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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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46.運営その2

いつもありがとうございます。

「えっ」


 メンバーから驚愕の声があがる。


「円堂さんからのタレコミ通りでした。カイが騎士団で料理の修行をしていたのとほぼ同じ時期に『アリス』は敷地内の資料室に潜伏していたようです。それで料理の資料を探しに行ったカイと何度か一緒にお茶を飲んでましたね」


「ははは、君ら全然気づかなかったんか!」


 古賀が手を叩いて爆笑する。


「まったく面目ない」


 芦田が悄然と首を振った。


「その後、私と円堂さんが冗談半分で旧皇国のドラゴンを狩ってくるようカイを唆したところ、『アリス』は善意で彼に例の呪いの称号と紋章をプレゼントした、と。そんな経緯でした」


 円堂が無言で額に拳を当てた。やってしまった、という顔をしている。


「あのー、呪いの紋章が善意なんですか? カイを仲間にしたかったとかではなく?」


 手を挙げて榊が訊ねた。七瀬は首肯する。


「『アリス』は元より純粋で優しい性格だけど善悪の区別が全くつかないんです。悪気なく倫理観ゼロでアウト判定になった個体なんですね。今回の場合は、旧皇国で強敵と戦うならちょうど良いバフ称号あるからあげるねーみたいな、無邪気な善意でした」


「最初に削除されたオリジナルはもちろんそんな権限は持っていなかったから、あの男がデータ混入させる前に改変したと思われる」


 七瀬の言葉に説明を追加した芦田は、顔を顰めた一同を見回した。


「ちなみに、準備期間中に円堂を襲撃した通称『商人』が同様の権限を持っていたことから考えても、8体全部が本来は持たないはずの能力を追加されている可能性が高い」


 小野寺が手を挙げる。


「まだ判明してない能力は一旦置いといて、称号の呪い効果の設定を変更しておくことはできないのか? ばら撒かれると困るだろ」


「それやるとメインシナリオ後半に影響が出る可能性があるんですよ。プレイヤーが取得することは想定してませんがNPC間では増えていく予定ですし。なので、今後は改変の有無を確認した上でプレイヤー・NPCともに適したパッチを当てる予定です。間に合わなかった分についてはその称号紋章を付与されたプレイヤーの検知システムと、併せて打ち消しイベントを用意するつもりです。皆がアルケナ神殿にたどり着ける訳じゃないですから」


「そのカイってプレイヤーですけど、結構この状況に深入りしてますし、念のためリアルで守秘義務条項の誓約書書いてもらった方が良くないですか? バイトだとか口実つけて」


 榊が口元に手を当てて思案しながら言った。それを聞いた七瀬と芦田が顔を見合わせる。


「いや、前に一度特務に誘って断られたんですよね」


「リアルマネーを提示してもう一度きちんと勧誘してみたらどうだい?」


 小野寺が提案する。そこに手を挙げたのは古賀だった。


「それなら、まずは秘書室の支倉菜穂を勧誘するべきだと思う」


 目をぱちくりと瞬かせたのは榊だ。


「支倉ちゃんですか? 何故です?」


「カイは支倉の弟なんだよ。彼女を引き込めば自動的に弟も付いてくる」


 ええ、と皆がざわめく中、榊は小さく唸って腕を組んだ。


「私、支倉ちゃんは『ソフィア』に来てもらおうと思ってたんですけど」


「いや、あの子もう樋口のクランに入ったから無理だろ」


 さくっと古賀が榊案を潰した。


「それじゃ特務チームでいいですかね。本日のエントリーナンバー2番、秘書室の支倉菜穂さんお呼びします」


 早速内線の受話器を取り上げた七瀬を、円堂の手が押し留めた。


「その件ですが、支倉姉弟はすでに夜鳩商会の諜報部員になりましたので、勧誘の必要はありません」


「は?」


 七瀬は低音で聞き返す。


「なんですかそれ。聞いてませんけど?」


「今、言いました」


「カイ君は特務の子だぞ許さんぞう」


 芦田が後ろから囃し立てる。


「そもそも彼は私の弟子ですよ、なに勝手なことしてんですか」


 七瀬の抗議に円堂はにこりと完璧な笑みを浮かべた。


支倉海(はせくらうみ)は現在リアルで私の教え子なので。なんなら先日、一緒に焼肉行きましたが」


 あからさまなマウントを取った円堂に、芦田と七瀬は拳で机を叩いた。


「お前ほんとそういうとこやぞ!」


「このサヨリ!」


「はいはい、ストップ!」


 古賀が両手を打ち合わせた。最年長者の制止に全員が黙る。


「とりあえず話進めろや。それで? 誓約書は?」


「はい。アルバイト待遇で人事に申請中ですので、許可が降り次第書いてもらう予定です」


 円堂の回答に、広報宣伝部の二人と古賀は満足げに頷いた。


「なら問題ない。特務も商会もやること大差ないんだし、こちらの協力者に入ってくれたことでよしとしようじゃないか」


「せっかくの癒し枠だったのに〜」


 芦田が不満気にぼやく。


「私たちだってカイと一緒に遊びたいよう」


 べしょりと机に臥した七瀬の背を、榊が慰めるようにポンと叩いた。



評価・ブックマークをありがとうございます。いつも励みになっています。

(2023.2.20修正)脱字修正しました。

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