67.首飾り盗難事件レイド戦(1)
いつもありがとうございます。やっと……やっと戦闘に入れました。
「いくぞー!」
近接武器が駆け出すと同時に、遠距離武器と魔法使いたちが攻撃を開始した。
このゲームでは味方への被弾がないから、こういう集団戦で遠慮する必要がない。走る俺たちの頭上を光の矢が尾を引いて飛んで行く。
だが、幾多の鋭い遠距離攻撃を、前進するゴーレムは大きな腕のたったひと振りでなぎ払った。腕から泥が飛び散って、走る近接武器組の上に降り注ぐ。
「うわっ」
俺は額についた泥を腕で拭った。それと同時に隣にいたプレイヤーが慌ててポーションを飲むのが目に入った。
「え」
周囲のプレイヤーの何人かがキラキラエフェクトに包まれている。
は? 泥がはねただけで即死!?
「みんな! 泥に触るな! 猛毒だ!」
古義さんが叫んでる。まじか。俺は毒無効だから平気だけど。
ゴーレムから滝のように流れ落ちた泥が放射状に広がって、地面に沼ができ始めている。そこにちょうど足を踏み入れた先頭の近接組がキラキラエフェクトに悲鳴をあげて消えて行った。
え、ちょっとどういうこと? 二十人用ってオーダーしたのにもうその二十人くらい落ちてるんですけどエセルさん?
すんでのところで踏みとどまったプレイヤーがいったん後退しようとして、進もうとしていた後続との間で混乱が生じる。
その隙をゴーレムが逃すはずはない。団子になったプレイヤーたちをめがけて毒泥にまみれた腕が振り下ろされた。
「みんな伏せろ!」
団子連中のすぐ後ろにいた耕助さんが叫んだ。
ドオン! と衝撃音が響いた。
ゴーレムの拳を耕助さんの大楯が受け止めている。衝撃で飛び散った泥が耕助さんの頭や肩に降り注いだ。ゴーレムの拳の先から手首までが凍る。すかさず反対側の手が襲ってくる。
「任せろ!」
耕助さんの横で古義さんが大剣を縦に構えて、半透明の防御壁みたいな技を出した。ゴーレムの拳は壁に跳ね返って、またもや泥を撒き散らす。周囲に残っていた近接組が悲鳴をあげた。
「聖なる癒し!」
俺は後ろから耕助さんと古義さんに補助魔法ブレスレットで解毒と回復の魔法をかけた。けどスキルレベルが低いから充分な回復量ではない。
「二人とも下がってはやくポーション飲んで!」
「やります!」
後方から魔法使いのマリエルが走ってきて二人と他のプレイヤーたちにも強い解毒と回復をかけてくれた。
その間にもゴーレムが半分凍った腕を振り下ろしてくる。今度は俺が前に出て、デスサイズで斬りあげた。
ゴーレムの肘から先が飛んだ。
「よっしゃあ!」
プレイヤーたちから歓声があがる。すかさず反対側の泥の腕が襲いかかってきた。
「凍れ!」
瞬時に凍った手首を斬りあげる。手首が落ちたが、はずみで凍りきらなかった上腕部分から泥が飛び散る。
「旋風!」
マリエルが魔扇を翻して泥を吹き飛ばしてくれた。近くにいたプレイヤーたちが安堵の吐息を漏らす。
「近接一旦戻れ! 毒耐性持ちだけ来てくれ!」
古義さんが叫んだ。
「土使いは泥よけの足場を作ってくれ!」
「光使いは解毒と回復、風使いは泥を飛ばして!」
斬鉄団が口々に指示を出した。毒耐性持ちが何人か前に出る。その中には耕助さんの姿もあった。最近姉ちゃんの真似をして毒菓子を食べてたから、そこそこ毒耐性レベル高くて即死回避できてるんだな。
「悪いが後方が整うまで時間稼ぎを頼む」
大剣を構えた古義さんに、俺と耕助さん、それに数人の毒耐性持ちが頷く。
ゴーレムが腕を再度振り下ろしてきた。もう両腕とも再生している。
「来るぞ!」
耕助さんや他の大楯プレイヤーたちが前に出る。拳が盾の壁に当たった。マリエルが泥が味方に飛ばないよう風の壁を作る。
「もう一回!」
逆の手を振り上げた。と思ったら、
「えっ」
斜め上からではなく、地面を掬い上げるように下方から平手が襲ってきた。対処が間に合わない。俺と数人の前衛が直撃を受けてしまった。受け身を取る暇もなく全身に強い衝撃を感じて、宙に投げ出される。
