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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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30.闘技大会(2)

いつもありがとうございます。

 一回戦はヒカリも俺も楽勝だった。


 俺はたしかに他の戦闘職の人たちよりレベルもパラメータも低いけど、ハンマーと菓子のバフでなんとか追いかけられる数字には上げられてるはずだった。


 ただ、過去に俺が仕留めた賞金首が配信を観てるといけないから、カメラの前では毒霧を使用できない。付与スキル持ちだってことも不特定多数の人に知られないように、最初に決めたひとつの属性以外はハンマーに付与しないといった縛りプレイになってしまっている。


 だけど、代わりに使えるものもあった。


 なんと師匠に貰った時間操作のスキルが、生物相手にも使えることがわかったのだ。いや、これ有能すぎないか?


 人間にも使えるから、自分にかければ敏捷性に欠ける重量武器のハンデも多少は緩和できる。MPをめっちゃ喰うから多用はできないけれど。


 それで単純だが氷で動きを封じてハンマーで殴る戦法にした。


 一撃で場外に吹っ飛ばし、一回戦通過。相手が物理攻撃のみだったのも助かった。


 二回戦は炎剣使い。相手が調子をあげてくる前に馬頭の時と同じように両腕を凍らせて、動けず動揺しているところを場外に吹っ飛ばした。


 三回戦の相手は風属性の大剣使いだった。


 彼が剣を振るう度に暴風が吹き荒れ、近づくことさえできない。これ、ゴーグルがなければ目も開けていられなかったな。つけてきて良かった。


 身体ごと飛ばされそうになるのをハンマーの重みで堪える。隙だらけの今、攻撃されたらひとたまりもない。


 俺は氷属性のハンマーを地面に叩きつけた。そこを中心にして、足元が一面氷に覆われる。俺は自分の氷だから移動できるが、相手は足を一歩踏み出せばずるりと滑るので俺に近づくことはできなくなった。このため、近接武器同士なのに遠戦だ。


 相手が飛ばしてくる風の刃をハンマーで受け止める。こちらは氷の礫。ハンマーを振ると氷が出てくるとか、一寸法師かな。


 それらも風で簡単に防がれてしまった。風刃を氷礫で防ぎ、氷礫を風刃で防ぐ。応酬が続く。


「まずいな、堂々巡りだ」


 この膠着状態ではレベルが格下で他にたいした技も持ってない俺の方が不利。思い切った策に出るべきか、いや、ここが我慢のしどころか。痺れを切らした相手がアクションを起こした時が勝負だ。


 そして、相手が大技を出そうと大剣を真上に持ち上げた。


 今だ。


 俺は移動時間を短縮していっきに距離を詰め、相手の顎めがけてハンマーを下からスイングさせる。


「なっ、どこから!」


 驚愕の表情で大剣を構えようにも一瞬遅く、相手の身体が吹っ飛ぶ。転げて起き上がろうとしたところを、もう一回スイングで場外勝ち。




「おつかれさまー」


 控室に戻ると、ヒカリが売店のジュースを買って待っててくれた。お礼を言って受け取る。


「これでお互いベスト8か」


 広い控室にはもう勝ち残った人間しか残っていないためガランとしている。


「まさか自分がここまで勝ち残るとは思わなかった」


「俺もだよ。残ってるの、有名プレイヤーばっかりだし」


 ヒカリが顔を顰める。


「そうなんだ?」


 俺にはそういった知識が全然ない。今のパーティ以外の人間には極力関わらないようにしてるし、なるべく人がいない場所を選んで行動してるからな。


「あそこにいる人たち」


 と、ヒカリは目で反対側の壁際に座っている二人組の男たちを示した。ひとりは獣人だ。黒い耳がシュッと立っててなんか格好良いな。


「あの人たちは最初に西3へ入った斬鉄団っていう一番有名なパーティのメンバー」


 名前からして硬派な感じだ。


「で、あっちの窓んとこに座ってる赤い髪は斬鉄団のライバル、スカーレットのリーダー。いまどちらが先に西4へ入るかで張り合ってる」


 あれ。あの赤い人、どこかで見たことあるような気がする?


 そんな有名パーティが行くような場所には近づいてないはずだけど。って、えええ?


「ちょっと待て」


 思わず声が出た。


「ん? どした?」


「いや、あのスカーレットさんの服ってさあ」


「あ」


 ヒカリもようやく気づいたようだ。


 あの、首元と両腕をしっかりと隠しているくせにヘソと見事な腹筋がこれでもかと露わになっている衣装は、デイジーさんの工房にあったもので間違いなかった。


「え、あれを着る奴いたの?」


「すげえ本物の勇者だわ」


 視線に気づいた彼がこちらを向いたので、俺たちはさっと顔を逸らした。


「次はあそこにいるピンク髪の女の子だな、あれは界隈じゃ名の知れたゲーマーだ。プロじゃないがプロ以上の腕だと噂されてる」


 ヒカリが解説に戻った。


「いつもは同じ顔した双子の相棒とニコイチだけど今日はひとりだな」


 俺よりちょっと年下くらいの外見の女の子が、退屈そうに空中で指を動かしている。ウィンドウをいじっているのかな。


「あんな小柄なのに強いんだ? すごいね」


「オビクロに来る前はFPSにいた歴戦の戦士だ、外見に騙されんじゃねえぞ。あとは……あそこの眼鏡の人は情報屋だな」


 ヒョロリとした男性の、こちらもウィンドウを操作する指が宙を泳いでいる。どちらかといえば学者っぽい風貌で、あまり強そうには見えない。


「そんな職業もあるんだ」


「いや、自称。ゲーム内の情報を集めて商売をしている。断片情報繋ぎ合わせて考察なんかもやってる知識パーティのメンバーだな」


 へえ。いろんな遊び方があるんだな。


「あとひとりは……まだ試合中か」


「いやでも、ヒカリすごいね。ちゃんと情報収集してるんだ?」


「どれもよく聞く名前だぞ。この世界でのわりと一般常識みたいなもんだからきちっと頭ん中入れとけよ」


 ヒカリは俺と二人だけだと素の樋口の話し方になる。王子様のような優雅な外見でギャップがちょっと面白いな。

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(2023.1.9修正)改行を一部変更しました。

(2023.2.20修正)脱字修正しました。

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