72.武器引換券
いつもありがとうございます。新年度ですね。忙しない時期ですが、みなさんご自愛ください。
翌日は久しぶりにマイルームへのログインだった。このところ公爵家で目覚めていたからちょっと懐かしい感じだ。
しばらくバタついていたせいか、クランハウスに来たら腰が重くて動けなくなってしまった。疲れたんだろうな……。
「俺もレイド参加したかった」
おやつを食べてダラダラしてる俺の目の前で、ヒカリが小さな銀雪を撫でながら拗ねている。
「十分以内に来いっていうの、なかなか難しいよな」
「俺西3にいたもん。どうやっても無理」
正直俺も、よくあれだけの人数が集まったものだと思う。結果的にあの人数に助けられたわけだが。
「そういえばレイドで無敵かけてた白狼、カイの従魔だって噂あるよな」
「いま手の中にいるでしょ」
「えっ」
ヒカリは両手の中でモゾモゾしている銀雪を見た。
「……大きさが変わるモンスター?」
「いやいや」
俺はヒカリにテイマーズアミュレットのことを話した。獣人専用の店に迷惑をかけてはいけないから、ハウエル魔法具店の部分だけは省いて。
「え、それなら早く従魔手に入れて信頼の積み重ねを始めないと駄目じゃん」
「ヒカリは従魔に興味なかったの?」
わりと新しいことにも詳しいヒカリが手を出してないなんて珍しいな、と思ったら。
「いや、最近流行り始めた話だから各種出揃ってから比較して決めるつもりだった」
わあ、しっかりしてる!
「兄貴はどうするかな……相談してみないと」
「相談?」
「兄貴が地面走るやつなら俺は鳥系にした方がいいし。利便性を考えると」
えー、ものを考えるタイプの人ってこういう選び方をするのか。
本能で動いてる俺や姉ちゃんとは大違いだな。自分が考えなしみたいでちょっとへこむ。あ、でも俺が狼で姉ちゃんは大鷲だから結果オーライですよね……。
そんなことをつらつら考えていたら、姉ちゃんがログインしてきた。
「カイくん、夜鳩商会へ行くわよ!」
やけに張り切ってるぞ。
「あー、センリさんに報告行かなくちゃいけなかったね……」
「そうじゃなくて! 新しい武器を探しに行くわよ!」
ああ、報酬でもらったあの武器と防具の引換券か。俺は今のところ別段欲しいものはないから、しばらく様子見しようと思ってたんだけど。
「………………バズーカ?」
小さな声でつぶやいたら、姉ちゃんは大きく頷いた。
「わたしもああいうのが欲しいの! あるかどうかわからないけど行ってみましょう!」
デスヨネー。言うと思ったわー。
「いってらっしゃーい」
手を振るヒカリに見送られ、俺は銀雪をマイルームに置いて、姉ちゃんはブランを連れて二人と一匹で西4の夜鳩商会に出かけた。従魔専用待合室にブランを預けて店内に入る。
センリ氏はあいにく留守だったので店員さんに武器の希望を伝えていると、お店に斬鉄団の人たちが入ってきた。
「お、カイさんネムさん、お疲れ!」
「お疲れさまです」
彼らも引換券で装備を見繕いにきたとのことで、俺たちは装備担当の店員さんに連れられて一緒に別室に向かった。
「打ち上げは行かれたんですか?」
階段をのぼりながらなんとなく隣にいた蒼刃さんに訊ねる。
「いや。あの後すぐアナベル様を神殿まで護衛することになって」
「え、夜中にですか?」
「うん、国王様の使者が来る前にすぐ出発しなくちゃいけないって話で」
悪役令嬢のゴドウィン侯爵令嬢が妃選びを辞退したいま、国王陛下のお赦しを受け取ってしまったらアナベル様が王太子妃に決まる可能性が高い。だからその前に神殿に入ってしまわないといけなかったそうだ。
「あれから星見の塔まで行くのはハードスケジュールでしたね」
そう答えると、蒼刃さんは驚いたような顔で瞬きをした。
「……カイさん、アルケナ神殿の場所知ってたんですか」
しまった。口が滑った。
「あー、俺もアルケナ教徒なので」
隠すことではないけど吹聴することでもないんだよな。気をつけなきゃ。
「斬鉄団の皆さんは向こうで洗礼とか受けてきました?」
なにか訊かれる前にこちらから質問しておく。
「ああ、それ」
蒼刃さんは小さく頷いた。
「古義と唐竹が受けたよ。カリウムとロウはクラディス教だし、俺は迷ったけど北国の宗教の魔法スキルがどうなるのか気になってしまって」
たしかに、変更できない選択だから後で知って後悔したくないよな。蒼刃さんは付与持ちだから余計慎重になるんだろう。
「ここだけの話ですけど、雷魔法ですよ」
そっと声をひそめて告げる。
「……まじ?」
「まじで」
「うっし!」
蒼刃さんは小さくガッツポーズをした。
「俺、大勝利! 欲しかったんだよ雷! よし、頑張って北国行くぞ!」
「ははは……」
北国って大陸をぐるっと回って最後に行く予定の国ですけどねえ。まあ耕助さんみたいな例もあるから、蒼刃さんが早く北国の祭司に巡り会えるように祈っておこう。
店員さんに案内されたのは、武道場のような広い部屋だった。
訓練用の人形とか的が並ぶ部屋の一角に大きなテーブルが置いてあって、そこにそれぞれが希望した大剣や長剣、金属製の鎧や銃火器が何種類も運ばれてきて並べられる。
「バズーカとか今までほとんど見たことなかったけど、お店に普通に売ってるものだったんだな」
ロウさんがこぼした感想に、店員さんは「いいえ」と首を振った。
「これらの飛び道具は生産がないので、各国のダンジョンで発見されたものを買い付けております。現品限りのレア商品ですよ」
「えっ、そうなのか。ダンジョンで……」
「当商会では買取もおこなっておりますので、珍しいドロップ品はぜひお声がけください」
すかさず宣伝が入るところが商人なんだよな。
「あの、試し撃ちってできます?」
姉ちゃんがウキウキと訊ねた。
「はい、そちらの的でどうぞ。試し斬りはあちらで」
店員さんが室内の設備を案内して、武器の使い方の指導までしてくれる。なんでもこの部屋は防御魔法が幾重にもかかっていて、銃火器や魔法の試し撃ちができる部屋なのだそうだ。
姉ちゃんが武器を試しながら斬鉄団の人たちとああでもないこうでもないと談議しているのを少し離れて眺めていると、入店時に最初に応対してくれた店員さんがやってきて、センリ氏が出勤したことを教えてくれた。
「ちょっと外すね」
姉ちゃんたちにひと声かけて、俺は商会長のオフィスに向かった。
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