2.いよいよ開始です
今回はざっくりとした設定の話です。
オービタルワールド・クロニクル。これがGK社が新しく発売するVRMMOのタイトルだ。略してオビクロ。
直訳すると「軌道上の世界の年代記」。
この世界では、プレイヤーは『渡り人』と呼ばれ、百年に一度どこからともなくやってきてどこかへ去ってゆく存在であると定義されている。つまり渡り人が移動する軌道上にある、数々の世界のひとつをゲームで体験するわけだ。将来、続編が欲しくなったらいくらでも足せる設定だよね。
渡り人が降り立つ大陸には、山脈によって分断された東西南北および中央の5つの国がある。
全てのプレイヤーは、そのひとつ西国ウィンドナからゲームを開始する。
サービス開始は正午だったので、俺は姉ちゃんが会社から帰ってくる前にいちどログインして設定とチュートリアルだけ済ませておいた。
ゲームは夕食と入浴を済ませて夜から開始だ。
現実世界の一時間は、ゲーム世界での三時間に相当する。オビクロではそろそろ丸一日が経過した頃だ。
『チュートリアル終わったから今から外に出るね』
自分の部屋で時間を潰していると、電子音とともにスマホに姉ちゃんからのメッセージが表示された。
これはオビクロ世界と連携したアプリで、ゲーム内と現実世界でメッセージを遣り取りすることができる代物だ。姉ちゃんとは先にこのアプリでIDをフレンド登録してある。
『了解。俺も今からログインします』
ヘッドセットと両手両足にセンサーを取り付け、ベッドに横たわるとゲームを起動して目を閉じる。
エレベーターに乗ったような軽い浮遊感とともに目を開けると、自宅とは違うシンプルな造りの部屋にあるベッドの上にいた。オビクロのプレイヤーそれぞれに与えられる『マイルーム』である。
ログインとログアウトは基本的にこの部屋で行われることになっていて、その他に倉庫や金庫、クローゼットなどが備え付けてある。他人は入ることができない。
俺はベッドを降りて鏡で軽く身だしなみを整えた。
俺のアバターは、生体データに5センチ身長を足して180センチにした以外、他の造形は全く弄っていない。
事前にVR専門店のデータサービスで設定している時に少し顔を変えようかと試してみたけど、自分と似て非なる感じがなんか生理的に駄目だったのだ。
結局、素のままの造形で、なるべく自分には似てないように見えるカラーリングにすることで落ち着いた。
普段の自分より長めにした髪の毛は銀色、瞳は青紫色。これに合わせて肌を少々白めにした。
いかにもアバターっぽい感じが気に入っている。
そして現在のスキルと装備はこんな感じだ。
カイ【人族】Lv.1
【職業】
料理人Lv.1
HP100
MP100
STR(筋力)11
VIT(耐久力)11
INT(知力)10
MND(精神力)10
AGI(敏捷度)12
DEX(器用度)12
LUK(幸運度)10
【スキル】(*は天職スキル)
料理*Lv.1
水魔法*Lv.1
火魔法*Lv.1
食材鑑定*Lv.1
飲食物鑑定*Lv.1
製菓Lv.1
【装備】
渡り人の旅装(チュニック/パンツ/マント/ブーツ/ウェストポーチ)
料理人の初期装備(調理器具セット/初心者向材料セット/補助魔法ブレスレット/下級ポーションx5)
ギルドカード(冒険者ギルド/商業ギルド)
金貨10,000コルト
種族は人族。ドワーフとか獣人とかエルフなんてのも選べたけど、それらは種族特性でパラメータの成長率が変わるという話だったので、おそらくゲーム素人の俺向きではないと判断してパス。
このゲームは職業の変更が簡単でいろいろ試すことができると説明にあったので、プレイ方針が最初からしっかり固まってる人は他種族の方が有利な場合もあるのだろう。
初期スキルはスタート時の職業『天職』によって決まる。
職業を選択すると、それぞれの天職に応じた装備とスキルを貰える。天職で得たスキルは経験値に加算があって成長しやすいそうだ。
特にやりたい職業もなかった俺はランダムボタンを押して出てきた『料理人』にしていた。それに合わせて、スキルや装備も料理人スターターセットみたいな組み合わせになっている。
天職以外のスキルを追加したい場合は、基本的にはスキルポイントというものを使ってスキル選択リストの中から取得する。この選択リストは自分の行動次第で増えていくそうなので、今どうしても欲しいスキルがなければ温存しておいた方が良さそうだ。
あと、スキルはたまに称号やイベントの報酬なんかで手に入る場合もあるらしい。
俺は料理だけじゃなくて菓子も作りたいと思ったので、天職スキルに加えてスキル『製菓』をポイントで追加しておいた。
そんなわけで、とりあえず姉ちゃんと合流するために出かけることにする。
マイルームの出入口はひとつ。扉に近づいてみると『行き先を選んでください』というポップアップが出た。
ただし、現時点で選択できるのは『西国ウィンドナ第二の街ウェスセカンド』のみで、その下の余白は灰色になっていて読めない。
このウェスセカンドがゲーム開始地点、いわゆる始まりの街だ。
この大陸では各都市に『渡り人の仮宿』と呼ばれる施設があって、渡り人は世界中の仮宿からこのマイルームに出入りすることができる。ただし、一度も訪れたことのない都市の仮宿は使うことができない。
自力で到達した街が増えれば、このポップアップの選択肢も増えて行くとのことだ。
現在唯一の選択肢『ウェスセカンド』を指定して扉を開けると、小さなロビースペースがある。そこから外に出ればウェスセカンドの大通りだった。
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(2022.11.25修正)サブタイトルのナンバリングを間違えてたので修正しました。
(2023.1.11修正)表記ミスを修正しました。




