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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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31.闘技大会(3)

いつもありがとうございます。

 四回戦の相手は、俺もヒカリもその斬鉄団の人たちだった。


 出番を待って控え室で精神統一をしていると、先に順番が来て出て行ったヒカリからメッセージが入った。


『負けちまったのでそっちには戻らない。頑張れ』


「あー……」


 最前線パーティの人たちだもんな。そりゃ強いよな。たぶん俺も厳しいわ。


『お疲れ』


 メッセージを返していると係員に呼ばれたので、バフ菓子を咥えて闘技場に出る。


 相手の人は獣人の長剣使いだった。


 わあ、今まで当たった人と構えから違う。隙がない。おそらくこの人も、剣道か剣術の経験者だ。


 開始の合図とともに、まっすぐこちらの懐に飛び込んで切っ先を向けてくるのをハンマーの柄で迎え打つ。そのま数回打ち合い、下がって距離を取った。


 ああ、この人とは剣で打ち合ってみたかったな。重たいハンマーがもどかしい。


 向かってくる剣をひたすら避け、間に合わないものだけ柄に当ててやる。でかい重りをぶら下げた棒じゃ剣戟を防ぐだけで精一杯だ。


 でもこのままやられっぱなしでいいわけがない。


 ハンマーを反転して持ち直した。切り掛かってくる相手にハンマーの頭を向けるよう構えて一撃目を避ける。二撃目、相手が剣を持ち上げたタイミングでまっすぐ腹に突き出した。


 入った!


 後方にどつかれて吹っ飛び、それでもなお後ろ足で踏ん張って体勢を立て直そうとした相手に今度こそハンマーを全力で振り抜いた。腹部に当て、重心を持ち上げるように。


 今度こそ吹っ飛んで……ない。うわ、ライン内側で持ち堪えた。


 さっきも思ったけど、この人、体幹がすごく強い。


 剣を構え直した彼がこちらに向かって走り出す。速い。


 この人も速度系のスキルを入れたかな。さっきよりスピードがあがってる。剣の切先が頬を掠める。めっちゃ首のへん狙ってくるな。


 俺はこんなモンスター向けのでかいハンマーで人を殴り殺すとか、正直ゲームでもごめんなので場外を狙って戦ってきたけど、刃物武器の人は切り刻むのが本分なんだもんな。致命傷を狙ってくるわけだ。


 とりあえず、その機動性を奪うのが先かな。


 地面にハンマーを打ち付けて足元を凍らせ、時間短縮でこちらからいっきに距離を詰める。


 滑る地面に一瞬逡巡した彼の剣にハンマーを当て、剣から前腕までをいっきに凍らせる。


 おっと。凍ったままで剣を振るってきた。


 動きにくそうなのにスピードが衰えていない。すごいな。


 ハンマーの柄で受けると衝撃で氷が剥がれ落ちる。それが狙いか。時間をかけてはいけない感じだ。


 もう一度、剣にハンマーを当てようとするのを躱される。空振ったハンマーをそのまま下げて胴に突き。


 体勢を崩したところを再度、大きく踏み込んでハンマーを振り抜く。彼は空中で体勢を整えようとしたけど、今度こそ場外だ。


 俺のWIN。


「ありがとうございました」


 握手をして控え室へ。これでベスト4か。


 意外となんとかなったな、っていうのが今のところの感想だった。


 やっぱりまだみんな練度がそう高くないし対人戦闘に慣れてない人も多いから、俺みたいな生産職がドーピングした状態でもなんとか食いついていけるんだろう。


 これが来月だったら戦闘職の人はもっと強くなっていて厳しかっただろうな。




 いよいよ準決勝。相手はピンク髪のボブカットの女の子だった。


 名前はミリア、外見は15~6歳くらいで、FPS出身だとヒカリが教えてくれた子だ。


 闘技場の歓声がさっきまでとは桁違いで大きい。可愛い子だし人気あるんだろうな。


「ミリアちゃーん!」


 複数男性のかけ声が響いた。え、なに……アイドルのファンクラブ的な?


 もしかして今回はアウェイな感じ?


 これ彼女のことうっかり殴ったりしたら、ヘイト集めて彼女のファンに虐められたりしないかな。ネットで炎上とかごめんなのですよ……。


「カイくんがんばれー!」


 群衆の応援に混じって、高い女の子の声が聞こえた。姉ちゃん?


 思わずきょろきょろと周囲を見回す。人多すぎてどこにいるのかわかんないや。


 でも今の、たしかに姉ちゃんの声だった。


「うう……姉ちゃん、俺頑張るよ」


 ハンマーを握りしめて、よろよろと開始線に立った。


 彼女の武器は双剣。これもスピード勝負の武器だな。しかも、さっきの長剣よりもさらに取り回しが軽くて速い。重量武器のハンマーには不利どころじゃない。


 開始の合図とほぼ同時に、目の前をびゅっと刃が横切っていた。


 ひえ、怖いよ!


「避けた!」


 姉ちゃんにちょっとだけ似た若草色の瞳が見開かれる。が、その間も手は休めない。左右から薄い刃が襲ってくる。すんでのところで必死に躱す。今の、刃先がゴーグルに当たった。前髪切れてない?


「すばしっこいわね!」


 バックステップで距離を取ろうとしたら、クロスした双剣から風の刃が飛んできた。


 風属性剣かよ!


 ハンマーを突き出して止める。その上にひらりと跳び乗ったミリアが回し蹴りで頭を狙ってきた。当たる直前に脚と同じ方向に転がって躱す。


「しぶとい!」


 体勢を整える間もなく、今度は上から突き刺すように銀色の刃が迫ってくる。ハンマーの柄を横にして彼女の身体ごと押しとどめる。すごいアグレッシブな人だなあ。


 彼女が跳び退いたところでハンマーを引くと、風の刃がいくつも立て続けに飛んできた。


 ハンマーを盾にして受け止める。と、ミリアの姿が視界から消えた。


「しまった!」


 風の刃に気を取られて見失った。


「もらったあ!」


 真上から現れたピンクの髪。綺麗な弧を描いた刃が左右から俺の首に迫る。って、首狩り族かよ! 時間短縮!


 後ろに倒れるようにして避ける。目の前をしゅっと刃がクロスして掠めていった。


「いまのを避けた?」


 彼女の瞳孔がかっ開いてる。まじでこわい。姉ちゃん、俺もう帰りたいよ。


 転がって体勢を整え時間短縮をかけて、襲ってくる双剣とハンマーの柄で打ち合う。こんな重たい武器で二本の剣を防ぐなんてほんと無理。MPがぐんぐん減っていく。


 もう早く勝負をつけよう。でないと俺が泣く。


 ミリアからいったん距離をとり、氷礫を最大量で出す。さっきとは逆だ。ミリアがそれらに気を取られた一瞬に自分に時間短縮をかけて一気に距離を詰めた。


 ハンマーを振りかぶって、自分より小柄な女の子をこんなでかいハンマーで殴るとかしたくないんだけど仕方がない、せめて一度で済むようにと渾身の力で振り抜いた。


 ミリアの身体が宙を舞う。


 場外。わああっと歓声があがった。


 ラインの外に背中から落ちたミリアは、なにが起こったのかわからないような、呆然とした顔だった。

評価・ブックマークをありがとうございます。いつも励みになっています。

(2023.1.9修正)改行を一部変更しました。

(2023.1.30修正)誤字を修正しました。

(2023.2.20修正)脱字修正しました。

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