51.帰還
いつもありがとうございます。
「あ、もうすぐ時間切れだ」
塔ダンジョンの攻略は15階まで来たところだった。俺はウィンドウの時計を見て緋炎に告げた。
「悪い。俺、次のボスで離脱するよ」
「わかった、俺たちもここまでにしておこう。今回は偵察だしな」
緋炎と不知火も頷く。あっさりしてる。彼らは西4からここまでの距離がさほど苦ではなかったのかな。地面を走るより飛ぶ方が楽なのかね?
「カイがいてくれて助かったよ。水モンスター瞬殺だから」
さくっと凍らせて砕いただけですが。お役に立ててよかったですよ。
「俺も楽しかったよ。それじゃ、最後きばっていきますか」
「おう」
「ケエェ」
フロアボスの部屋に入る。ここのボスは巨大な蛇だった。うーん、ヌルニョロは苦手だ。
まずは俺と緋炎が斬りかかる。が、巨体に見合わぬ素早さで避けられてしまった。動く先を予測してデスサイズを振りかぶるが、しゅるしゅると滑るように逃げられる。このトグロ巻きながら円に沿って動くのって、見てると目が回りそうになるな。
「まずは動きを止めるぞ!」
俺たちから一歩引いた位置どりをしていた不知火が破壊光線を放った。その時だった。大蛇が跳んだ。
「えっ」
まるで跳ねるバネのようにして大蛇は俺たちの頭上を越え、背後の不知火に巻きついた。
「不知火!」
ギリギリと締め上げる大蛇に切り掛かるが、ウロコが硬くてダメージが入らない。
「まずい!」
このままでは不知火が落ちてしまう。焼け石に水だが、ポーションをまとめて三本投げて回復させる。
その瞬間、カッと不知火の目に鋭い光が宿った。
「グワァ!」
拘束された不知火がすぐ目の前にある大蛇の頭部に至近距離から破壊光線を放つ。顔面に直撃して、大蛇の拘束が弛んだ。
「うぉりゃあ!」
脱出する不知火と入れ替わるようにして、緋炎が大蛇の喉元に踏み込んだ。大蛇が今度は緋炎を締め付けようとするのを、
「石化!」
胴体の一番太い部分にデスサイズを斬り込んでトグロの回転を止める。身体が思うように動かず動揺した大蛇の口に緋炎が長剣を突っ込んだ。
「火炎斬!」
ノータイムで剣から放出された緋炎の大技が蛇の頭部を貫いて後方に抜けた。
そのまま、大蛇は仰反るように後方に倒れた。その身体はすぐにキラキラエフェクトとともに消えて行った。
「よっしゃあ!」
ピロリン、と電子音が鳴った。
【フロアボスを討伐しました。移動先を選択してください。
▶︎1:次の階に挑戦します
2:挑戦を終了します】
「お疲れさん」
今日はこれで解散だ。選択肢を押す前に挨拶をする。
「カイ、不知火を助けてくれてありがとう」
緋炎に、改めてお礼を言われた。
「当然だろ、チームなんだから」
緋炎が満面の笑顔で拳を差し出してきた。俺も拳を出して打ち合わせる。それからウィンドウを操作して、パーティを解散した。
分配箱の中身は俺も緋炎たちも特にトレード希望のアイテムはなかったので、そのまま適当に持って帰ることにする。
「また機会があったらよろしくな」
「クワァ」
「こちらこそ」
俺たちはそれぞれ挑戦終了を選択した。
周囲の景色が切り替わる。次の瞬間にはマイルームに戻っていた。なるほど、ホームに送還ね。
本当に帰りたい人にはいいけど、もうしばらく塔に用事がある人はここまで飛ばされると発狂するよな。
ログアウト時間までの少しの間、今日の成果をチェックする。戦利品はお金と魔石が多かった。
今までモンスターを倒しても魔石が落ちることってあまりなかったから、あそこは魔石の狩場として設定されているのかもしれない。
魔石は電気代わりの動力として魔道具で使われたり、属性武器や防具など魔力を帯びた装備を製作する材料として利用される。
これまで属性装備は付与が使える人間が少なくて魔石も手に入りにくかったから希少で高価な扱いをされていたけど、今後魔石が出回れば値段も下がってくるだろうな。誰もが当然のように複数の属性武器を所持するようになるだろう。
それから、宝箱からもらってきたアイテムは二つだった。
まずは補助魔法ブレスレット。白銀の地に細かく模様が彫られていて普通に装飾品ぽく見える。効果はMP+30。
というか、俺はすっかり失念していたんだけど、剣やフライパンに上級装備があるならこのブレスレットにだって上が存在するんだよな。
まったく気にしたこともなく初心者用を使い続けてたよ。今までは効果がついてなかったからこれはありがたい。
それからDEX+15の指輪。器用度があがるから生産職としては助かる。
レベルはひとつあがって24になっていた。闘技大会の前にレベリングしたときは、20から一週間かけてやっと22後半まであげたから、たった一日うろついただけでこの結果は嬉しい。大鎌術もいっきにLv.5まであがったし。
しばらくあそこへ通うのもいいな。
そんなことを考えながら、今日は終了。
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(2023.2.20修正)脱字修正しました。




