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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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29.闘技大会(1)

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 あっという間に闘技大会当日になった。正確には、本戦当日。


 いざ申し込んでみれば、トーナメント方式と言っても全プレイヤーが参加できるわけじゃなくて、先に予選が待っていた。


 まずは各プレイヤーが闘技場にいるNPCの戦士と戦って、戦闘データを数値化したもので順位をつけ、上位64名が本戦のトーナメントに参加できるというものだ。予選の戦闘は三回まで挑戦できて、その中から一番良い成績を使用する。


 それで、俺とヒカリはなんとか二人で本戦出場を決めることができた。俺はたぶんギリギリだったろうけど。いままでそれほど熱心に戦闘してこなかったから、上位64人に入れたってのは素直に嬉しい。


 この日のためにデイジーさんにHPが上がる服やら防御力が上がる新しいブローチやら作ってもらった。


 ちなみに彼女が最初に出してきた服は、ファンタジーアニメなんかでよく見る腹の部分がべろっと開いたチュニックだった。どんだけごつい鎧着込んでも剥き出しの腹にヒットしたら一発で死ぬだろ、と突っ込まずにはいられない衣装である。


 まあオビクロの場合は衣服の能力はそのパーツ範囲全体に及ぶので、腹が出ていてもちゃんと防御は効くのだが。


「野郎のヘソと腹筋にどういう需要があるんですか」


 割と本気で訊ねたら、無言でキレたデイジーさんに拳で頭の両側をグリグリされた。大変痛かった。


 結局、低い舌打ちをしながらもロングの革コートとハイネックセーターにダメージジーンズのような服を出してくれたので、なんだかんだ言ってもデイジーさんは優しい。


 あと、左手を隠すために黒い手袋をする。包帯じゃないからな! そこ、殺し屋いうな!


 一緒に衣装を買いに行ったヒカリは鮮やかな青地に金糸で鳥の羽根のような刺繍が入ったスタンドカラーの衣装の上から金属製の全身鎧を着て、王子様みたいな裏地が赤くてでかいマントを背後にバッサアと靡かせていた。


「そういう格好、平気なんだ?」


 と訊ねたら、


「俺、ヒカリの存在自体が兄貴のコスプレだと思ってやってるから」


 と真顔で返ってきた。


 弟にここまで言わせるリアルの樋口兄、興味深いな。




「六回勝つと優勝なんだって」


 闘技場前の広場で、石の丸椅子に座ったヒカリがトーナメント表を指で数えて言った。


「ヒカリは優勝目指してるの?」


「それが目的じゃないけど、行けるとこまでは行きたいかな」


「カイくん! ヒカリくん!」


 明るい声が俺たちを呼んだ。


 顔をあげると姉ちゃんと耕助さんがこっちに歩いてくるところだった。


 姉ちゃん、今日は俺とお揃いになるようにハイネックセーターとショートパンツに膝上ブーツを履いて、いつものネコ耳パーカーを羽織っている。なんかのエージェント助手みたいで可愛らしい。そして三十路無精髭で背の高い耕助さんと並ぶと絵面がちょっと事案ぽい。


「カイ、忙しいのに無理言って悪いな」


 耕助さんが現実モードで済まなさそうな顔をするので慌てて両手を振った。


「都合がついたから大丈夫ですよ。でも駄目元なんで期待はしないで貰えると」


「うん、出てくれるだけで充分だ」


 頭をくしゃりと撫でられる。わあ、でかい手。


 それを見た姉ちゃんが「おねえちゃんもあたまなでる~」とぴょんぴょん跳んで言うので、身体を屈めて姉ちゃんにも撫でて貰った。


「えへへへ。勝てるようにおまじないしとくね」


「ありがと姉ちゃん」


 耕助さんとヒカリが引いてるように見えるのは気のせいですよねー。


「姉ちゃんたち、観覧席映されないよう気をつけろよ。油断大敵だからな」


 ネコミミパーカーを姉ちゃんの頭にきちんと被せてポンポンしてやる。


「カイくんはついに配信デビューになっちゃうわね」


 いや、と答えて俺は陽南さんに作って貰ったゴーグルを見せた。


「これを使うから」


 顔半分を覆い隠すような形のものだ。暗殺仕事のために用意したけど、まだ未使用だから人前に出しても大丈夫だろう。


「はわー。かっこいいね」


「ありがと」


「ヒカリくんは大丈夫?」


 姉ちゃんに話を向けられて、ヒカリは肩をすくめた。


「俺、目元隠すと逆にリアル兄貴の顔に近くなっちゃうからそのままで」


「ああーたしかに」


 ヒカリと耕助さんの一番の違いはその目元だ。ヒカリは大きなタレ目で、リアル耕助さんはちょっとつり気味の切れ長な感じ。その違いが印象を大きく変えていたけど、それを除くと案外似た顔の兄弟らしい。たしかに姉ちゃんも一度はヒカリが樋口兄じゃないかと疑ったくらいだしな。


 てことは、顔を出すのも結構リスキーじゃないのか? 大丈夫かね。


 闘技場からベルボーイのような制服らしきものを着た人が出てきて、大きなベルをリンリンと振り鳴らした。


「お待たせしましたー! 出場者の方は控室にお入りくださーい!」


 広場にいた人間が一斉にそちらを見る。


「呼んでるね」


「うん、行ってくる」


 姉ちゃんと耕助さんに手を振って、俺たちは闘技場に入った。




 ヒカリは前半ブロックで俺は後半ブロックに振り分けられているから、もし勝ち進んでも決勝までは当たらない。ちょっと安心だ。


 体育館くらいの広さで出場者全員が入る控室の壁に背を預けて、ヒカリに持ってきたおやつの袋を渡す。


 中身は言わずと知れたバフつきのお菓子、渾身の作STR+15。


「サンキュ……いや、すごいな、+15かよ」


「持てる技術全部注ぎ込んで作った」


 フフフ。驚いてる驚いてる。


 今回は攻撃力UPのスキルを追加取得して、その付与も合わせてこの数字になった。いずれスキルポイントに余裕ができたら他のUP系スキルも取って、体力や防御力のバフ料理も用意するつもりだ。


「同じ効果は重ねがけできないから一試合一個な。10分しか保たないから直前に食べなよ」


「了解」

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(2023.1.9修正)改行を一部変更しました。

(2023.2.20修正)脱字修正しました。

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