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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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69.首飾り盗難事件レイド戦(3)

いつもありがとうございます。

「大技を打つ前に合図をくれ」


 そういう耕助さんと古義さんにはなにか策があるのだろう。二人は俺のいる場所とは直角の、ゴーレムの真横に渡された足場へと走っていった。


 俺はデスサイズを構えてチャージに入る。


 うまくいってくれよ。このクエスト、少しくらい戦闘がないといけないと思って召喚したのに、自作自演の挙句に敗北だなんてまったく笑えない。


 チャージが終わる。俺は合図でくるりと一回デスサイズを回すと叫んだ。


天裁(ジャッジメント)!」


 狙いを定めてデスサイズを振り下ろしたその瞬間だった。


 正面を向いて戦っていたゴーレムが突然身体ごと横を向いた。


「えっ」


 標的が動いた。間に合わない。修正できない!


 ドオオオォン! と轟音とともに天から石化の白雷が降り注ぐ。


「外したか!」


 俺は思わず叫んだ。光の中に目を凝らす。


 ゴーレムは、全身の右半分だけしか石になっていなかった。


 いや、違う。その視線の先には古義さんと耕助さんがいる。二人が挑発スキルを使っている。


「……わざと半分にした……?」


 ゴーレムが突然自由がきかなくなった身を捩る。石になったゴーレムの半身部分が滑る泥の上で支えもなくずるりと後方に倒れた。


「ああっ……!」


 プレイヤーたちが声をあげる。


 ゴーレムの、残った泥の部分だけがその場に立っていた。身体を縦半分にした断面があらわになっている。そしてそのへその下あたりに大ぶりの紫色の魔石が露出していた。


「見えたーーー!!」


 みんなが口々に叫んだ。


「核だ! あれを壊せ!」


 蒼刃さんが声を張り上げる。


 近接も遠距離も魔法使いも前に駆け寄って、一斉に攻撃を開始した。ゴーレムは足が一本で移動もできず、核の部分を泥で覆い隠そうとするが修復が間に合わない。泥で隠れては崩し、隠れては崩しの攻防が続く。


 古義さんがおもむろに大剣を構えた。身の丈ほどもある刃が光を帯びてくる。気づいたプレイヤーたちが彼の前を開けた。


 大剣に光の柱が立つ。


「行けえ!!」


 プレイヤーたちが叫んだ。


金剛破砕斬(ダイアモンドブラスト)!」


 彼が放った技は一直線にゴーレムに向かい、腹部を両断した。光の中で核が粉々に砕け散ったのが見えた。




 ポーンと電子音が鳴った。


【戦闘終了です。あなたがたはレイドモンスター『アットウェル伯爵邸の毒泥人形』の討伐に成功しました。30秒後に通常空間に戻ります】


「やったあああぁ!」


「ヨッシャアア!!」


 プレイヤーたちから歓声があがった。もう誰彼なしにそこらの人間とハイタッチし、ハグをして快哉を叫んでいる。


 ゴーレムの姿はもはや形もなくそこには泥の山が残されているだけだったが、足元に広がった沼とともにキラキラエフェクトで消えていった。


「カイくん! やったね!」


 姉ちゃんとマリエルが銀雪を連れて駆けてくる。耕助さんが俺の背中をバンバンと叩いて「やったな、お疲れさん」と言った。


「あれ、ミリアさんは?」


「さっきの噴射一回目で落ちてしまったわ」


 マリエルが教えてくれた。


「そっか……」


 あの人戦闘狂っぽいからきっと悔しがってるだろうな。


 開始時あんなにたくさんいたはずのプレイヤーは、結局俺を含めて十九人になっていた。ハッ、まさか二十人でやっつけるってこういう意味だったのか?


