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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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5.森のくまさん

いつもありがとうございます。

 結局のところ、俺のFULは回復したけど姉ちゃんの方が半分程度だったので、改めて食事休憩をとることになった。


 高原の隅っこで、今度は俺が食事の用意をする。


 火を起こしてさっきドロップしたツノウサギの肉を小さく切り分け、串に刺して焼く。


 ぱちぱちと火が踊り、いい匂いがそこらに漂いはじめる。


 塩胡椒だけの味付けだけど、串に刺して外側をちょっと焦げ気味になるまでカリっとさせてみた。


 ひとつを姉ちゃんに渡した後、ついでにスキルのテストを試みる。自分の分を手に取って「毒付与」と声に出して言ってみた。


 飲食物鑑定をすると毒(小)と書いてある。付与は成功。


 思い切って齧り付く。うん、今度はきらめかないし気も遠くならない。ちゃんと毒無効が仕事してるみたい。


 リアルではウサギなんて食べたことないから比較できないけど、クセのない鶏肉みたいな感じ?


「うん。ふんわりジューシー食感で美味しいねっ」


 姉ちゃんが満面の笑顔で言う。喜んでもらえて何よりです。


「野外で食べるから余計美味く感じるよな」


 うんうんと頷いていた姉ちゃんだったが、ふと真顔になって俺が手にした串をじっと見た。


「ん? どうかした?」


「ね、そっちのお肉ちょっと食べてみていい?」


「は? これ毒だよ?」


「それ食べたら毒無効系のスキル選択肢が出るかも。そしたら毒系モンスターの攻略とか楽になりそうじゃない?」


「……なるほど」


 まあ今日に限ってはデスペナ無しだから、試してみるチャンスかもしれない。


 新しく焼けた串を取って毒付与、鑑定で毒(小)がついているのを確かめてから姉ちゃんに渡した。


 本人同意の上とはいえサスペンスドラマの犯人の気持ちでドキドキする。


 姉ちゃんは少し匂いを嗅いでから肉にかぶりついた。


「ん。匂いも味は全く一緒ね。美味しい。これなら毒盛って暗殺するのも簡単ね」


「待って誰を暗殺するの」


「あ、なんかふわふわしてきた……ちょっとくせになりそう……」


「大丈夫?」


 姉ちゃんの身体が透き通ってきた。全身にキラキラエフェクトが出て、それから最後に頭から金色に光る丸い輪っかが出てきてふわっと昇ると同時に姿が消えた。


 これが死亡エフェクトか。


 マニュアルによればこのキラキラが出てから金の輪が昇るまでの15秒間に蘇生の術や薬を使えばその場で生き返ることができるらしい。


 ピコンとメッセージが入った。


『マイルームに戻ったよ。そっち行くから待っててね~』




 姉ちゃんはすぐに走って戻ってきた。


「それでスキル出た?」


「無効じゃなくて毒耐性Lv.1っていうのが出たよ」


「上げていくスキルか」


 俺のはレベル表示のない『無効』だから何も努力する必要はなさそうだけど。


「これから死なない程度にちょっとずつ毒に慣らしてレベル上げしようと思うの」


「協力するよ」


 毒入り菓子を少しずつ食べれば毒耐性はあがるはずだ。そのためにはまず基本のHPを増やすところからだな。



 腹ごしらえも終わったので、今度こそ狩りに出発だ。


 高原から森に入って奥へと進んで行く。途中の三叉路で、人間が無意識に選びやすいと言われる左の道を避け、あえて右へ進んだ。


 やはり他の渡り人はあまりこちらには入ってこないようで、やがて誰とも会わなくなった。


「発見!」


 姉ちゃんが弓に矢をつがえて放つ。小さな身体でちゃんと大人用の弓を使えるのかと思っていたが、操作に慣れてきたようで少しの危なげもなく一発でツノウサギを仕留めた。


