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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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8.姉ちゃんの友達

いつも読んでくださってありがとうございます。

 夜は姉ちゃんが帰ってくるのを待ってログイン。


 まずは冒険者ギルドに行って常設クエストの納品をする。余った素材は食材になるものを除いてNPCの商店に売った。


 現在の所持金は33,000コルト。


 街を歩くプレイヤーを見ていると、まずは革製の防具か新しい衣装を手に入れてる人が多いようだ。


 俺はまず自分の武器を手に入れることが優先なんだけど。


「カイくんはやっぱり剣が欲しいの?」


 通りすがりの店のショーウィンドウにある武器をチェックしていたら姉ちゃんに訊かれた。


「いや、……変な癖がつくと困るから槍とか薙刀みたいのがいいかなって」


 大学に入っても剣道は続けるつもりだから、現実の感覚が狂うようなことは避けたい。


「殴りをグレードアップするならハンマーなんてのもありじゃない?」


 姉ちゃんがシュッシュッとスパーリングの手振りをしている。やけにさまになってるけど、この人殴りたい上司とかいんのかな。


 俺たちは店を冷やかしながら共同工房に向かった。


 実は姉ちゃんが、唯一会社で協力関係になった同僚がいるから紹介したいと言い出したのだ。


「カイくんも前に会ったことあると思うんだけど、東山有理紗ちゃんって覚えてないかな?」


 俺が知ってる姉ちゃん関係者といえば、自宅に遊びに来たことがある人だろうな。


「姉ちゃんが高校生の時に文化祭かなんかの衣装作りに来てた?」


「そうそう。高校の後輩。大学は別だったんだけど会社でまた一緒になったの」


 顔を思い出そうとしたが10年近く前のことだ、ぼんやりとしたイメージしか残っていない。俺なんかまだ小学校低学年の頃だし。


 まあ本人に会えば思い出すだろう。



 

「先輩いらっしゃい。それに海くんも大きくなったねー」


 工房のひとつで出迎えてくれたのは、明るいふわふわの茶髪と鮮やかな緑の瞳の優しそうなお姉さんだった。


 って、全然わからない。こんな人いたっけ?


 笑顔の裏で冷や汗をかいていたが、姉ちゃんの一言で疑問は解決した。


「有理紗ちゃんまったくの別人ね。びっくりしちゃった」


 別人レベルで違うんかい。


 彼女はいたずらが成功したような笑みを浮かべた。


「アバターに自分の生体データを使ってないんです。なるべくNPCっぽく見えるように、姿も声もゲームに付属してたデフォルトアバターを調整したので」


「NPCプレイ?」


「やっぱりモブを隠すならモブの中かなって。NPCに紛れて生産職プレイをするつもりで、名前も『デイジー』です、NPCにいかにもありがちな感じで」


 この人も姉ちゃんと違うベクトルで潜伏への熱意を感じる。


 でも生産職なら商売でいろんな人に会うだろうし、会社関係者から隠れるならかなり有効な手段ともいえるな。


「デイジーちゃんはやっぱり裁縫師?」


 工房の中の使いかけのミシンを見て姉ちゃんが訊ねた。


「勿論ですよー! ここなら本格コスプレ衣装作り放題じゃないですか。しかもヒラヒラや装飾が戦闘の邪魔をしない神仕様! もう作るしかありません!」


 あ、そっち系の職人さんでしたか。そりゃ裏の顔で会社の連中とは仲良くしたくねえよな。


「あと彫金もとってアクセサリーなんかも作るつもりです。お二人に着て欲しい服、いろいろ考えてるので任せてくださいね」


 おお、行きつけの生産職ゲットだ。


「できれば顔を隠せる服がいいんだけど」


 姉ちゃんの言葉にデイジーさんはちょっと難しい表情になった。


「あんまり隠しすぎても逆に怪しまれて特定されてしまうかもしれませんよ」


「そうなの?」


 姉ちゃんは驚いてるけど、なるほど、そういう考え方もあるよな。


「たしかに顔隠してる社員、多そうだよね」


「それが逆に目印になっちゃうってこと?」


 それは困る、と姉ちゃんは顔を顰めた。


「挙動不審が一番人目を引くんですよ。だから誰に会っても知らん顔で堂々としていたらいいです」


 ドヤ顔で言い切るデイジーさん。


 なんかこの人、大物の匂いがするぞ。


「GK社の人たちってなんか社員全員で隠れんぼしてるみたいだね」


 俺が思わず漏らすと、二人は顔を見合わせて首を横に振った。


「そうでもないわよ。若い女子社員なんか結構顔出してやる気いっぱいの子も多いわよ」


「そうそう。社内で狙ってる男子がいる子たちはね。『ゲーム初めてなんです一緒にプレイしてくださーい』って」


「うわ、めんどくせえな」


「でも社内人気ツートップっていわれてる営業部の古賀部長や樋口さんはお忍び派らしくて、今女子たちが血眼で探してるみたい。まだこの近辺にいるうちに捕獲しないと、だって」


「こわっ!」


 捕獲ってなに狩りに来てるんだよ、お気の毒に。知らない人だけど思わず合掌。


「ところで先輩、これ試作品なんですけど着てみませんか?」


 デイジーさんが傍の机から折り畳まれた布を手に取って姉ちゃんに渡した。


「わあ可愛い!」


 広げてみるとフード付きのマントだった。現在の初期装備のベージュ色に馴染むくすんだピンク色で、フードには猫耳がついている。


「まだ私も駆け出しレベルなので能力の加算はつけられないんですけど、ちょっとだけ顔が分かりにくいかなって」


「すごく素敵! ありがとう!」


 デイジーさんすごいな。この猫耳、よくわかってらっしゃる。この三角錐ふたつを付けただけなのに、小さい女の子が着るとどうしてこんなに愛らしくなるんだろう。


「お代はいくら?」


「まだ相場がはっきり定まってないから今回はお試しの3,000コルトくらいで」


「待って」


 ウィンドウを操作しようとした姉ちゃんの手を俺は押しとどめた。


「俺が払うよ。姉ちゃん最高に似合ってるからプレゼントする」


 姉ちゃんが頬を真っ赤にしてぱああっと満面の笑顔になった。


「ありがとうカイくん!」


 あーもうお花がいっぱい飛んでるよ。姉ちゃんのその顔が見られただけで俺は満足です。


「姉ちゃんに可愛い服いっぱいお願いしますね」


「はい! 楽しみにしててください!」


 デイジーさんが胸を叩いて笑った。


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(2023.1.9修正)改行を一部変更しました。

(2023.1.11修正)表記ミスを修正しました。

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