した。今度はそのデイジーさんに向かって舌が伸びる。
「こんのー!」
姉ちゃんが魔法水銃から発射した氷で舌を弾き飛ばし、それをデイジーさんがすかさず双剣で切断した。長い舌が地面に落ちてビクビクと動く。
カエルが上を向いた。
「咆哮がくるぞ!」
「させるかあっ!」
陽南さんがハンマーを振りかぶる。
「鉄打!」
ボエーーーーーー!!
陽南さんの大技とカエルの咆哮はほぼ同時だった。
「なにっ」
大技がキャンセルされた。咆哮にそういう効果があるのかもしれない。
咆哮をくらって動けなくなった陽南さんとその後方にいたヒカリが体当たりでぶっ飛ばされた。
「くそ、あの咆哮をどうにかしねえと」
俺の状態異常回復を受けながら耕助さんが言った。
「開始から防戦一方で、このままじゃジリ貧だ」
「そうですね」
たしかに今回は戦いのペースも速くて、こちらばかりが消耗していく感じがする。おそらく長引くほど不利になる。
俺はウィンドウを操作してデスサイズを魔導書『眠れる銀の書』に持ち替えた。
ほんとは使うつもりはなかったけど、今回に限っては魔法使いの方が相性がいい。あのカエルに対していくつか有効な手段が存在する。
耕助さんが怪訝そうに首を傾げる。
「本?」
「ブック型の魔法具です。とりあえず咆哮は任せてください」
「そうか、頼む」
俺は頷いて、魔導書を開いた。あのカエル、なんとかして止めてみせるぞ。
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