泥のくせに殴る時だけ固いってなんなの。痛みはカットする設定だから大丈夫だけど、打撃だけでHPがごく僅かになっている。ひええ危ない。
地面に落ちる前に自分に何度も回復をかけまくった。
「大丈夫か」
かなり後方まで飛ばされて落下した俺を唐竹さんが抱え起こしてくれた。
「あたた、すみません」
ぶっ飛ばされた俺たちと入れ替わるように、遠距離組の攻撃が飛んでいく。怪獣映画みたいに、ゴーレムは両手で振り払っている。あ、片足凍って前進できなくなってる。氷使いが足止めしているようだ。
他に飛ばされた人たちは大丈夫だろうか。見回すとそれぞれ魔法で回復を受けていたが、助からなかった人もいるようだ。
「カイさんは毒大丈夫なのか」
ポーションを手にした唐竹さんが言った。
「毒無効持ってるので」
「そうか、よかった」
見れば、このごく短時間の間にモノリスを寝かせて積んだような足場が出現していた。泥を完全に堰き止めると上に溢れ出てしまうため、所々に流れを逃す隙間が作られている。
土魔法使いたちはカリウムさんの指示で組織立って動いていて、こうして見ている間にも足場はどんどん広がっていた。
さきほど退いた近接組が足場の上を走ってゴーレムへの攻撃を再開した。
だが厳しい。泥に触れないよう離れた場所から斬撃を飛ばすが柔らかくて効かない。逆に泥の腕で振り払われただけで瀕死状態だ。
「光魔法組は回復と解毒をとにかくかけまくれ!」
ロウさんが魔法使い全体の指揮をしている。後方から支援の魔法が流星のように飛ぶ。
「水使いはまめに足場の泥を流してくれ!」
だが運悪く泥の沼に落ちたプレイヤーはほぼ即死だ。
「あの泥をなんとか封じなくては……」
そう言った唐竹さんと俺の真横にも泥に殴られた人がどさりと落ちてくる。
「聖なる癒し!」
死亡を回避するために一刻を争う分だけ聖霊魔法をかけてやり、残りのフル回復は専門職にお任せした。
「ファイアボール!」
火剣持ちが技を出した。けれどゴーレムに当たるなりかき消えてしまった。泥を固めるには乾燥だが、火魔法は属性負けしてダメみたいだ。
「これならどう!」
ミリアが風双剣で泥の腕を瞬間的に乾燥させて切断する。しかし氷を糸で切る実験みたいに、切断した後からすぐにくっついてしまった。反撃の腕を華麗に避けて彼女は舌打ちをする。
「土魔法ならどうだ!」
ガントレットを嵌めた男性が足場の近くに寄ったゴーレムの脚に殴りかかる。すると、拳が当たった場所からヒビが入って足の一部が砕けた。
おおっ、と周囲から歓声があがる。
しかし彼はその直後「ぐっ」と呻いて口元をおさえると、ゴーレムの反撃を避けきれずに後方に殴り飛ばされてしまった。
「今のは……」
「砕けた欠片を吸引したんじゃないか」
古義さんが回復魔法をかけてもらっている男性に駆け寄り少し話した後、声を張り上げた。
「氷魔法か土魔法が有効だ! 固めて崩せ! 風使いはゴーレムの粉塵が来ないよう追い風を吹かせてくれ!」
魔法使いたちによって強い風が吹き始めた。風下にいた近接組が粉塵をかぶらないように場所移動する。
お、蒼刃さんとミリアが周囲の人の武器に属性の付与をしている。闘技大会上位入賞者の景品で二人も付与スキルを取ったのか。このタイミングなら俺が付与を持ってるの知られても大丈夫かな。
付与が済んでゴーレムに向かっていった近接たちの武器は、みんな土属性のようだ。俺は氷にしよう。
後衛のほうに向かうと、姉ちゃんが屋根から降りて心配そうに駆け寄ってきた。
「カイくん、大丈夫?」
「うん、回復したから。あ、武器に氷属性付与したい人来てください!」
周囲にいる遠距離武器の人たちに声をかけると、十人ちょっとが集まってきた。順番に氷属性の付与をする。だいたいは姉ちゃんと同じ弓か大弓だけど、バズーカとライフルの人がひとりずつ混じってた。
え、この世界にそんな銃火器が存在するの? 姉ちゃんめっちゃキラキラした眼差しになってますけど。まさかですよね……。
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