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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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68.首飾り盗難事件レイド戦(2)

いつもありがとうございます。

 付与を終えた人たちが攻撃を再開した。みんながゴーレムの方を見ていること確認すると、俺はウィンドウを操作して小さな銀雪を召喚した。


「えっ、カイくん? 今どこから」


「その話はあとで」


 姉ちゃんに答えて、銀雪をMAXで大きくする。


「はわわわ! 大人になっちゃった!」


 うん、塔のダンジョン以外で大きくしたことなかったもんな。姉ちゃん大きい銀雪は初見だっけ。


「銀雪、みんなの回復を手伝ってくれるか?」


 モフモフの耳を撫でて頼むと賢いうちの子は「ワフ」とお返事をしてくれた。銀雪は全体回復持ちだから役に立つはずだ。


「姉ちゃん、銀雪と一緒にいてくれる? 支援タイプなんだ」


「うん、わかった」


 斬鉄団が連れてきた狼たちは口から水や風の刃を出して足場に泥が落ちないようにしてくれている。ミリアとマリエルの豹たちはプレイヤーに当たりそうになった泥を撃ち落としていた。他のプレイヤーが連れてきた従魔も解毒や回復を手伝ったり、時々防御壁を出してくれてるのもいる。


 俺はMPポーションを飲むとデスサイズを担いで前線に戻る。


 みんな攻撃しては後ろへ戻り、回復をしてからまた前にといったパターンを繰り返しているので前線はずっとばたついている。何人かは戦いながらも補助魔法ブレスレットで周囲に光魔法で解毒と回復を振り撒いているから、即死するプレイヤーはほとんどいなくなったみたいだ。


 ゴーレムを大きく取り囲むようにして少しずつ足場が増えていってる。ゴーレムもゆっくりだが動いているので、プレイヤーたちはその時々で一番近い足場に行って攻撃しているようだ。地面を歩いて近づけないから、大体属性の攻撃を飛ばす技を当てている感じだ。時々、大技も出て身体を大きく削っている。


「アオーーーン!」


 銀雪の声が聞こえた。全体回復スキルだ。俺も二割ほど減っていたHPが回復する。うわあ、うちの子偉い!


「おおおっ」


 遠距離攻撃の氷バズーカがゴーレムの肩を貫いた。ひときわ大きく歓声があがる。


 だがゴーレムに痛覚はないのか、攻撃の手が緩むことはない。前に出たらゴーレムの平手が襲ってきたので手を頭脳線に沿って半分切り落としてやった。


 切断されて落ちた手が泥の沼に落ちた。あれ? 塊がずずずと動いてる。それは泥の沼の中を泳いでゴーレムの足に辿りつくと、そのまま吸収されて消えた。


 えええ……削った泥、本体に合流して復元してるよ。貫通した肩も手の平もまた泥で補充されてる。敵の体力ゲージは見えないけど、なんだか全然削れてる気がしない。


 自分で召喚しといて言うことじゃないけど、これどうやって倒したらいいんだ?


「みんな! 聞いてくれ!」


 古義さんが声を張り上げた。


「ゴーレムならどこかに核があるはずだ! 核を壊せば勝てる! 埋まっている場所を探してくれ!」


 なるほど、核が弱点なのか。そういう定石みたいなものがあるんだな。


 その言葉を聞いて、プレイヤーたちは核が埋まっていそうな身体の中央部分に攻撃を当て始めた。


 斬鉄団はさすが最前線を張るパーティだ。こうやってみんなを引っ張ってくれるリーダーがいてくれて本当に助かった。こんな凶悪な魔物、烏合の衆じゃ手も足も出ないもんな。


 身体を崩すのは土魔法の方が向いている。俺は腕の動きを邪魔する方に専念しよう。


岩穿斬(ロックスラッシュ)!」


旋回波(トルネードインパクト)!」


 みんなの大技の叫びを聞きながら、最前線でテニスのボールを打ち返すように何度も再生する泥の右手を切り落とす。左手には耕助さんがついて同じように手首を大盾でぶっ叩いていた。


 ……あれ? なんだろ。


 ふと、視界の端に違和感を感じた。間違い探しのように、何かが変わっている気がする。


「……水位があがってる?」


 俺の声に、周囲のプレイヤーが足場の隙間にある沼に視線を向けた。


「泥が動いてる」


 誰かが呟いたその瞬間、毒の沼が大きく波打ち、その中から三十センチくらいの太さの無数の触手がすごいスピードで飛び出してきた。二メートルくらいの高さまで身体をのばしてこちらに向かってくる。


