32.闘技大会(4)
いつもありがとうございます。
いよいよ決勝戦まで来てしまった。
相手は最前線パーティのひとつスカーレットのリーダー、赤い髪の緋炎。さぞお強いんでしょうね……。
さっきのミリアがあまりにも怖かったのですっかり腰が引けてる俺である。
開始の礼をする。
ううむ。奇天烈だと思ったデイジーさんの腹出し衣装だが、意外とこいつには似合っている。なんかよくわからない敗北感を感じるな。く、くやしくなんかないんだからねっ!
開始の合図とともに、彼の長剣から炎が噴き出した。ヒカリと同じ炎剣使いか。
炎には水属性が強いけど、あんまり付与持ってることは人に知られたくないから、ここで氷属性から水属性にチェンジはできない。
この構え。こいつも剣の経験者みたいだ。炎の剣とハンマーの柄を打ち合わせる。
俺の動きが自分でも固くなってる気がする。炎って本能的に怖いのかもしれない。
さっきの斬鉄団の人よりも大胆だがキレのある剣が次々と繰り出される。正面から受けると武器の不利が出てしまうからできる限りいなす。
埒のあかない打ち合いに、彼は後方へと距離を取った。
構えた剣から、今度は火球が放たれる。氷を纏ったハンマーでそれらを弾き飛ばす。
「む。やるな」
次に出された火球は倍の数だった。迎え撃つためにハンマーを構えると、視界の端で炎剣が立ち上がったのがわかった。あいつ、俺が火球に気を取られている間に技のチャージしてやがる。
「火炎斬!」
やけに早い。こいつチャージ短縮系のスキル持ってるな。火球を全部クリアする前に炎の塊が一直線に襲ってきた。
「凍れ!」
炎にハンマーを当てて相殺する。大量の水蒸気が立ち上って霧になり、周囲が真っ白になった。しまった、ゴーグルが曇って見えない。ゴーグルを少しずらして目を凝らした。
白い視界の中で赤いものが光った。あれって炎剣だよな。
赤い光はどんどん大きく膨れ上がっていく。まさかまた大技? 連発できるのか?
蒸気による霧がだんだん晴れてきた。
両手で剣を捧げ持って大技の体勢に入っている男の姿が現れる。マグマのような炎の壁が彼の背後に立っている。それはどんどん横幅を拡げていく。
え、これって回避できる規模じゃない。今いる対戦エリア全体を覆うぐらいの大きさがある。避けたら間違いなく場外だ。どうしよう。
緋炎は俺の姿を認めると、勝利を確信した顔で叫んだ。
「劫火斬!」
炎の奔流が一直線に向かってくる。
「くそっ」
ハンマーを身体の前に出して氷の力で壁を作った。技の衝撃がハンマーにあたり、手がビリビリ震える。煮えたぎる炎がハンマー前で二つに分かれ、俺の両横に高い壁を作る。熱い。
「ぐうっ」
なんて熱量だ。
ハンマーが押されている。まずい。頑張れ。あとちょっと。
ピシッ
小さな衝撃があった。
「え」
今の、何の音だ?
炎が少しずつ薄くなり、やがて止んだ。身体全体を包んでいた熱気が去り、周囲の景色が戻ってくる。
なんとか保ったか。思ったその瞬間だった。
「え」
ビシビシビシビシ、とハンマーの全体に大小のおびただしい数のヒビが走った。
「うっそ……」
興奮した観客がわああっと歓声をあげた。
俺は呆然としてハンマーを見る。
このハンマーって温度差に弱い材質だった? 凍らせて炎浴びたのいけなかった?
いわくつきの大鎚って言ったのに、いわくが全然解明されないまま壊れちゃったんですけど!!!
少し動くだけで黒い金属の塊がボロボロと落ちる。
相手も状況を見て理解したようだった。痛ましそうな顔すんな、ムカつくから!
「これで終わりだな」
相手は剣を掲げて厳かに宣言した。
最後の一撃。勝負はこれで決まる。
だが、俺も最後まで戦ってみせる。ひび割れたハンマーを身体の前で構えた。
「来い」
まっすぐ駆け込んできた相手が剣を振り上げる。俺も踏み出してハンマーをスイングさせる。
両者の武器が交わり、そして。
パアン!!!
