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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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49.初めてのダンジョン

いつもありがとうございます。

「カイもこのダンジョンは初めてか?」


 必死に笑いを堪えて小刻みに震えていた俺は、緋炎のさわやかな問いかけに黙って頷いた。


「よかったら、俺たちと臨時パーティを組んでくれないか?」


「どうして俺?」


 緋炎は少し恥ずかしそうに頬をかいた。


「いやあ、俺も不知火も火属性なんだよ。相性とか考えず気に入って相棒にしてしまったから、不利属性に対処できない。氷属性のお前が一緒にいてくれたら心強いと思って」


 この人なら不利属性でもゴリ押しで勝てるくらいには強いと思うんだけどな。でも、そういう人に頼られて悪い気はしない。


「いいよ」


「ありがとう。助かる」


 パーティ登録をして、緋炎と不知火と一緒にもういちど扉の前に立った。


「注意事項読んだ?」


「ああ。行こう」


 彼がYesを押すと、ゴギイィイ、とやけに重そうな音を立てて扉が開く。


 その向こうには、古ぼけた石造りの回廊とそれを照らし出す等間隔の松明が続いていた。


 うん、ものすごくよく見るタイプのダンジョンだな。




「ギャアアァ!」


「とうっ!」


 飛び出してきたゴブリンを緋炎がひと斬りでキラキラエフェクトに変える。


 俺たちは横一列に並んで回廊を進んでいた。右から緋炎、中央に不知火、左が俺である。


 なんか俺と緋炎、鳥様の従者みたいになってるんだけど。猛禽類だから顔が偉そうだしふんぞりかえってるし。


 途中で遭遇したよそのパーティがぎょっとした顔で道をゆずってくれた。


 陽のささない場所特有のひんやりとした空気が頬に当たるが、人がまばらな割に篝火はきちんと焚かれていて、石の回廊は思いのほか明るい。


 敵はだいたい曲がり角の向こうから現れるので、分岐が近くなったら武器を構え、姿が目に入ると同時に攻撃する。


 緋炎はいつもの炎の長剣を一閃し、俺の場合はむやみに刃物で切りたくないので基本は峰打ちだ。ハンマーの時とだいたい同じモーションで鎌の背中側でスイングして殴る。


 まだ一階で敵も弱いので、だいたいそれで終わりだ。


 パーティなので、誰が倒しても経験値と報酬は三等分される。この場合、従魔もひとりとして数えるから。


「あれ、ここさっき通った?」


 通った場所は自動でマップ作成されるので、それを確認しながら進む。


「直進はまだ行ってないな」


「ケエッ」


 時たま不知火も返事をする。彼(?)は二足歩行でボテボテと俺たちのペースに合わせて歩いていた。


「鳥がずっと足使うのって疲れるでしょ、休みたくなったらいつでも言って」


「ケエッ」


 人語を理解してんな。


「お、宝箱だ」


 分岐した通路の突き当たりにわざとらしく豪奢な箱が置いてあった。


 緋炎がそちらに足を向け、俺もあとから続く。


「グギャアッ!」


 突然、宝箱の手前にあったらしい死角から一匹のゴブリンが飛び出してきた。俺と緋炎が武器に手をかける。そのときだ。


 ビッ!


 聞き慣れない音がした。同時に、後方から発射された赤い光の帯が俺の真横をかすめて前方のゴブリンに着弾する。


 身体の中央に風穴があいたゴブリンはキラキラエフェクトで音もなく消えた。


「は……?」


 俺はおそるおそる振り返った。


 そこには大きく開いていたクチバシをゆっくりと閉じる不知火の姿があった。


「ありがとう不知火。助かったぞ」


 緋炎がサムズアップをして称える。不知火はこくりと重々しく頷いた。


「……今、レーザー吐かなかった?」


「ああ、破壊光線という技だ。格好いいだろ」


 ひえええ怖い!


 緋炎といいこの鳥といい、ふざけた外見の割に物騒すぎないか?


「もし従魔とタッグでやる闘技大会とかあったら、俺とても勝てそうもないわ……」


 思わず呟くと、緋炎はポンと両手を打ち合わせた。


「それ面白そうだな。運営に要望を出しておこう」


 ヤダアァ。俺絶対参加しねえからな!


 さて、宝箱。開いてみるとお金と少し大きめの魔石が入っていた。まあ一階だしそんなもんか。


「これどうやって分ける?」


「たしか分配機能っていうのがあったな」


 ウィンドウ操作をして緋炎がマニュアルを確認する。


「ええと、宝箱の中身をとりあえず分配箱ってのに入れておくと、パーティ解散した時にレア度別にランダム抽選して分配されるそうだ。欲しいアイテムが他人に渡ったときはそこからトレード交渉をするとよい、と。……これを使ってもいいか?」


「うん。便利だしそれでいいよ」


 緋炎は頷いて操作した。宝箱の中身が消えて、分配箱に収納される。


 おお、俺のウィンドウからも箱の中が確認できるようになっている。ネコババ防止かな。


「これでよし……っと。この先は一本道か」


「ボスっぽい感じ?」


「そのようだ」


 突き当たった空間がワンクッションのゾーンになっていた。フロアボスに挑む前に、回復や装備なんかのコンディションを整えられるスペースだ。


 俺たちは特に準備することもないのでそのまま奥の部屋に入る。


 一階のフロアボスはゴブリンキングだった。西1境界の廃神殿の地下にいたものより二回りくらい大きい。


「不知火!」


 緋炎の掛け声とともに、不知火が正面から破壊光線を命中させた。


 敵が叫び声をあげてのけぞり、そこへ俺と緋炎が懐に飛び込んで身体の左右から斬りあげる。


 ゴブリンキングはあっけなくキラキラエフェクトになって消えた。


 ピロリン、と電子音が鳴った。



【フロアボスを討伐しました。移動先を選択してください。

▶︎1:次の階に挑戦します

 2:挑戦を終了します】



「なるほど……フロアボスを倒さないとこのダンジョンを離脱できないシステムなんだな」


 緋炎が顎に手を当てて言った。


「引き返すことはできない、次の階に行くか帰るかの二択。上に行って負ければ全没収だから、引き際を見極めなくてはいけない」 


「なんか賞金つきクイズ番組みたいなダンジョンだな」


 俺のコメントに、緋炎は声をあげて笑った。


「それじゃ、上に行こうか」


 頷いて、俺は『次の階』をタップした。



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(2023.2.20修正)脱字修正しました。

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