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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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38.仮想クランハウス

いつもありがとうございます。

 みんなの後押しもあって、結局ヒカリは情報考察クラン『ソフィア』に入ることにしたようだ。


 そして、俺たちはそのまま勢いで西4の冒険者ギルドに行き、クラン設立の手続きをした。


 リーダーは耕助さん。サブリーダーは二人必要なので陽南さんと俺。あとのメンバーは姉ちゃんとデイジーさんだ。


 クラン名はパーティと同じ『ゴーグル団』。今のところ、パーティメンバー以外の人間を入れるつもりはないから。


 申込書類と一緒に設立金を払って、すぐにクランは認可を得ることができた。


 クランハウスは無料の仮想ハウスで、設備は共用部分のみ割り勘。生産職の工房は使う各自が費用を負担することになった。


 陽南さんは鍛冶場、デイジーさんは縫製室、俺はキッチンと大型保管庫を注文した。


 共用部分にはソファーセットや多目的に使える大きな作業テーブルを入れた。後からいくらでも拡張できるので、今は要るものだけを用意する。


 バーチャルの世界なので注文してから数分でハウス完成のお知らせが来た。


「あれ、ハウスに出入りするにはいちどマイルームに戻んないといけないのか」


 冒険者ギルドを出て、ぞろぞろ仮宿へと連れ立って歩く。どちらにせよ、西4到達後の仮宿登録しとかないといけないんだけど。


「なあ、これってクランにNPCが混じってた場合どうなるんだ? NPC混合パーティとかもあるんだろ?」


 耕助さんがデイジーさんに質問している。


「仮宿の建物内に、NPC専用の仮想ハウスドアがあるらしいです」


「へえ」


「そういえば仮宿のロビーに開かない謎のドアがあったけど、それのことかな」


 ヒカリの言葉に、みんなが「そんなのあったっけ」とざわめく。


「おいヒカリ、招待状送るぞー」


 陽南さんが歩きながら振り返って、ヒカリに言った。


 仮想ハウスはメンバーからの招待状があれば、メンバー以外の人間も自分のマイルームから訪問することが可能なのだそうだ。


「ありがとうございます。……あ、来ました」


 ウィンドウを操作してヒカリが答えた。


「誰でもいいから言えば招待状出すから。気ぃ使う必要ないからな」


「はい」


 陽南さんってこう、一見大雑把なようでさりげなく細やかだよな。今のは耕助さんが身内贔屓した感じを出さないように、自分が動いた感じがする。


 詮索するつもりはないけど、こういうとこ大人だなあって思う。


 仮宿に到着して、さっきヒカリが言っていた謎のドアが本当に存在することを確認してひと騒ぎしてから、俺たちはそれぞれマイルームに入った。


 室内を見回してみても、特に出入り口は増えていない。外に出る扉に触れると、いつもの外出先を選ぶポップアップの一番上に「クランハウス」という項目が増えていた。それを選択して扉を開けた。


「うおお……」


 なんかログハウスみたいな場所に出たぞ。仮想ハウスっていうから、マイルームを大きくしただけみたいな白くて無機質なものを想像していたけど、木の色を基調とした柔らかな色合いの空間だった。天井が高くて広さは高校の教室くらいある。家具が少ないから妙に広々としてるな。


「あっカイくん来た!」


 みんなに手招きされて、一緒に他の部屋を見てまわる。最初にマイルームから入った扉の他にリビングにはもうひとつ出口があって、そこから出るとまっすぐ伸びた廊下に沿って各工房が用意されていた。


 陽南さんの鍛冶場も、デイジーさんの縫製室も、共同工房より広くて設備も見たことがないものがいろいろと増えていた。そして俺の厨房も。


「わあ……っ!」


 ピカピカの大きな調理台。シンクは広いし、コンロは業務用で口数も多い。大型オーブンや新しい食器棚に食洗機まである。大型保管庫はインベントリと同様に時間経過がないから、出来立て状態の料理をストックしておくことができる。


 今日からここが俺の城だ。めっちゃテンションあがる!


「それじゃ、クラン設立を祝って……って先に何か買ってくれば良かったな」


 リビングの何も置かれてないテーブルを見て耕助さんが呟く。


「任せてください!」


 俺はインベントリから作り置きの料理を出して次々と並べた。


 師匠との修行で作ったものから、練習で試行錯誤したものまで。インベントリの中は時間経過がないので、全部作りたての状態で入っている。


 定番の唐揚げと焼き鳥に、豚肉に似たオーク肉の角煮と牛肉に似てるミノタウロス肉入りのコロッケ。皮付きの子ジャガを丸ごと揚げて入れた甘めの肉じゃが、大根おろしを添えただし巻き卵にキャベツと玉ねぎのさっぱりサラダ。具をたくさん入れたケークサレと筍ご飯のおにぎり。


「おおお……さすが職業料理人」


「あとこれは試作品なんですけど」


 日本酒とワインの瓶を一本ずつテーブルに置く。


「えっ酒もあんのか?」


「一応、あるにはあるんですが」


 味見してないんだよな。できないっていうか。


 オビクロの世界では、リアルの法に従って20歳になるまで酒が飲めないルールだ。


 だが、ゲーム内で年齢制限をしてしまうと個人情報のリアル年齢が他人に知られてしまう危険性があるため、オビクロ世界にいるアバターはみんな酒場で酒を注文して飲むことが可能になっている。リアル20歳未満は口に入れた瞬間、ジュースに変換される仕組みだ。


 つまり、18歳の俺はいくら酒を口にしても自動的にジュースになってしまうため、作った酒が上手くできているかどうかわからないのだ。


 これらの酒類は師匠に味見してもらうつもりで持っていたけど、ちょうど良い機会なのでみんなに感想を聞かせてもらおう。


「そういうことなら喜んでレポートするよ!」


 大人たちが厨房からコップやグラスを持ってきて、わいわいと中身を注ぐ。


「ヒカリはサイダーでいい?」


「コーラねえの?」


「作り方わかんない」


 氷魔法でロックアイスをグラスに落とし、サイダーを注いだ。


「それじゃみんなグラス持ってー」


 デイジーさんの掛け声に、俺とヒカリは涼しげな音を奏でる透明なグラスを掲げた。


 音頭はやっぱり団長の耕助さん。


「それじゃ、クラン兼パーティ『ゴーグル団』の設立と、ヒカリの旅立ちを祝って乾杯!」

評価・ブックマークをありがとうございます。いつも励みになっています。

誤字・脱字のお知らせもありがとうございました。

(2023.5.6修正)表記間違いの修正をしました。

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