と甲高い音とともに、ハンマーが砕けた。
黒い欠片が視界いっぱいに飛び散る。
その中を、なにか大きいものが横切って飛んだ。銀色にキラリと光る。
「…………は?」
それは半分に折れた相手の剣だった。クルクルと回転しながら落下し、地面に突き刺さった。
「え」
正面には、半分だけになった剣の柄を握って、驚愕の表情のままキラキラエフェクトが出始めている緋炎。
観客席が水を打ったように静まり返っている。
そして俺は自分の両手を見た。
真っ黒い欠片をボロボロと落としながら砕けたハンマーの中から現れたのは────白銀色のデスサイズ。
審判が高らかに勝者を宣告する。
爆発的な歓声が、闘技場を包んだ。
個人の部、表彰式。
俺は居心地の悪い気分で、闘技場の中央に設置された表彰台にのぼっていた。
俺を挟んで、闘技場内の救護室で復活した緋炎と、3位決定戦で見事に勝ちをおさめたミリアが並んでいる。もうすっかり負けた気分になっていたから、この結果は自分でも信じられない。
「あの、壊した武器って」
一段下で神妙な表情をしている緋炎にそっと囁く。
属性剣の、しかも良さげなお品だからきっとお高いんでしょうね。弁償とか言われたら困るわあ。
「闘技場で壊れた武器は開始前の状態に巻き戻すことが出来るそうだ」
「じゃ、君の剣も治る?」
「ああ。もう預けて来たから大丈夫」
「ああ~、良かった」
人ごとながら、嫌な汗をかいてしまった。それはもうびっしょりと。
「なあ、お前のハンマーってどういう仕組み?」
「いや俺も何がなんだか」
「ああ、うん……そういう顔してるな。そうか」
緋炎も眉を下げて笑った。
俺は肩に背負った白銀のデスサイズをちらりと見る。『天施の大鎌/STR+50%・武器破壊・石化/譲渡不可』。
このデスサイズの存在が「いわく」だったんですね。ハンマー部分の大きさより鎌の刃の方が長いことなんて突っ込まないぞ。このご都合主義め。
そしてウィンドウのスキル選択肢にさりげなく追加されている『大鎌術』。つまり今まで頑張ってあげたハンマーのスキルは無駄になって、もう一度Lv.1からやり直しってことですか。ちょっと切ない。
「ねえそこの二人、フレンド交換してくれない?」
反対側のミリアが声をかけてくる。
「いいぞ!」
緋炎がさっさと承諾してしまったので、一緒に俺も二人と交換した。どちらも有名で華やかなプレイヤーだから、引きこもってる俺と今後絡むことなんてそうそう無いと思うけど。
「カイくんおつかれ~」
三人で闘技場の控え出入り口を出ると、すぐ外に姉ちゃんとヒカリと耕助さんがいた。
「待っててくれたんだ、ありがとう」
合流したすぐ後ろから「じゃあまたね、カイ、緋炎」とミリアが声をかけてきて、彼女とそっくりの顔をした女の子と一緒に去って行く。
「おう、またな」
応えた緋炎も仲間が迎えにきていたようだ。少し離れた場所でたむろっている数人の男女のところに走って行った。
「「げっ」」
なにげなくそちらを見遣った姉ちゃんと耕助さんが同時に声をあげた。
「どうしたの?」
「佐々川だ」
「ささがわ?」
再度見ようとした顔をぐいと戻される。
「あの赤いのと一緒にいる白っぽい金髪の女。佐々川百合、営業の後輩で俺の筆頭ストーカーだ」
周囲に聞こえないよう低い声で耕助さんが言った。
「それってもしかしてスカーレットの聖女リリィのことかな」
ヒカリがちらりと確認して訊ねる。
「えっ、佐々川さんって聖女プレイしてるの」
「まさか自分で名乗ったりしてねえよな?」
耕助さんの呟きにヒカリが「そのまさかだよ」と答えた。
「うわあ……自分で言っちゃうんだ……」
姉ちゃんがどん引いてる。
俺たちは彼らが歩き始めたのとは逆方向にさささと足を向けた。
「今後スカーレットにはできるだけ近づかないようにしよう」
「そうだね、幸いあちらは目立つ人たちだし」
彼らが完全に見えなくなった場所でもう一度だけ振り向いて、姉ちゃんと耕助さんはほっと息を吐いた。そんなにあの人鬼門なのか。
「そうだカイくん、優勝おめでとう」
姉ちゃんがやっと笑顔を見せてくれた。
「すごいな、本当に優勝しちまうなんて」
俺の背中を叩いて耕助さんが笑う。
「それで景品どうだった?」
俺のはダメだったけど、とヒカリが苦笑しながら言った。
「じゃじゃん。付与のスキルカードです」
俺は帰り際に引き換えてきた副賞を取り出して耕助さんに渡した。
「おお! やった!!」
副賞は賞金の他、複数のスキルカードからひとつ選べる権利だった。付与の他に飛行やミニワープポイントなどいろいろあったけど。結局、ベスト4までが同じものを貰えたようだ。
あと、称号。『第一回闘技大会個人の部優勝者』ってそのままじゃん。『HP/MP+10%』だって。
耕助さんはカードを確認して戻して寄越した。
「それじゃすぐに相場調べてそれに色つけるから、GW明けに交換でいいか?」
「はい」
耕助さんがすごく嬉しそうで、こっちまで笑顔になってしまう。
「ヒカリもありがとな」
兄に対しては割と辛辣なヒカリだけど、がしがしと頭を撫でられて満更でもない顔をしている。
そして姉ちゃん、期待に満ちた眼差しでこっち見ないでください。道の真ん中で立ち止まったら迷惑だから。後でいっぱい頭撫でさせてあげるから。
カイ【人族】Lv.22
【職業】
料理人Lv.28 (暗殺者LV.7)
HP 279
MP 193
STR 89(195)
VIT 62(139)
INT 41(91)
MND 41(91)
AGI 78
DEX 85
LUK 48
※()内は特定条件下における数値(最大の場合)
【スキル】(*は天職スキル)
料理* Lv.33
製菓 Lv.25
食材鑑定* Lv.16
飲食物鑑定* Lv.14
醸造Lv.5
時間操作Lv.4
大鎚術 LV.7
大鎌術Lv.1
火魔法* Lv.16
水魔法* Lv.20
風魔法 Lv.18
土魔法Lv.5
氷魔法 LV.8
闇魔法Lv.1
毒使い Lv.25
気配遮断 LV.15
偽装 LV.7
隠密 LV.7
早着替え LV.7
付与 Lv.15
攻撃力UPLv.3
【称号】
・毒の申し子
・リンネ神の祝福
・逆走組の先頭
・■■■■神の使徒
・第一回闘技大会個人の部優勝者
続きが気になる方は下の星⭐︎をクリックしていただけると作者のやる気が出ます。よろしくお願いします。
また、読んでくださった方、すでに評価をつけてくださった方、どうもありがとうございます。励みになります。




