14.初めての境界戦(2)
いつもありがとうございます。
周囲の温度が急に上がったような気がした。
「火属性か!」
俺は近くにいたヒカリさんとデイジーさんの武器に水魔法を付与した。耕助さんのところへ行こうとして、炎を纏った拳が飛んできたので間一髪で避ける。
馬頭は見えない視界で当てずっぽうに拳を振るっていた。完全に頭に血がのぼっている。
「剣が入った!」
斬りつけたヒカリさんが声をあげた。
「水属性が効いてる!」
それならなんとかなるかもしれない。急いで残りのメンバーの武器にも水魔法を付ける。
視界を塞がれた馬頭は、前より隙だらけではあるが、動きが激しくてなかなか近寄りがたい。
「あの腕、なんとか止められんかな」
果敢なアタックで敵の体力は少しずつでも確実に削れているが、俺たちも時々拳に当たっている。削り切るのが先か、ポーションが無くなるのが先か。敵の体力ゲージは見えないため、まったく予想がつかない。
「きゃっ」
馬頭の拳が避け損なったデイジーさんをかすった。次のもう一撃を前に出た耕助さんが庇って受け止める。ドォン、とすごい音がした。さらにもう一発逆の手で来る。轟音が響く。
「ぐうっ」
耕助さんは受け切った。すごいパワーだな。
「大技出すよーっ!」
姉ちゃんが叫んだ。味方には当たらない仕様なので単なるみんなへのお知らせだ。
「貫く嵐!」
姉ちゃんが上方に矢を放つ。それは放物線を描くと無数に分裂して雨のように馬頭にふりそそいだ。
『グギャアアアアアア』
怪物が悲鳴をあげて身体をよじった。水属性で放たれた技で馬頭の全身から蒸気が立ち上り、開いた口からボタボタと涎が落ちた。
かなり効いてる。
「誰か大技行ける?」
「チャージ時間が要る!」
姉ちゃんの問いにヒカリさんが答えた。俺はまだハンマー初心者なので大技は無理だ。
「こっちで引き付ける! チャージしろ!」
大楯を構えて耕助さんが言った。
「あ」
唐突に閃いた。できるかどうかわからないけど。
俺はハンマーに氷属性を付与して耕助さんのところへ走った。
「来い!」
耕助さんがスキルで馬頭を呼び寄せる。
振り上げられた馬頭の拳がまっすぐ大楯に向かった。
「ここだ!」
拳が大楯に当たって動きが止まった一瞬に、こちらも横からハンマーを打ち付けた。
「凍れ!」
氷属性のハンマーの威力に精一杯の補助ブレスレットの氷も足して馬頭の腕を氷で包む。
『グアァ……』
馬頭がそのままの姿勢で数秒間止まった。屈強な腕がブルブルと震える。腕を包んだ氷が砕けて落ちた。
「行ける……!」
誰かが言った。
『グオオオオオオ!』
怪物は凍った腕を意志の力で勢いよく振り上げた。氷塊が飛び散った。
「カイ、こっちも氷を頼む!」
耕助さんが光りはじめた大楯を手に叫んだ。彼の背後に回って氷属性を付与する。
陽南さんが駆けてきたので彼女のハンマーにも付与をかけた。
「よし、もう一回!」
怒り状態の馬頭の炎が一層燃え上がった。
拳がまっすぐこちらに向かってくる。
耕助さんが一歩前に出て大楯をぐっと構えた。
「愚者の反撃!」
轟音。
当たると同時に耕助さんの技が発動した。自らが繰り出した衝撃が馬頭に跳ね返り、その瞬間厚い氷が拳の先から肩までビシビシと走るように覆い固めた。
「よっしゃあ!」
すぐに逆側の腕が迫ってくる。耕助さんはすぐさま大楯を構え直す。それが大楯に当たるかどうかのタイミングで、
「鉄打ーっ!」
陽南さんが反対側の肘に大技を叩き込んだ。こちらも二の腕から肩までが凍りつく。
氷で固められた両腕を動かそうと馬頭がもがいた。
そして、馬頭の正面に陣取ったヒカリさんが長剣を頭上に大きく掲げた。
「幻光!」
長剣から立ち昇った光が巨大な剣の形を取る。ヒカリさんはそれを渾身の力で振り下ろした。
光の大剣は馬頭を縦に真っ二つに斬り裂いた。
縦に一直線に赤い線が入った巨体を前に、俺たちは声もなく結果を見守る。
やがて災厄の下僕は頭部から灰のように崩れ、塵になってキラキラエフェクトとともに消えた。
ポーンと電子音が鳴った。
【戦闘終了しました】
【みなさまにお知らせします。ウェスセカンド北の境界『召喚されし災厄の下僕』が初討伐されました。これより西の国ウィンドナ第一の街ウェスファストへのルートが解放されます】
「うわあ、ワールドアナウンスだよ!」
「やったあ!」
俺たちは飛び上がって声をあげた。それぞれとハイタッチをする。
「すごい! 勝っちゃったよ~」
「やったな!」
ポーンと電子音が鳴った。
【称号を獲得しました : 逆走組の先頭】
あれ、ちょっと運営に皮肉られてる?