「すげえ」


「これでも元弓道部ですからねっ」


「そうだったね」


 姉ちゃんは中学から大学まで弓道部だった。今でもたまに弓を引きに行ったりしている。


 剣道部の俺はフライパン振ってますけどね。


 俺も、姉ちゃんの弓に驚いた他のツノウサギが草むらから跳び出してくるのを待ち構えて殴る。よろけたところをもう一撃。


 高原よりも余裕のある狩りをしながら俺たちは森を進んだ。


「あ」


 電子音が聞こえた。ウィンドウを確認した俺は思わず眉を寄せた。


「ん? どうしたの?」


「スキルレベルが上がったんだって」


「おめでとう?」


 俺の様子に首を傾げながら姉ちゃんが祝ってくれた。


「なぜか料理のレベルが上がってるんだけど……」


「フライパンで殴ったから?」


 謎仕様である。


「あ、角が出た!」


 たった今仕留めた獲物のドロップを確認した姉ちゃんが声をあげた。


「ちょうど5本になったよ。カイくんは?」


「えーっと、俺はあと1本……」


 そう言いかけた時だった。突然頭の上で一斉に鳥たちが大きな音を立てて飛び立った。バサバサと頭上をたくさんの影が横切って行く。


「えっ……なに?」


 グオオオオオオ! と野太い獣の咆哮が響き渡った。これは大物の気配だ。


「ふぇっ? モンスター?」


「早く逃げよう!」


 身体を反転させた時、ピロリン、と甲高いシステム音が入った。


【近くで戦闘中のパーティから救援要請が出ています。参加しますか? Yes/No】


「はわわわどうしよう、呼ばれちゃったわわわ」


「とうっ」


 周囲を見回して慌てている姉ちゃんの頭にチョップを落とす。


「ちょっと落ち着けって」


 姉ちゃんは「はッ」と我に返った。


「カイくん、行った方がいいと思う?」


「どうしよう、俺まだレベル3しかないんだけど」


 正直この戦力で何か出来るとは思わない。でもこのあたり、俺たち以外に救援に行けるパーティはいるんだろうか。


「うー、見捨てるのも後味悪いかしら」


 姉ちゃんが小さな腕を組んでうんうん唸っている。


「気になるなら行ってみる? どうせ初日だから駄目でも仕方ないじゃない? 相手だって似たようなもんだろ」


「じゃあ行くだけ行ってみよっか」


 姉ちゃんがそう言うのでYesを押すとマップに目的地が表示された。たぶんさっきの咆哮の主だろう。


 走っていくとすぐに見えた。背丈が2メートル以上はある大熊で、ポップアップには討伐対象を意味する赤文字で『グレートハンティングベア』と書かれている。横幅も奥行きもある分、ものすごく大きく見える。


 二人の男がそいつと戦闘中だった。




 ひとりは長剣、ひとりは大楯を持っている。二人ともプレイヤーの初期装備で防具も付けていない。おそらく俺たちともそれほどレベルが変わらないだろう。


 大楯がベアを引きつけて長剣が斬りつけるという戦い方をしているが、ベアが見た目に反して動きが素早くなかなかダメージが入らない様子だ。


「毒付与!」


 姉ちゃんの弓と自分のフライパンに付与をかけた。既存の武器の場合、一時的に毒属性になるはずだ。


「手伝いまーす!」


 システムから通知が行ってるだろうけど、大声でひとことかけてから戦いに参加した。


「頼む!」


 相手方の返事と同時にベアの背後からフライパンの角で後頭部をブン殴る。相手が固くてゴイン、と変な音がした。手にも衝撃がきてちょっと痺れる。振り返りざまの爪が襲ってくるのを地面に転がって回避。すごい長くて尖った爪だ。


「うわ」


 もしあれに当たったらと思うと冷や汗が出る。


 VRって怖いな。2Dの狩りゲームをやった時はどれだけ体格差があるモンスターだって俯瞰した視点から冷静に戦えたけど、3Dで実際に対峙してみると俺よりちょっと大きいだけの獣でもこんなに恐ろしい。


