13.初めての境界戦(1)
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場所の地図はスクショで送っておいたので件の廃神殿の前で待ち合わせだ。
ヒカリさんと耕助さんは二人とも全身値の張りそうな戦士系の金属製防具に変わっていた。のんびりレベル上げしている俺たちと違ってすごく頑張ってゲームを進めてる感じだ。
「あたしは陽南! よろしくな!」
デイジーさんが連れてきたのは20歳くらいに見える女の子だった。
赤銅色の肌と炎のような赤のロングヘアのポニーテール。活発な話し方といい、その名の通り夏の太陽を彷彿とさせる雰囲気の少女である。ちょっと耳が尖っているけど。
「陽南さんってもしかしてドワーフ族?」
「ご名答! ドワーフだよ。あ、呼び捨てでいいよ」
にかり、と笑顔も明るい。
「あたしは最初から職人になるって決めてたからドワーフが一番都合良かったんだ」
「思ってたよりも人族と見かけが変わらないんだね」
「身長の高さ制限と、あと髪も肌も薄い色にはできないって決まりがあるけどな。エルフだとその逆だっけな」
綺麗な人だけど話し方が雑というか男っぽいというか。あまり気負わずに話せる感じの人だ。
「陽南ちゃんはすっごく腕の良い鍛治師なんですよ」
デイジーさんが付け加えた。
「おう。良かったら武器作る時は声かけてくれな」
陽南さんが背中に背負っている武器も大きなハンマーだった。俺はまだ始めたばかりだから立ち回りとか参考にできるといいな。他人を見てる余裕があればの話だけど。
「デイジーさんの武器はなんですか?」
「双剣ですよ」
「となると全員物理で近接四人に遠距離と盾か。魔法職がいねえな」
無精髭を撫でて耕助さんが呟く。
「俺、付与使えるんで火と水と風、あと氷と毒、付けられますけど」
「ええええっ!?」
俺の言葉に耕助さんと陽南さんがすごい食いつきを見せた。
「ちょ、待って。付与なんてどこで手に入れたんだよ」
「幻のスキルだろ本当に存在したのか」
「え、そんなに珍しいんですかこれ?」
「「当たり前だろ!」」
あまりの勢いにたじろいでしまう。
「スキルは関連した行動をすることによって選択リストに追加されるだろ。速く走れば敏捷スキル、矢を命中させ続ければ必中スキル。でも付与はその足がかりになる行動が存在しない。付与を使えない人間が付与スキルを得ることはできないんだ」
耕助さんが丁寧に説明してくれた。
「なるほど……」
そういえば俺のリストに付与スキルが出たのも毒付与を使った後だったな。
「カイ君はどうやって付与を手に入れたの?」
あっ。陽南さんの肩越し、向こうにいる姉ちゃんが気まずそうに目を逸らした。そうだよな、姉ちゃんのドジが発端だったもんね。これは言いふらすわけにはいかないかな。
「すみませんそれ秘密で」
「あー……そう」
「仕方ねえな」
断ると、耕助さんと陽南さんはあっさり引き下がってくれた。ちょっと意外だったので訊いたら、本人が開示したくない情報を深追いするのはマナー違反なのだそうだ。これ、俺も気をつけよう。
「付与なら戦闘中に属性変更できるわな。とりあえず毒で行って属性判明した時点でかけ直し頼めるか?」
耕助さんの提案で方針はまとまった。
「ねえ、よかったらこれ持っていって。試作品なんだけど」
デイジーさんがみんなに小さな金属を配った。『猫のブローチVIT+3』、その名の通り猫のシルエットを形取ったブローチだ。物理防御力が少しあがる効果が付いているようだ。
「うわあ、可愛い」
「ほんの少しですけど」
でもその少しが勝敗を分けることだってある。
「助かるわ、ありがとうデイジーちゃん」
みんな口々にお礼を言って、マントやチュニックにブローチを取り付けた。
それから全員分の武器に毒を付けて、俺たちはいよいよ『召喚されし災厄の下僕』のいる拝殿へと向かった。
薄暗い拝殿で篝火だけが揺れる中、境界のモンスターは昨日見た時と同じように目を閉じていた。