称号の詳細を開くと『最初にウェスファストへのルートを開いたことを讃える』とだけ書いてあり、特別な効果はないようだった。
その代わりに初討伐報酬というものがインベントリに入っていた。『剛毅のベルト』、効果はVIT+10%だ。物理防御がパーセントで増える。
それから通常の討伐報酬が『豪炎のブーツ』AGI+20・火魔法耐性+5。ドロップ品には『火の魔法石』、『馬頭魔人の角』『馬頭魔人の心臓』『馬頭魔人の爪』『馬頭魔人の硬骨』なんてものが並んでいる。
何に使うのかさっぱりわからないけど、デイジーさんと陽南さんが歓声をあげているところをみると生産素材としては良いものなんだろう。
「みんな大技すごかったですね。どれも格好良かった!」
俺の言葉に振り返ったパーティメンバーたちは俺の頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「カイ君の付与がなかったら絶対厳しかったよ!」
「そうそう。物理だけじゃダメージ入らなかったもん」
肩の力がいっきに抜けた。
俺は新しいハンマーがあるとはいえ戦闘向けのスキルレベルは低いから、正直、本格的な巨大モンスター相手にまともに戦えるとは思ってなかったんだ。
少しでも役に立てたのなら良かった。
「さて、境界戦はまだ終わってないよ。これから西1の街に入って仮宿を開放しないと」
ヒカリさんが言った。
そうだった。次の街に忘れずにショートカットを作っておかないといけない。
俺たちはぞろぞろと神殿を出た。建物の横に前回は見当たらなかった道が出現している。
ウィンドウに表示されたマップは白紙だけど、その道を進むように矢印が表示されているのでそのまま進む。
「ヒカリさんたちはもう西3の街に行った?」
彼らは越境が初めてじゃなさそうだったので道すがら訊いてみた。
ヒカリさんと耕助さんは頷いた。
「NPCの冒険者二人と組んで行ったよ。今日の馬頭に勝てたんなら向こうもそんなに難しくないんじゃないかな」
あっ、その手があったか!
俺と姉ちゃんはお互いに目配せした。NPCならば絶対に会社の人間じゃないよね。名案だ。
「NPCってどうやって見つけるの?」
「ギルドで手配して貰うんだよ、渡り人以外って条件で。まあ時間が合うなら俺らも手伝うし、呼んでくれてもいいよ」
「ほんと? 助かるわ」
大物との戦い方もなんとなくわかってきたし、そちらに挑戦してみるのもいいだろう。
もともと廃神殿の位置がエリアの北端あたりに位置していたこともあって、第一の街ウェスファストの街壁にはさほど歩かずに到着した。
冒険者ギルドのギルドカードを見せて中に入る。近くに立っていた警備の騎士に『渡り人の仮宿』の道筋を訊ねると親切に教えてくれたので、そのまま仮宿まで行き、みんなに挨拶をして今日はログアウトした。
これで次からはマイルームの扉からこの西1に直接出られるはずだ。
なんだか当初想像していたよりもずっと冒険らしい冒険になったな。まさかあんな大きな怪物と戦うことになるとは思わなかった。
姉ちゃんが楽しそうならなんでも良いと思ってたけど、俺自身もこのゲームが好きになってきたみたいだ。
カイ【人族】Lv.17
【職業】
料理人Lv.20
HP 234
MP 174
STR 68(75)
VIT 46(50)
INT 34(37)
MND 34(37)
AGI 70
DEX 64
LUK 40
※()内は特定条件下における数値
【スキル】(*は天職スキル)
料理* Lv.24
水魔法* Lv.10
火魔法* Lv.9
食材鑑定* Lv.7
飲食物鑑定* Lv.5
製菓 Lv.15
毒使い Lv.19
付与 Lv.10
気配遮断 LV.10
大鎚術 LV.2
風魔法 Lv.14
氷魔法 LV.2
【称号】
・毒の申し子
・リンネ神の祝福
・逆走組の先頭
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