「キモい!」


 思わず叫んで、俺は仰け反った隣人たちの前に踏み出し触手を根本からいっきに刈り取った。ついでに沼の中へデスサイズを突っ込む。


「凍れ!」


 最大出力で凍らせたので、目の前の刈り取った部分だけでなく少し離れた場所で今にもプレイヤーに襲い掛かろうと立ち上がっていた触手も全部氷に包まれた。


「え……ええっ?」


 一瞬の出来事に呆気に取られていた周囲のプレイヤーたちが我に返って残った触手を根元から折って沼に落とす。


 俺は再びゴーレムの腕を切る作業に戻った。時々出てくる触手を片手間に凍らせていたら、古義さんがこちらにやってきた。


「カイさん、ちょっと氷武器の人数を増やしたい。頼めるだろうか」


「いいですよ」


 ポジションを他の人に代わってもらって、古義さんが引き連れてきた近接武器に順番に付与で氷属性をつける。


 ゴーレムへの攻撃は、相手が身体を左右に回転させるせいでいまひとつ深い場所まで届いていない。そこで次の作戦だ。


 付与が終わると古義さんはぐるりと周囲を見回して声をあげた。


「これからゴーレムを拘束する! 氷使いは腕と下半身を凍らせてくれ! 砕かないように頼む!」


 砕くとそこから再生されてしまうから、形を保ったままで固めたい。彼の言葉が後方にも伝達されて、氷使いたちが一斉に攻撃を開始した。俺も細かい氷の礫を風に乗せてゴーレムの脚めがけて当て続けてやる。


 ゴーレムが歩みを進めようと腰を傾ける。だが、氷使いたちによって両脚は動かなくなっていた。古義さんの指示を受けた水魔法使いが腕に絡まるように水を放っていて、それを固める氷魔法によって両腕も拘束されていく。


「土使い! 上半身を崩してくれ! 核を露出させるんだ!」


 古義さんが次の指示を出した。


 土属性のプレイヤーが核が埋まっていそうな頭部と胸の中央の二箇所に集中して攻撃を開始する。ゴーレムが不満げに上半身をよじっている。動けない間に集中砲火で削る。


「よし、いけるぞ!」


 プレイヤーたちから声があがった。


 土属性の固めて崩す攻撃で、身体の表面がボロボロと落ちる。泥の補充より崩す速度の方がはやい。この調子でやれば核も見つけられそうだ。


 そう思った時だった。


 ゴーレムの崩れかけた顔の、下半分がボコリとへこんだ。ん? 口ができた?


「……えっ」


 ゴーレムの口がガバリと大きく開く。その口の奥が紫色に光る。


 やばい!


「みんな伏せろーッ!」


 古義さんが叫んだ。ほぼ同時に、ゴーレムの口から大量の毒泥が高圧噴射された。


 とっさに前に出た盾や防御壁持ちプレイヤーたちが、あまりの威力に作り出した壁ごと全身吹っ飛ばされる。


 ゴーレムはそのまま数秒間、戦場を一巡するかのように首を回して噴射攻撃をした。俺は身を伏せたが、周囲で直撃を受けた近接プレイヤーたちがまとめてキラキラエフェクトで消える。


 これって相当被害が出たんじゃないか? 前に似た技を使う大亀と戦ったけど、規模と凶悪さが比べ物にならない。


 即死を免れたプレイヤーたちが慌ててかぶった毒の手当てをしているが、何人かはその最中にもキラキラエフェクトで消えていく。たった一撃で戦場はボロボロだ。俺は身体を起こしてゴーレムを見た。


「えっ」


 奴は間髪入れずにこちらへ向かって大きく口を開けていた。


「来るぞ!!」


 誰かが叫んだ。


 いや、駄目だ。対処できない。ここでくらったら全滅だ。


「銀雪! 無敵付与!」


 俺は後方に向かって叫んだ。


「アオーーーーン!」


 高らかな狼の遠吠えが聞こえてウィンドウに「無敵状態」のサインが出る。これはプレイヤー全体にかかっているはずだ。それとほぼ同時にゴーレムの毒泥噴射が開始された。


 泥の襲来に思わず身構える。しかし毒泥は透明なバリアに包まれた俺たちの身体に少しも触れることができず、フィールドを通り抜けていった。


「助かった……」


 安堵のため息が出た。俺も毒無効を持ってはいても、あの高圧噴射はきつかったし。


 プレイヤーたちは伏せていた身体を起こすと、急いで足元の毒泥を洗い流し始めた。


 ゴーレムはどうなったかと見れば、今は腕と下半身を拘束する氷をどうにかしようともがいている様子だ。どうやら三回目はなさそうだ。


 しかし先ほどの一撃で、約半数のプレイヤーが死んでマイルームに戻ってしまったみたいだ。残っているのは20人くらいか。これはまずい。


「カイさん! 無事か」


 古義さんと耕助さんが一緒にこちらに駆けてきた。


「大丈夫です。けど、これは厳しいですね」


「カイ、お前の石化はどれくらいの範囲で可能だ?」


 耕助さんが訊ねてきた。


「あのゴーレム全体を石にすることはできるか?」


「できると思いますが、やったことないので正直わかりません」


 そう、俺も星見の塔でのレベル上げで大技が出せるようになった。それが石化の大きいやつなんだけど、なかなか機会がなくて最初一回だけミノタウロス相手に試したきり使ったことがない。


「それでもいい。頼めるか」


「わかりました」


 俺は二人に頷いてみせた。


 たぶんこのままでは核を見つける前に全滅する可能性が高い。銀雪の無敵付与もクールタイムが長いからもう使えないし。


 ゴーレムの氷はかなり溶けて、徐々に動けるようになってきていた。体勢を立て直した前衛の人たちが攻撃の腕を避けながら胸部の泥を削っている。


 俺は彼らの後ろの、ゴーレムの正面あたりに位置取った。



評価・ブックマークをありがとうございます。いつも励みになっています。

(2023.3.25修正)気になった表現を少し修正しました。内容に変更はありません。

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