「いくよお!」


 姉ちゃんが後方から矢を射った。


 このゲームは味方の攻撃は当たらない仕様なので、俺たちが標的の近くにいても大丈夫だ。


 矢が頸部に命中し、怒ったベアが姉ちゃんの方へ向かおうとする。そこに大楯の人が挑発スキルを使ってヘイトを取り戻して、あの爪攻撃を受け止めた。


 ガキィン! とすごい金属音がする。爪めっちゃ丈夫だね。


 その隙に長剣と俺が背後から攻撃をかけ姉ちゃんが矢を射るが、巨体のベアにはまったく効いていない様子だ。


「くそ……」


 思わず声が漏れた。


 姉ちゃんが毒矢を続けて射る。矢が首に刺さっても平気とかタフだな。


 だがまた爪攻撃の体勢に入ろうとしたその時、ベアの様子が急に変わった。


 フラリと重心の定まらない足取りでよろけたのだ。身体から紫色のエフェクトが出ている。


「毒が効いた!?」


 姉ちゃんの声にハッとした俺たちは武器を構えなおして駆け寄った。


 こうなればしめたものだ。


「やっちまえー!」


 俺たちはベアを取り囲んでひたすら無茶苦茶で拙い攻撃を浴びせた。


 渾身の力で殴り、斬り、射る。袋叩き状態である。


 毒で目を回してろくに抵抗も出来ないまま、やがてべアは低い唸り声をひとつあげると、重々しく地面に倒れた。


 キラキラエフェクトが出て、身体が透けて消えてゆく。


「や、やったあ……」


 あがった息を整える耳元でいろんなレベルやステータスの上昇を知らせる電子音が鳴っている。大物だった分経験値も多いらしい。


 こんなの、俺と姉ちゃんだけの時に遭遇したらひとたまりもなかったよ。危なかった。


「ありがとう、助かった」


 二人組が声をかけてきた。


 姉ちゃんがすすす、と俺の後ろに入った。人見知りの振りをしてるけど、じっと彼らが会社の関係者がどうか見極めてるんだろうな。


 長剣の男はヒカリと名乗った。清潔感のある短めの明るいハニーブロンドと、夜明けの空のような明るい紫色の瞳。目が大きくてちょっと目尻が垂れてるのがいい具合に愛嬌を醸し出している。年齢設定は20歳くらいだろうか。なんというか、ゲームの主役みたいな正統派王子様系キャラの剣士だ。


 もうひとり、大楯の男は耕助と名乗った。こちらはもっさりとした黒髪の天然パーマで目元がほとんど見えず、無精髭が生えている。ヒカリとは対照的でどうも小汚くて胡散くさい雰囲気を出している。年齢設定は30歳くらいだろうか。名前からしても金田一耕助リスペクトなのかな。職業は戦士だ。


 姉ちゃんの判定ではこの二人はシロのようだったので、俺たちも名乗った。


「いやほんと参っちゃうよ、ついさっき始めたばっかりなのにいきなりあんな大物が出て来るんだもん。ほんとどうしようかと思った」


 にこにこと人懐っこい笑みでヒカリさんが愚痴る。


「今日に限ってはデスペナ免除されるから負けても問題なかっただろうけどね」


「ええっそうなの?」


 俺の言葉に、ヒカリさんが気の抜けた様子でその場にしゃがみ込んだ。


「それなら無理してあんな格上と戦わなくてもよかったじゃん……」


「うるせえ。勝ったんだからいいだろ」


 耕助さんがその背中を蹴ってヒカリさんがべしょりと地面に倒れる。


「ひどい。頑張った俺にする仕打ち?」


「あぁん? もっと踏んで欲しいって?」


「イヤー!」


 二人とも口元は笑っているので、乱暴だけど気が置けない仲なんだろう。


「とにかく救援に来てくれてありがとう。良かったらフレンド交換しないか?」


「いいわよ」


 姉ちゃんが大丈夫そうだったので、耕助さんの提案に同意して四人でそれぞれ登録をした。


「借りは返すよ。協力できることがあればいつでも呼んでくれ」


「気軽に連絡してね」


 ヒカリさんと耕助さんはそう言って手を振って、また森の奥の方へ入って行った。あんな大物に遭遇してもまだ続けるのか。すごいバイタリティがあるなあ。


 俺と姉ちゃんは顔を見合わせた。


「……帰ろっか」


「そうだね」


 帰り道でついでに倒したツノウサギから、俺に必要な最後のツノ1本がドロップしたのは幸運だった。


「あ、スキル選択肢増えてる」


 チェックしたらnewのマークとともに『付与』が出てる。毒だけじゃなくて持ってる他のスキルもアイテムに付与できるらしい。便利そうなのでポチッと取得しておいた。


「なんか初日からすごい頑張っちゃったね」


「まさかあんなのと戦う羽目になるとは思わなかったよ」


 夕暮れの森を、昼間の残りのクッキーをサクサク食べながら姉ちゃんと歩く。撲殺に使ったフライパン、あんまり料理に使いたくないなあ、なんてことをぼんやり考えながら。


 こんなふうにして、俺と姉ちゃんの冒険は幕を開けたのだった。




カイ【人族】Lv.4


【職業】

料理人Lv.5


HP129

MP115

STR 18

VIT 15

INT 14

MND 14

AGI 18

DEX 20

LUK 16


【スキル】(*は天職スキル)

料理* Lv.5

水魔法* Lv.1

火魔法* Lv.2

食材鑑定* Lv.1

飲食物鑑定* Lv.2

製菓 Lv.1

毒使い Lv.2

付与 Lv.1


【称号】

毒の申し子


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(2023.1.9修正)改行を一部変更しました。

(2023.3.18修正)気になった文章を少し修正しました。

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