54.従魔たち
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クランハウスに戻った俺を出迎えたのは、これでもかとふんぞり返った巨大な白い鷲だった。
「カイくんおかえり! テイム成功したよー!」
姉ちゃんが俺の姿を認めて笑顔でぱたぱたと駆け寄ってくる。
「本当にテイムしてきたんだ……」
白い鷲はしかつめらしい顔でこちらを見た。緋炎の不知火をそのまま全身真っ白くしたような姿形だ。なに考えてんのかわからない感じがやっぱりちょっと怖い。
「どうやってやったの、戦闘、大丈夫だった?」
「んーとね、弓で射落としたあと、手当てしておやつをあげたらテイムコマンドが出たの。カイくんのおかげでうまくいったわ。ありがとね」
わあ、見事なマッチポンプですね。
「名前はなんていうの?」
「ブランよ。オスですって」
フランス語で白って意味だっけか。
「そう。ブラン、よろしくな」
白鷲に向かって挨拶をすると、彼は喉を鳴らして頷く仕草をした。ほんっとえらそう〜!
「それで、レーザー光線出た?」
ソファに座りながら姉ちゃんに訊ねる。
「まだわからないの。レベルがあがらないとスキルは出てこないんですって」
「ふうん」
肩に乗ったチビスケを両手で持ってステータスを見ると、たしかにスキルの欄が灰色になってるな。なるほど。まずはレベル上げか。
「ねえねえカイくん、その仔犬はなあに?」
姉ちゃんが両手をそわそわと泳がせている。
「狼だよ。名前は銀雪。俺がテイムしたの」
そっと渡して抱かせてやると、姉ちゃんは頬を赤くして満面の笑顔を浮かべた。銀雪はおとなしく、つぶらな瞳を姉ちゃんに向けている。
「ふわあ……モコモコだあ。ぬいぐるみみたい」
おお、可愛いがカワイイを抱いてるぞ。ささっとスクショを数枚撮る。
「前に話したけど、ハンマー買った時に使ったあのコインをくれた子なんだよ。その縁でテイムすることになったんだ」
「そっか。まあ長距離移動する時はカイくんもわたしのブランに乗ればいいから、問題ないわね」
「いや、大きくなるんだけど……」
「ただいまー」
バタンと扉を開けて、デイジーさんと陽南さんが入ってきた。
「お、カイも帰ってたか」
「お帰りなさい。陽南さん、ていうか、それって」
驚きのあまり、カタコトになってしまった。
陽南さんの後ろから入ってきたのは、堂々たる体躯のオスのライオンだった。
「うん、あたしの従魔。ソレイユっていうんだ」
はわわ! 本当にライオンだよ。すっごい迫力! 本当に王様って顔してる。
いや、ゲームだから安全だってわかっててもなんか怖いな。歩き方からもう獲物狙ってそうな感じで、めっちゃ強そうだもん。
「よくテイムしましたね……」
「そりゃ三人がかりで頑張ったからな」
姉ちゃんとデイジーさんがニコニコしてる。百獣の王を女三人で袋叩きにしたんかい。おっかない人たち。
「それでデイジーさんは?」
見たところ、彼女はなにも連れていない。
「私は今回は見送り。なんかピンとくるのがいなくって」
頬に手を当てて、デイジーさんはため息をついた。
彼女はこだわりの強い気質だから、自分の中のピントがきちんと合わないと駄目なのかもしれないな。
「まだ出会えてないんですね」
「そうね。気長に探すわ」
「言ってくれればあたしんとこいつでも乗せるし」
そう話しながら陽南さんとデイジーさんもソファに座り、ソレイユが悠々と陽南さんの足元にうずくまる。鳥とライオンの威圧感がすごい。
俺は席を立って、厨房でお茶の準備をして戻った。みんなに紅茶をサーブして、お菓子を配る。
「いくつかの店で騎乗ベルト見てきたけど、どうも気に入るのがなかったんだよな。それでデイジーに作ってもらうことにして、いろいろリサーチしてきたんだ」
陽南さんがスケッチブックを出して線を引き始める。
姉ちゃんの腕にいた銀雪がポテポテと歩いてきて俺の肩によじ登った。そうだ、俺も騎乗ベルト買わないとな。
「鳥用はどこのお店にも品物じたい全く置いてなかったわ。だからそっちはよくわからなくて」
デイジーさんが謝罪の形に片手をあげて姉ちゃんに報告した。
「カイくん」
姉ちゃんが俺を呼ぶ。
「はいはい、緋炎に聞けばいいんでしょ」
「うん、お願い」
緋炎に、パーティメンバーが無事鳥をテイムできたお礼と騎乗ベルトの購入場所を訊ねるメッセージを送ると、またすぐに返信があった。マメな人だよな。
「ええと、……姉ちゃん、緋炎は西4の夜鳩商会で買ったってさ」
まるきり俺らの足元じゃないか。
「あ、その店行ってなかったわ」
と陽南さんが肩をすくめて言った。
「あそこ、なんか入りづらくってさ……」
珍しいな。陽南さんってそういう物怖じするタイプじゃないと思っていたけど。
「じゃあ、明日行ってみるわね。ありがと、カイくん」
「どういたしまして」
ふとブランに目をやるとやはり虚空を見つめていた。鳥ってみんなこんななのかい。
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