表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/181

27.謎の餞別

いつもありがとうございます。

 静まりかえった資料室に足を踏み入れる。


「失礼しまーす」


 室内を見回しながら声をかけるが、返事はない。俺はまっすぐ地図が置いてある棚に向かった。


 皇国の地図は大きいものだったので、机がある場所まで運んで広げる。


 ウィンドウの中のマップにラインが引かれていくのがわかる。


 これって古い時代の情報だろうか。今は大厄災でいろいろ変わってるはずだよな。まあ、古いものでも多少は参考にはなるはずだ。


「皇国にいくの?」


 いきなり耳元で囁かれた。


「~~っ!」


 悲鳴をあげなかった自分を褒めたい。


 飛び退くように振り返ると、小首を傾げたアリスさんがおっとりと微笑んでそこに立っていた。


「カイさん、いらっしゃい」


「こ、んにちは」


 まだ心臓がバクバクいってる。


 相変わらず気配がなかった。


「カイさんは皇国に興味があるの?」


「ええ、まあ、はい」


 マップを作り終わったので、皇国の地図を元通りに折りたたむ。


「実は料理人の修行が終わったのでここを出て行くことになったんです」


 彼女は手で口を覆って「あらまあ」と小さく呟いた。


「師匠たちに旧皇国でドラゴンの肉を調達してこいって言われちゃったんです。でも俺の実力じゃすぐには無理だから、しばらくは戦いの修行をしにあちこち行こうかと思ってるんですけどね」


 アリスさんはびっくりしたように目を見開いて、それから声を立てて笑った。


「ふふふ、ドラゴンかあ」


「本当にいるかもわからないんですけどね」


「いるわ」


 優しく微笑んだまま、アリスさんは言った。


「きっといるわ、ドラゴン」


「あ……ありがとうございます」


 なんか励ましてくれてるっぽい?


「それじゃ、お餞別にいいものあげるわ」


 形の良い指先が俺の額に伸びてきた。ふわりとした風のような感覚。ユリアさんのお祖父さんの時と同じだ。これって。


【称号を獲得しました : ■■■■神の使徒】


 …………なんですと?


 称号の効果は『アルケナ神の領域内でSTR/INT+100%・スキル「闇魔法」追加』


 ちょっと待って!


 数字! 数字おかしいよ!


「あと、これもね」


 柔らかいけどちょっとひんやりした手が俺の左手を上からぎゅっと握って離すと、甲に現れたのは謎のタトゥー。


 効果は『■■■■神の紋章 闇魔法耐性+30・アルケナ神の領域内でVIT/MND+100%』、譲渡不可。


 ねえ、なんでこれさっきから伏せ字なの!


 闇魔法関係の神様って誰よ! 怖いんですけど!


「旧皇国に行くならきっと役に立つわ。頑張ってドラゴン狩ってね」


 邪気のない笑み。これって親切でやってくれてるんですよね?


「神様の名前がわからないんですが……」


「読めないうちは知る必要はないわ」


 はい?


「神様に限らず、名前ってそういうものよ。然るべき時にはきっとわかるから、そうでないなら気にしなくていいわ」


 当面はこのままってことですか。


「……ありがとうございます、アリスさん」


 彼女はふわりと花が咲くように笑った。


「元気でね」


「これからも時々遊びにきますよ」


「そうね、またきっとどこかで会えると思うわ」


 あれ、この受け答えなんか変じゃないか? ここではもう会えないようなニュアンスに聞こえる。


「アリスさんもどこかへ移動するんですか?」


 訊ねると、彼女は「内緒よ」と人差し指を唇に当てた。


「アリスの正体は本の魔物なの。だから世界中の図書館を渡り歩いているのよ」


「じゃあ、また次に会う時もどこかの図書館で司書をしているんですね」


「きっとそうよ」


 それじゃ俺もまめに各地の図書館に寄るようにしようか。


「次に会った時のお土産話、楽しみにしてるわ」


 わあ、なにげにハードル上げられてる。人に話せるような冒険をしなくちゃいけないってことだよな。


「アリスさんもお元気で。お世話になりました」


「うふふ。またね、ばいばい」


 手を振る彼女に軽く頭を下げて、俺は資料室を退出した。


 最初から最後までどことなく得体の知れない人だった。


 俺が気づかなかっただけで、なにかのクエスト関係の人だったんだろうか?


 でも俺は特に問題を解決した覚えもない。偶然うっかり紛れ込んじゃった?


 この闇の紋章、なんか怪しげだし。


 ゲームだから変なことにはならないだろうけど、もしこれがラノベによくある異世界転生だったら絶対やばいフラグ立ててるよな。


 騎士団の敷地を出て、路地を歩きながら左手の甲のタトゥーを見る。黒い花のようなシンメトリーの紋様。


「……ん?」


 アイテム詳細の欄に書いてある一文が目についた。『着脱不可』。


「えっ」


 慌てて手の甲を擦るがびくともしない。


「これ移動できないの!?」


 いや、待って!


 これってまるきりアレじゃん、厨二プレイに欠かせないやつ。いわゆる、


「……封印されし左手……?」


 は、恥ずかしい。いや、強くてありがたいアイテムだってのはわかってるんだけど。でも、人に見られるのはちょっと……かなり……無理だな、うん。


「とにかく手袋買ってこよ」


 俺は慌ててお店に走ったのだった。




(2023.4.3追記)『■■■■神の紋章』に『アルケナ神の領域内』という条件がついているのは神様名の誤記ではなく意図的なものです。何度か誤字修正のご指摘をいただいてまして、ご心配をおかけして申し訳ないです。

皆様からの誤字脱字のお知らせにはいつも助けていただいております。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