37.西4境界戦(2)
いつもありがとうございます。
「まだ終わってないぞ! 油断するな!」
耕助さんが大盾を構え直して叫ぶ。
甲羅のなくなった大亀は、大トカゲに似ていた。そいつは今度は四足歩行になり、すごい速さで間合いを詰めると前足で耕助さんを薙ぎ払った。
「うおっ」
耕助さんが盾ごと空中に吹っ飛ばされる。
すわ、物理か! と思った瞬間大きく開けた口からこちらに向かって炎を噴く。今度は火炎噴射器かよ!
幸い、今のデスサイズは水属性だ。身体の前で回して防御する。
「このっ」
デイジーさんが水双剣で切り掛かるが、大トカゲはさっとかわして気づいた時にはもう離れた場所にいたヒカリを体当たりでぶちのめしている。すごいスピードだ。
「ちょこまかと……」
陽南さんが振り上げたハンマーも空振り、振り返った足で蹴られそうになったところをすんでのところで避けている。
耕助さんが大楯を構え直してこちらを見た。
「カイ! 一瞬だけ動きを止めるから奴の足を固めろ!」
おお。何か手があるみたいだ。俺はデスサイズを握りしめて承諾のサインを送った。
耕助さんの大楯が光り出す。
「挑発!」
亀の中身は耕助さんを睨みつけると、ジャンプでひと息に飛び掛かった。こいつ跳ぶんかい!
「愚者の反撃!」
ドオン! と轟音が響いた。まるで落雷のような……いや違う。ような、ではなく落雷そのものだった。亀が大楯に当たった瞬間に、天から真っ直ぐに落ちてきた稲妻がその巨体を貫いたのだ。
衝撃で地面が揺れたが、今度は耕助さん、踏みとどまってる。すごい。
そして亀の動きが止まった。身体全体が焦げてパリパリと音を立てて放電している。
「カイ頼む!」
俺は駆け寄って、ショック状態の亀の足にデスサイズで切り掛かる。
「石化!」
四本の足全部を石にしたところで亀も意識を回復した。首を回して口を開け、こちらに火炎放射しようと口を開ける。しまった、近すぎて回避できない。
「こらあ!」
気づいた姉ちゃんが亀の片目を氷の矢で射抜いた。衝撃で火炎は俺から大きく外れて空へと放たれる。うんうん、姉ちゃん頼りになるよー。
亀は足を固定されたまま身体を捩って叫び声をあげた。
「よっしゃあ行くぞー!」
陽南さんとデイジーさんとヒカリが大技のチャージを始める。
耕助さんが陽南さんに駆け寄ってハンマーの属性を再び水属性に変えた。
「嵐気斬!」
「天砕打!」
「幻光!」
ほぼ同時に、三人の大技が炸裂した。
亀の断末魔がひときわ大きく響く。
技のエフェクトが収まってくるのと同時に、亀の身体からキラキラエフェクトが出た。今度こそ本当に終わりだ。
「……やったあ……」
ポーンと電子音が鳴った。
【戦闘終了です。あなたがたはウェスサード南の境界『穢れし湖の水主』の討伐に成功しました。これより西国ウィンドナ第四の街王都ウェスフォースへ行くことができます】
報酬は『防人の指輪』、魔法防御力があがるMND+10。それに『魔亀の爪』『魔亀の骨』『魔亀の甲羅片』。なんか強い装備を作れそうな気がする素材だな。作るの俺じゃないけど。
「今回はしぶとかったねー」
「はー疲れた」
今回はみんな頑張って戦ったので、文句を言いながらもすっきりした顔で湖の戦闘エリアから出る。
すると、来た時には誰もいなかった湖の前にいくつかのパーティが順番待ちをしているのが目に入った。
クリアしていない彼らにはまだ見えていない、西4へ向かう道へ歩いて行く俺たちの方を指差してざわついてる。
あー……見られてんの俺か。それとこのデスサイズね。
道に入って彼らが完全に見えなくなったところで俺は大きく息を吐いた。
「ちょっと注目されちゃったな」
横に並んだヒカリが眉を下げて笑う。
「なんかごめん。耕助さんたちも悪目立ちさせちゃって」
とりあえずデスサイズをインベントリに片づけておいた。
「あんま気にすんな」
後ろを歩いていた耕助さんが、俺の背中をばしんと叩いてヒカリと反対側の隣に来る。