 何はともあれ、倒せてよかった。嫌な汗かいたけど、これだけ激闘すれば今までのグダグダはなんとか誤魔化せるだろう。終わりよければすべてよしだ。


 視界がぐるりと回る。通常空間に戻ってきたようだ。




 俺たちは伯爵家の中庭に立っていた。さっきまでの光景が嘘みたいに綺麗な庭園の中に、戦闘後でボロボロのプレイヤーたちが集まっている。


 え、これ伯爵邸の人たちに不審に思われないんだろうか。


 そう思って振り返ると、屋敷の玄関は大きく開け放たれて騎士団の制服を着た人たちが何人も出入りしていた。そうか、レイドやってる間に伯爵は拘束されたのか。


「お疲れさん!」


 戦闘中に死に戻ったレイド参加者たちがたくさん集まってきていて、拍手で生き残ったプレイヤーの健闘を讃えてくれた。


 俺にも知らないプレイヤーたちが笑顔で次々と肩や背中を叩いて「お疲れ!」と言ってくれる。


「冒険者さん!」


 庭の騒ぎに気づいて屋敷の中からバートン公爵が出てきた。古義さんがプレイヤーたちの中から進み出る。


「公爵様、首飾りはこの屋敷の礼拝堂から発見しました」


 古義さんの後に続いた唐竹さんがインベントリから上品な布に包まれた首飾りを出して公爵に手渡した。公爵はそっと中身を改めると小さく頷いた。


「ありがとうございました。皆様には心よりお礼を申し上げます。この御恩は忘れません」


 公爵様が胸に手を当てて貴族の礼を取る。


 電子音がして、ウィンドウに報酬のお知らせが出た。


 緊急レイドバトルの報酬100万コルト、毒耐性スキル(いらないけど)、最高級ポーションHPとMPそれぞれ20本セット、蘇生薬1本、それに毒属性の紫の魔石。


 蘇生薬がかなりレアらしく、プレイヤーたちがざわめいている。これらは途中で落ちた参加者にも配布されているようだ。


 それから公爵家首飾り奪還クエストの報酬。ん? 俺ももらえるの?


