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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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76.西5境界戦(1)

いつもありがとうございます。

 剣道の全国大会が終わった。


 一緒に出場した三年生の先輩は四位入賞で、俺はベスト16止まりだった。


 大学一年にしては健闘した部類だけどやっぱり負けたのは悔しくて、ちょっと泣いてしまった。先輩と一緒にしょんぼりしていたら開催場所の金沢までわざわざ観に来てくれた円堂先生が回らないお寿司をご馳走してくれた。涙も一瞬で乾くようなとろけるようなお味でした。


「これでまた心置きなくオビクロできるよ」


 大学の学食で、ヒカリもとい樋口弟に金沢土産の栗甘納豆を手渡す。これ美味しいんだよな。


「待て。なに全部終わりましたって顔してんの。前期試験が目の前に迫ってるだろ」


「あー」


 そういえば、そんなものもありましたっけね。


 彼は顔を顰めた。


「余裕じゃん。大丈夫なのか?」


「先輩のノートだいたい揃ってるし、俺取ってるの資料持ち込み可の科目も多いから」


 こういう時、体育会系の先輩って頼りになるよな。


「くそ……俺も試験前だけサークル入りたい」


「それみんなよく言ってる」




 ヒカリがそんな調子だったので、結局樋口兄の教育的指導により西5への境界戦は大学の前期試験が終わるまで延期された。


 そしてようやく自由の身になった俺とヒカリは、いつものゴーグル団メンバーとともに境界の魔物がいる西4エリア南端の岩山にやってくることができた。


 仕入れた情報通りのルートで登っていくと、岩と岩の間の見つけづらい場所に人ひとりくらいが入れる穴がある。


 中には四畳ほどの空間とどこか別の場所へ続く通路があって、その先が境界の魔物がいる空間だそうだ。


「相手はでかいカエルだって。素早いから動きを封じるのが肝とか聞いたな」


 陽南さんが言った。


 西5開通からかなり時間が経っているにもかかわらず、クリアしたプレイヤーは多くないらしい。難敵ってことだ。


「岩場に住んでるカエルって何属性だ?」


 耕助さんが首を傾げる。


「攻撃に火属性の技を使うって。毒は使わないけど耐性はあるらしい」


 カエルにありがちな設定ではない。


「かといって、水に弱いとは考えにくいな。まずは無難に土つけておくか」


 耕助さんが陽南さんとデイジーさんの武器に土属性を付与した。自分の大楯には雷属性だ。


 ヒカリには俺が土属性をつけた。自分のデスサイズにはいつもの氷属性だ。下手に属性の相剋がないから使い勝手がいいんだよな。


 姉ちゃんは新武器の魔法水銃だから付与はなし。いちおう火風土水と氷聖の六属性を使えるそうだ。


 俺はみんなに新開発したレモン味のタブレットを三個ずつ配った。効果はSTR+30、小さいから戦闘の合間に継続使用できる。


 そして今日の俺は陽南さんとデイジーさんが作ってくれた新装備を身につけていた。


 前の雰囲気を踏襲して黒いスタンドカラーのハーフコートにブラックジーンズ、中も黒い長袖Tシャツだ。


 それから今回は陽南さんに鎧も用意してもらった。


 前回のゴーレム戦で、一撃で残りギリギリのダメージを負ってしまったことが気にかかっていたからだ。それで今まであまり気にしてなかったけど、きちんと防御装備を見直した方がいいと思ったのだ。


 そのことを陽南さんに相談したら「いや、今さら言い出したことの方が驚きだわ!」と突っ込まれてしまったのだけど。


 鎧は最小パーツで作ってもらった。片胸だけの胸当てと両腕の肘当てをTシャツの上につけてコートで隠すようになっていて、手甲と膝当ては手袋やジーンズの上に着け、甲懸はリング状のものを足首に嵌めるだけになっている。見える場所のものは、服に色を寄せているのでほとんど目立たない。頭はゴーグルを頭部防具に指定して、これで全身鎧と同じ防御力になっているそうだ。


「現実だったら守りたい場所はギチギチに覆わないとダメだけど、ゲーム内はコスプレを意識しているから、製作者が上半身用の鎧って設定したらたとえビキニを着ていても効果は上半身全体に及ぶんだ」


 そんなふうに陽南さんは説明してくれた。コスプレっぽい鎧とか苦手だから、こうやって普通の服に近い形になるよう考えてくれたのは助かる。


 仕上げにデイジーさんが作ってくれた、狼のシルエットを模した白銀色のブローチをつける。わあい銀雪さんだよ!


 準備が整ったところで俺たちは通路を進んで、岩の内部を大きくくり抜いたような空間に出た。


 外の景色はまったく見えない。本来なら真っ暗になるはずの場所だが、なぜか高い位置に篝火がいくつか設置してあってそこそこの明るさがある。モンスターしか住んでない場所なのに親切設計だよな。


 境界の魔物は目を閉じてそこに静かに座っていた。事前情報通りの巨大なカエルである。


【ウェスフォース南の境界『暗き岩屋の番人』との戦闘を開始しますか? Yes/No】


 耕助さんがYesを押した。


 カエルのまぶたがゆっくりとあがってゆく。


 いや、こういう生物って大きいだけでも怖いのに、目の虹彩が縦っていうのがもうね、嫌なんだよ。身体の色は茶色一色でガマガエルっぽい。海外の毒ガエルみたいに赤とか青の原色で変な模様がついてなくて良かった。あれ生理的に無理だから!


「油断するなよ」


 敵はどう出るか。耕助さんが一歩前に出て大楯を構える。俺もデスサイズをぐっと握りしめた。


 カエルが喉をビクビクさせたかと思うと、少し上を向いた。


 ボエーーーーーー!!


「うっ!」


 空気が嫌な感じに震えた。おそらく咆哮なんだろうけど、音じゃなくて振動に近い。


 耳の中で虫が鳴くような音がして視界がぐらぐらと揺れた。ウィンドウに感覚異常マークが出る。これ攻撃だったのか!



評価・ブックマークをつけてくださった方、ありがとうございます。励みになります。

誤字脱字のお知らせもありがとうございました。見直しているつもりなんですが意外とあるみたいで、いつも助かっています。

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