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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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3.姉ちゃんと一緒

いつもありがとうございます。

 ファンタジーといえばまずヨーロッパ風にするのがお約束なのだろうか。


 日本よりも乾いた空気の色と、強い日差しと石造りの街並みがそこにあった。建物が全体的に白っぽい。前にテレビで観たスペインの古い街に似ている。


 人々の服装がどこかコスプレじみている以外はまるで現実と区別のつかない光景に、俺は改めて衝撃を受けた。そういうものだと頭では理解していたけど、これが0と1から成るデータの世界だとはなかなか信じがたい。


 石畳の道路を歩く。手も足も動いているし運動で鼓動も速くなっているけど、本当の俺は今ベッドの上でベタっと伸びてる訳だしな。


 そう考えるとフルダイブVR技術ってやっぱり不思議だ。



 待ち合わせ場所のギルド前広場は歩いて三分ほどの場所だった。


 このゲームのマップは基本的に白紙状態になっていて、行った場所に応じて地図も作成される仕組みだが、渡り人の仮宿やギルドなど必要最低限の場所だけは最初から記されている。


 道は描かれていない真っ白な中にポツンとギルドが表示されていたので、そちらの方向に行くよう歩く。


 サービス初日ということで俺たちと同じように広場で連れと落ち合う人も多いようだ。初期装備を身につけた人の流れに着いて行ったらいつのまにか目的地に到着していた。


 それにしても人口密度が高い。姉ちゃんを探そうにも、みな同じ服装なのが見つけにくさを助長している。


「どういうアバターにしたのか聞いておけば良かったな」


 姉ちゃんにメッセージを送ろうとウィンドウを開いた時、くいくいと服の裾を引く感触がした。


「海くん?」


「えっ」


 ちょっと下の方から女の子の声が俺の名前を呼んだ。視線を向ける。


 ぱかりと口を開けて俺は数秒固まった。


「あ、やっぱり海くんだよね!?」


「…………姉ちゃん?」


 そこに立っていたのは、小学生くらいの小さな女の子だった。


「うん、そう! お姉ちゃんだよ」


 女の子はにこーっとお花が飛びそうな笑顔を浮かべた。


 マジか。


 よく見ればたしかに姉ちゃんの面影がある。


 深みのある青い色の髪を両側でサイドハーフアップにして、キラキラ輝く大きな瞳は黄緑色。身長は俺の胸の下くらいしかない。そして子役モデルみたいな美少女だった。


「海くんかっこいいね。お姉ちゃんびっくりしちゃった!」


「え……てか、なんでそんなにちっさくなってるの」


 姉ちゃんも可愛いですね。弟もびっくりです。


「子供の姿の方が知り合いに気付かれにくいかと思って。それに小さい方が他人と目が合いにくいでしょ。設定可能年齢で一番小さい10歳にしちゃった!」


 声も子供っぽく少し高めに調整しているみたいだ。姉ちゃんは社会人になってからわざと声を低めにして落ち着いた雰囲気を演出してたこと、俺知ってる。


「どう? 私だってバレると思う?」


 上目遣いで小首を傾げるとか、なんなのこの人。どこの小悪魔だよ。


「全然大丈夫」


 ぐっとサムズアップして太鼓判を押した。


 実際こんなキラめいた魔法少女みたいな女の子、キリっと理知的で大和撫子風の姉ちゃんとはイメージがかなり違うのでよほど親しい人間でなければわからないと思う。


 ただし、別の意味での危険はありそうだ。これは俺がしっかりせねばなるまい。


「でもそんなに小さいと武器とか大変じゃない?」


 ううん、と姉ちゃんは首を横に振った。


「パラメータは他の大人と一緒だから別に非力じゃないのよ。身体操作も補正がしっかりしてるから違和感なく動けるし。ただ他の大人が大きく感じるから、巨人の国に来ちゃったなーくらいの感覚だね」


「へえ、最近の技術ってすごいんだな」


 とりあえずこの人混みを抜けるため、俺たちは手を繋いで歩き始めた。


 俺が小さい頃よく姉ちゃんがこうやって手を引いてくれたけど、いつだって姉ちゃんの手は俺よりも大きかったからなんか変な感じだ。


 俺はウィンドウを開いてフレンド情報を確認した。


「プレイヤーネームは……ネモフィラ? ってどういう意味? なんか噛みそう」


「花の名前なんだけど、言いにくいでしょ? だからネムとかネーちゃんとか呼べばいいと思うの」


 あ。そういうことか。


 姉ちゃんは俺が慣れない名前じゃなくて、いつも通り『姉ちゃん』と呼んでもいいように考えてくれたんだ。


「ありがとう。姉ちゃん天才だな」


「うふふ。もっと褒めてくれていいのよ」


 こましゃくれたドヤ顔がなんか微笑ましいな。


「海くんもカイくんなのね。助かるわ」


 俺の名前は海と書いて「うみ」と読むのだが、子供の頃女の子みたいな名前で嫌だと駄々をこねていたら、姉ちゃんが「かい」と呼んでくれるようになったのだ。その習慣は俺が大きくなった現在でも続いている。姉ちゃんと一緒にプレイするから、今回はそのままアバターの名前に使用したのだ。


「カイくん、天職は『料理人』なのね』


「ランダム選択試したら出たんだ。高級食材食べまくるのもいいかなって」


「ふふ。じゃあ頑張って狩らないとね」


「姉ちゃんは『狩人』?」


「うん。天職スキルに『隠密』があればなんでもよかったんだけど」


 隠れることに全振りですねこの人。


「そうそう。名前は非表示にした方がいいよって会社の人が言ってたわ」


「名前?」


「『情報を見る』っていう項目。ほら」


 自分の顔を指差す姉ちゃんを見てみる。


 姉ちゃんのぷにっと柔らかそうな頬の横あたりに小さな『i』マークが浮かんでいた。そこをタップすると『名前 ? /レベル1/狩人/「よろしくおねがいします」』と簡単なプロフィールが出る。


「へえ、こんなのあるんだ?」


 ウィンドウの設定から『提示情報の編集』を開いて、名前の部分を非表示に変更した。たしかに知らない人に勝手に名前を知られるのってなんかイヤだ。


「フレンド以外と組む時に相手のレベルがわからないと困っちゃうもの。最後のコメント欄は得意な武器とか書いておくといいんですって」


「なるほど」


 俺の得意武器。

 アレを武器と呼んで良いのか、まずはそこから迷うんだけどな。

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(2023.1.9修正)改行を一部変更しました。

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