 こちらも100万コルト、夜鳩商会で使える武器引換券、同じく夜鳩商会で使える防具引換券。これは例の四パーティ全員に配られているようだ。


 豪華報酬にしてお茶を濁すみたいなこと芦田さんが言ってたからきっと良い物なんだろう。


 エリザベス⭐︎さんがこちらにやってきた。


「これから打ち上げでみんなで飲みに行こうって話になってるけど行きませんか?」


「クエストって終了したんですか?」


「うん。報酬出たし」


 ああ、なるほど。たしかに首飾り奪還クエスト完了って書いてあるな。でも俺たちは料理人クエストがまだ終わってないんだよな。


「俺は公爵家に戻らないといけないので遠慮しておきます。あ、姉ちゃん行きたかったら構わないよ」


 後半は隣にいる姉ちゃんに向けて言ったんだけど、彼女は首を横に振った。


「わたしもブラン預けたままだし、公爵家に戻るわ」


「俺は参加するよ」


 耕助さんが言った。マリエルも頷いている。


「それじゃ、お疲れ様でした」


「カイ君もまたね」


 人の輪の中に入っていく三人に手を振って見送ると、俺たちも公爵家に向かって歩き始めた。




 途中で銀雪をマイルームに帰して公爵家に戻った俺たちに、執事のセバスチャン氏は臨時料理人クエストの終了を告げた。


「王太子殿下が代わりの料理人を紹介してくださいましたので、これにて業務終了となります。カイさん、ネムさん、短い間でしたがどうもありがとうございました」


「こちらこそお世話になりました」


 セバスチャン氏に合わせて俺と姉ちゃんも頭を下げる。


「お帰りの前に旦那様からお話があるそうです。しばしお待ちください」


 そう言われて、厨房で公爵様が伯爵邸から帰ってくるのを待つことになった。


 アットウェル伯爵は騎士団にしょっ引かれて行ったので、夕食の片付けはすっかり終わっている。


 セバスチャン氏が紅茶を淹れてくれたので、座って飲みながら姉ちゃんに銀雪のテイマーズアミュレットの説明をしていると、アナベル様がやってきた。


「夜鳩商会に戻られるそうですね」


 立ちあがろうとしたところを制止され、アナベル様は俺たちの横に椅子を引っ張ってきて座った。


「今までありがとう。カイさんとネムさんには本当にたくさんの勇気を分けていただきました」


「お役に立てたなら何よりです」


 アナベル様は最初にお会いした時とは比べものにならない晴々とした表情をしていた。


「首飾りも無事に戻って、これで建国記念式典も安心ですね」


 姉ちゃんが言ったが、しかしアナベル様は首を横に振った。


「私、建国記念式典には出ません」


「えっ?」


「今回のことは親族が起こした事件です。私も騒動の責任を取ってしばらくの間神殿に入ることにしました。妃候補を辞退する良い口実ができたと思っています」


 そういえば、運営の用意した王太子妃は彼女ではなかった。


「メリッサ様のために?」


 アナベル様は静かに微笑んだ。


「おそらく国王陛下はすぐにお赦しをくださるでしょうけど、少なくとも殿下とメリッサの婚礼が終わるまでは隠れているつもりです」


 彼女は大好きな親友の幸せを祈る優しい眼差しで言った。


「アナベル、ここにいたのか。ああ、夜鳩商会さんも」


 公爵様がやってきた。俺たちは立ち上がって頭を下げた。


「二人にはアナベルが世話になった。礼を言う」


 今度は公爵様が頭を下げたので俺たちは慌ててしまった。


「そんな、勿体ない」


「いや、アルセイネの同胞としても本当に感謝している。それで神の遣わされたアナベルの兄弟にこれを渡しておこうと思ってな」


 そう言って、公爵様は俺に無骨な銀色の指輪をくれた。見れば、公爵家の紋章が入っている。おお。


「なにか困ったことがあればこのバートン公爵家が力になる。この指輪もきっと役に立つはずだ。持っていてくれ」


「お心遣いに感謝します」


 指輪を握りしめて、俺は頭を下げた。


 ウィンドウに報酬のお知らせが出た。30万コルトとDEX+50の包丁セット。


「公爵様もアナベル様もどうぞお元気で。これからのご無事とご活躍をお祈りしております」


「ありがとう。君たちも元気で」


「さようなら」


 俺たちは公爵様とアナベル様に別れを告げて、公爵家を出た。


「慌ただしかったけど結構面白かったわ」


 オレンジ色の灯りがともる静かな夜の貴族街を、ペタペタとブランを連れて歩きながら姉ちゃんが言う。


「そうだね」


 なんだかよくわからないクエストになってしまったけど、他のプレイヤーさんたちと共同でいろいろ活動したのは楽しかったな。


 これにて、臨時料理人クエストもとい夜鳩商会の諜報部員クエストは無事終了。




カイ【人族】Lv.32


【職業】

料理人Lv.41 (諜報部員LV.5)



HP 407

MP 308

STR 166(499)

VIT 110(331)

INT 64(193)

MND 74(223)

AGI 95

DEX 94

LUK 73

※()内は特定条件下における数値(最大の場合)


【スキル】(*は天職スキル)


料理* Lv.42

製菓 Lv.32

食材鑑定* Lv.24

飲食物鑑定* Lv.20

醸造Lv.11

時間操作Lv.14


大鎚術 LV.7

大鎌術Lv.19


火魔法* Lv.22

水魔法* Lv.26

風魔法 Lv.20

土魔法Lv.7

氷魔法 LV.14

闇魔法Lv.3

聖霊魔法Lv.3


毒使い Lv.30

気配遮断 LV.22

偽装 LV.12

隠密 LV.12

早着替え LV.12


付与 Lv.28

攻撃力UPLv.10

騎乗Lv.3



【称号】

・毒の申し子

・リンネ神の祝福 

・逆走組の先頭

・■■■■神の使徒

・第一回闘技大会個人の部優勝者

・アルケナ神の使徒


評価・ブックマークをありがとうございます。いつも励みになっています。

(2023.3.27修正)ステータス欄の計算ミスを修正しました。

(2023.3.30修正)少しわかりづらい表現を修正しました。

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