「うわ、でかいね」
陽南が呟く。
だいたい建物に換算して二階分の高さだ。
「下半身がないからあの場所からは動けない。遠隔攻撃の有無でだいぶ違うかな」
「それじゃ行くよ」
【ウェスセカンド北の境界『召喚されし災厄の下僕』との戦闘を開始しますか? Yes/No】
全員充分な間合いを取ってからYesを押した。
固唾を飲んで見守る中、化け物がゆっくりと目を開け咆哮した。
『グオオオオオオオオオオッッ』
身体をビリビリと震わす音量に、思わず両耳を押さえる。馬頭の両腕に巻き付いた鎖が解け、耳障りな金属音を立てて床に落ちた。
「そりゃあっ」
駆け寄った陽南さんがハンマーをスイングさせた。しかし自由になった馬頭の太い腕が彼女を狙ってものすごい速度で振り下ろされる。陽南さん、とっさに前転回避へと切り替える。
すごいな彼女、今の完全に打撃モーションに入ってたのにあの攻撃を避けられるのか。
そして馬頭の拳のスピードが想像していたよりずっと素速くて危ない。
とか観察してる場合じゃなかった、俺も戦わなくては。
「挑発するぞ!」
耕助さんがスキルで馬頭のヘイトを引きつけ、近接武器組が一斉に駆け寄って腹部に当てる。が、
「固い!!」
まるでコンクリートに布団を一枚被せたような感触だ。攻撃が入った気がしない。
ヒカリさんとデイジーさんの方を見るとまったく傷がついていない。
「刃物が入らない!」
拳がこちらに飛んでくる。走りながら当たる直前に転がって避け一発打ち込むが、次に来たもう片方の拳をくらってしまった。ハンマーごと身体が宙を舞う。
「カイくん!」
落下時になんとか受け身を取った。
痛覚はカット設定しているけど衝撃だけでもすごかった。HPが7割持っていかれてる。後ろに下がってポーションを飲んだ。
「二発食らったらアウトだぞ! 当たったらすぐポーションな!」
俺の注意喚起にみんなが了解の言葉を発する。
「ネムちゃん目潰しできる?」
「やってるんだけど! 鼻が邪魔で! 通らない!」
ヒカリさんの問いに姉ちゃんが矢を射ながら答える。姉ちゃんの矢は、馬頭が首を振るだけで鼻先にはたき落とされてしまう。
これは魔法攻撃じゃないと効かないのか? ならどの魔法を付与する?
考えていたら耕助さんが叫んだ。
「近距離組! 少しだけ引きつけててくれ!」
「わかった!」
彼に何か策があるのだろう。とにかく指示通りに突っ込む。迫る腕を転がって避けた。他のみんなも腹を攻撃してまた転がる。敵がステゴロだけで良かった。だんだん速さに目が慣れてきた。時々、身体が追いつかなくて重たいのを一発喰らってしまう。下がってポーション。
馬頭の意識が完全に大楯から逸れた。
「ネム、来い!」
耕助さんが大楯を低い位置で水平に構えて姉ちゃんを呼んだ。すぐに意図に気づいた姉ちゃんが走り、跳び乗ったタイミングで大楯を跳ね上げる。
「どりゃああっ」
大楯をジャンプ台にして姉ちゃんが宙に舞った。
待て待て待て下着が見えたらどうすんだ!
と焦ったのは一瞬で、ちゃんとスカートの下に短パン穿いてたわ良かったー!
「いっくよー!」
馬の頭部と同じくらいの高さに跳んで頂点から弓を構える。放った矢は正確に片方の目を射抜いた。
さすが姉ちゃん、天才だよ! ちっちゃくても格好いいよ!!
モンスターがけたたましい獣の叫び声をあげる。
「もう一本!」
姉ちゃんは落下中の不安定な体勢から残った方の目も見事に射抜いた。すごい!
耕助さんが落下地点で姉ちゃんをキャッチする。
「よくやった!!」
『グアオオオオォッッ』
馬頭は両手で顔を押さえ、大きく口を開けて咆哮した。褐色の身体の色が徐々に赤く染まってゆく。
「む。第二形態か」
馬頭の全身から炎が噴き出した。
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(2023.1.9修正)改行を一部変更しました。




