48.星見の塔
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屋上庭園のワープポイントで手をかざすと、ひとつだけの選択肢が表示される。『西の国ウィンドナ/アルケナ神殿』、この書き方だとこの国にアルケナ神殿はひとつだけしか存在しないのかな。
それを選択して虹色の光でワープした。まばたきひとつの間に、数日前に訪れたばかりの晴天と緑が続く神殿前の庭園に出る。
「おっと、服」
ダンジョンだからデスサイズとゴーグルを装備して、服装も闘技大会の時の殺し屋スタイルにした。ついでに『死神セット』で登録しておく。今度からこれでいいや。
石畳の道を神殿とは逆の方向に進み、前回外からここに入る時に利用した石のアーチの前に立った。
これはアルケナ教徒のみが利用できる古いゲートなのだそうだ。
前に来たとき俺は洗礼前だったからセンリ氏の同行が必要だったけど、今回は洗礼後だから単独でも利用できるはず。
「……は?」
手をかざして出た選択肢は『外界に出る』/『星見の塔に入る』/『内界に出る』の三択だった。
え? 内界に出るってなに? すさまじく気になるんですが。
「………………」
気になりすぎるあまり、ゲートの前でたっぷり三分くらい悩んだ。
「……でも今日は塔に行くつもりだったし」
初志貫徹でやはり『塔』を選択した。『内界』のことはそのうちセンリ氏に訊くとしよう。
選択肢をタップすると景色が切り替わり、次の瞬間には俺は石造りの広間のような場所に立っていた。
無機質な、四方を石で囲まれた何もない部屋だ。正面に両開きの扉がひとつだけある。ここはどうもダンジョンのエントランスっぽい?
壁際にパーティらしき男女のグループが一組、座り込んで休憩していた。
彼らは俺の姿に気づいて「おい、死神タンだぞ!」「デスサイズだ!」と小声でざわつき始める。室内が静かだから丸聞こえだぞ。もうさっさと行こっと。
すたすたと部屋を横切って扉に手を掛けると、【塔に入りますか? Yes/No】と表示が出たのでYesを押す。
え? なんか注意書きが出た。
【一、下の階には引き返せません。】
【一、挑戦終了時はホームまで送還されます。】
【一、死亡した場合、今回塔に入ってから入手したアイテムとコルトはすべて没収されます。】
【挑戦を開始しますか? Yes/No】
死んだら全没収とか。シビアだな。
もう一度Yesをタップしようとしたその時だった。
「おお、ここが塔の内部か!」
突然、静かな室内に新たな登場人物の声が響き渡った。
どこかで聞いたようなその声に、俺は思わず振り向く。
「む、そこにいるのはカイじゃないか」
部屋の入り口からこちらがその顔を認識するよりも先に親しげに声をかけてきたのは、闘技大会の決勝で戦ったスカーレットのリーダー、緋炎だった。
さて、奇遇にもこんな場所で再会した緋炎であるが、今回も彼はどこか見覚えのある衣装を身にまとっていた。
俺が前にデイジーさんのところで着用拒否した神父服の色違いバージョン、真っ白いカソックに紫色のストラかけてるよ。
それらが彼の赤い髪に似合ってやけに絵になってるのがまた……いやいや、敗北感なんて感じてないから! けっして!
「カイは今日は一人なのか? 従魔はいないのか?」
「あ、うん。近くまで知り合いの従魔に乗せてもらったんだけど、緋炎はその……それ従魔なの?」
そう。先程から緋炎の隣でものすごく存在を主張している謎生物がいた。彼と同じくらいの背丈の、巨大な鷲のような顔の鳥がででーんと立っていたのだ。
全身、炎が燃え盛るような色をしていて、鳥類特有の胸筋を強調するような立ち姿で険しい眼差しを虚空に向けている。どこ見てるんだよこの鳥。
「ああ。これは俺の従魔だ。名を不知火という」
おい。不知火ってもっと慎ましやかな火を表現する言葉じゃないのか。なんでこんなキャンプファイヤーみたいな鳥に名付けてんの。
いや待てよ。鳥の従魔だって?
「緋炎、まさか鷲に乗って飛んできた?」
「そうだ。今日は不知火のテスト飛行も兼ねてたから、背中に乗ったり足にぶら下がったりして来たぞ」
まじか。
その白神父の格好でこの真っ赤な鳥にぶら下がってきたんか。
そんなの面白すぎて困惑するしかない。
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誤字脱字のお知らせも、どうもありがとうございました。
(2023.2.20修正)脱字修正しました。