「俺たちはもともとヒカリを目立たせて俺の印象を薄くする作戦だったから、パーティでカイが目立つのも全然問題ないよ」
「はい。……ありがとうございます」
「カイ、巷では『死神タン』ってあだ名がついてるらしいよ」
ヒカリが俺の気分を盛り上げようと明るい口調で言った。
「なんなの、その『タン』って」
「なんでだろ、萌え要素があるのか……?」
自分で言って首を捻ってるヒカリを、耕助さんは鼻で笑った。
「てめえは『王子』だったよな」
「俺は兄貴の鏡デスヨ」
その返しに耕助さんはうっと胸を押さえる。
「貴様、俺の中の悪の心が具現化した存在か……っ!」
「ふはははは!」
いきなり変な小芝居に突入してどつき合いを始める兄弟。仲良しさんだなあ。
「……なるほどね……」
つまりデスサイズが俺の象徴になってるわけね。さっきの耕助さんの話じゃないけど、デスサイズが目立ってるなら俺自身の印象は逆に薄いのかもしれない。
それなら服の趣味を変えてゴーグルとデスサイズを隠せば、誰にも俺がその死神タンだとは気づかれないかな。
暗殺者といい死神といい、人から隠さなくちゃいけないものが増えていくなあ。
「ねえねえ!」
俺たちの前を歩いて何やら盛り上がっていた姉ちゃんとデイジーさんと陽南さんが、振り向いて声をかけてきた。
「みんなでクラン作らない?」
「クラン?」
「西4から作れるんだって」
「いいよねえ」
姉ちゃんとデイジーさんが頷き合っている。
えっと、クランって複数パーティが集まった同盟グループのことだっけ。それ俺たちに必要か?
「みんなクラン作りたいの? なんで?」
「だって、こういう少人数でいろいろ相談しながらだらっと休憩するたまり場欲しいじゃない」
「たまり場?」
首を傾げた俺に、デイジーさんが教えてくれた。
クランを作ると、メンバーが集うための拠点を設置することができるそうだ。
「デフォルトのクランハウスなら、マイルームから直接出入りするタイプの仮想ハウスだから基本無料。ハウス内の工房も個人で持つより割安で良いものが設置できる。人数が少なければ専用で使えるし」
メンバー全員の集うリビングルームみたいなものか。
そのうちお金が貯まったら、どこかの国にリアルハウスを建てても良いらしい。
メンバーが三人以上集まれば別にパーティじゃなくても作れるとのことで、それならたしかに魅力的かもしれない。
耕助さんが顎に手を当てて「ふむ」と呟いた。
「それじゃこのメンバーでクラン作るか?」
女性陣がわあっと歓声を上げた。
「わーい!」
「やったあ!」
ふと、隣が静かだなと思って見ると、ヒカリがなにやら困惑した顔をしていた。
「ヒカリ、どうかした?」
「あー」
ヒカリは少し気まずそうに言い淀んだ。
「実は俺、『ソフィア』っていう情報考察クランに誘われてて」
「情報クラン?」
ってあれだっけ、闘技大会に残ってた眼鏡の人みたいなやつ?
「そう、こないだあの眼鏡と飯屋で偶然会って、話してみたら意気投合しちゃって。まだ返事してないんだけど」
「お前、重箱の隅つつくの大好きだもんなあ」
耕助さん、言い方!
「別にクランが違ってもパーティは組めるし、行きたいなら構わないぞ」
「だって俺だけ仲間はずれとかさあ」
耕助さんの言葉に、ヒカリがわかりやすく拗ねている。
「でも保留してる時点で気になってるんだろ? やってみて抜けたくなったらいつでも戻って来ればいいんじゃないの? あたしたちはいつでも歓迎するしさ」
陽南さんが優しい眼差しで言った。
「そうだよ、ビジター機能があるからこっちにはいつでも好きに出入りすればいいよ。ついでに重要情報持ってきてくれると嬉しいかな」
デイジーさんがサラッと良からぬことを唆してる。まさかそれが本音じゃないよな?
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(2023.4.3修正)誤字修正しました。




