47.商談
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姉ちゃんは陽南さんやデイジーさんと一緒に従魔探しに出かけるそうだ。クランハウスでみんなにお弁当を渡して、俺は夜鳩商会での商談に向かう。
約束の時間まで余裕があったので、酒類を持って西国騎士団ウェスファスト支部に立ち寄った。
俺と姉ちゃんが夜鳩商会に入ったことは遠からずナナ師匠(+特務おじさん)の耳に入るだろうし、ちょっとご機嫌とりをしといた方がいいかな、という判断である。
「こんにちはー」
勝手知ったる特務機関の建物に入って行くと、応接室のソファに目的の人物たちと一緒になぜか死んだ目の耕助さんも座っていた。
「……耕助さん、ついにやってしまったんですね」
「なにをだ!」
頭上にストレートでチョップが落ちてくる。
横で無表情の師匠が口だけで「フフフ」と笑った。
「彼はこれから我々と共にドス黒い青春を駆け抜ける新しい仲間だ」
「ブラックって自己申告してるし」
これって絶対円堂先生が言ってたやつだよな。姉ちゃんが候補にあがるなら同類の耕助さんが対象になってもおかしくないし。
そっか……運営に捕まっちゃったんですね……。
「ところで我が弟子よ」
弟子、という部分を妙に強調して、師匠は俺の首をぐいと引き寄せた。
「焼肉につられて円堂の手下になったそうだな」
「え、違いますけど! 焼肉は剣道大会お疲れ様でご馳走してもらっただけです」
もうそこまで知ってるのか。怖いわあ。
「……肉、美味かったか?」
耳元でそっと囁かれる。
「とっても」
首に回った手がヘッドロックに変わった。ぎりぎりと締め上げられる。
「うらぎりものー!」
「ぎゃーーーっ!」
はあはあ。一瞬お花畑が見えたぞ。
「せっかくお酒作ったから持ってきたのに」
ボソリと呟いたら、超速で玉露と紫陽花の形の練り切りが出てきた。わあキレイダナー。耕助さんが引いてる。
「それで、耕助さんは今後この騎士団勤務になってしまうんですか?」
白ワインと日本酒の瓶を師匠に渡して、練り切りをいただきながら訊ねた。
「いや、今まで通りのプレイしててくれて構わないよ。仕事が発生したらお願いするだろうけど」
「そっか、良かった」
折角クランまで立ち上げたのに、一緒に戦闘できなくなるのは寂しいもんな。
「手伝いが必要な時は声かけてください」
ぐったりとソファに腰掛けてる耕助さんに言っておく。
「すまねえな……」
「ここ俺が料理修行した場所だから、食事だけはまじ最高なので。いろいろ食べてくといいですよ」
何の慰めにもならないだろうけど、俺からの最大のアドバイスを送っておいた。
西1の騎士団支部を出て、ちょうどよい頃合いになったので西4の夜鳩商会に向かった。こちらでは店に置く料理についての話し合いだ。
会議の席には、センリ氏の他にデリの売り場担当と併設のカフェ担当の人たちが揃っていた。
持参したサンプルの料理やお菓子を一緒に試食して、何をどの売り場で提供するかといった相談をする。持って行ったものはどれもセンリ氏だけなく他の担当者さんたちにも好評をいただけたので、俺は内心胸をほっと撫で下ろした。
商会には他にも複数の契約料理人がいるので、無理にノルマは設けず作ったものをその都度納品するということになった。時間経過のない大型保管庫があるので、売り場にデリとして置くかカフェで提供するかはその都度担当者が振り分ける。こちらはなるべく同じ品物を複数用意すること。
そんな取り決めをして、数字の話を詰めて契約を交わした。
「これはまだ試作品ですが、良かったら皆さんでどうぞ」
ついでにこちらにもワインと日本酒をばら撒いておこう。
「君、お酒も作れるんですか」
センリ氏が両手で瓶を持ち上げて、明かりに透かしながら言う。
「飲めない年齢なので、クランの大人たちにアドバイスをもらいながら研究してる最中です。感想があれば、また教えてください」
「はい。試してみますね」
挨拶をして、センリ氏と担当者たちとはここで別れた。
階下の店に下りながら、これからどうしようかと思案する。姉ちゃんたちと合流するか……いや、あっちは女子三人だよな。一人だけ男が混じるのってなんかヤダ。
身を翻して、下りかけた階段をもう一度上った。そのまま屋上へ向かう。
せっかくだから、ちょっと『星見の塔』のダンジョンでも覗いてみようか。
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(2023.2.8修正)表記ミスを修正しました。
(2023.2.20修正)脱字修正しました。




