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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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12.帰宅

寒いですね。暖かくしてお過ごし下さい。

 街壁までたどり着いた頃には日付が変わっていた。ウェスセカンドの街門は閉まっていたので門の外側で固まって朝まで仮眠を取る。オビクロでは現実四時間ごとに一回休憩時間を取らないといけないルールなので、俺と姉ちゃんは眠ったふりをして一回ログアウトした。アバターの身体はその場に残されているはずだ。


 本当はマイルームに戻らずにログアウトする場合は宿屋に泊まるか『簡易テント』を使うことを推奨されている。普通に野宿すると眠っている間にモンスターに襲われて目覚めたら死に戻っていたなんてケースもありうるからだ。


 でも今回俺たちはテントなんて持ってなかったのでそのまま眠るしかない。結局何事もなかったけど、今度からはちゃんとテントを買っておこうと思う。


 そして夜明けとともに街へ入り、女性たちと別れると僕と姉ちゃんはユリアさんを家に送って行った。


 まだ早い時刻だったけどユリアさんの家族はすでに起きていたようで、ユリアさんが家の扉を開けるとすぐに飛び出してきた。


「なんとお礼を申し上げて良いか……本当にありがとうございます」


 老人が両手を合わせて頭を下げ、他の家族もみなそれに倣う。


「どうぞ中へ。何もない家ですが精一杯のお礼をさせてください」


 なんというか、そこまで丁重にされてしまうと逆に居心地が悪くなってしまう。


「それよりユリアさんをゆっくり休ませてあげてください。お疲れでしょうし、俺たちはお暇しますから」


 地下水路で拾ったユリアさんの護符を本人に返却する。


「ちょっとお待ちなされ」


 踵を返しかけた俺たちを老人は引き止めた。


「我々の神の祝福を」


 老人が手を伸ばして指先でそっと俺の額に触れた。ふわっと柔らかい風が当たったような気がした。姉ちゃんにも同じように触れる。


 ポーンという電子音とともにお知らせが出た。


【称号を獲得しました : リンネ神の祝福】


「ありがとうございます」


「どうか良い旅を、世界を渡る方々よ」


 家族みんなが手を振ってくれる。こちらも振り返して、ユリアさんの家を出た。




 俺たちは少し歩いたところで立ち止まり、ウィンドウを開いた。称号の詳細を確認する。


 称号の効果は『リンネ神の領域内でSTR/INT+10%・スキル「氷魔法」追加』。


 特定範囲内で物理と魔法の攻撃力がUPするらしい。


「わたし、称号貰ったの初めて!」


 姉ちゃんが嬉しそうに頬を赤くしている。うんうん良かったね。


 スキル欄にちゃんと『氷魔法Lv.1』が増えていた。称号効果だからポイント要らずだ。


 そしてインベントリに『ユリアの祖父からの謝礼10,000コルト』という金貨の包みが増えていた。ハンマーを買って文字通りすっからかんになっていたのでこれは心底助かる。タッチしてお財布に移動しておいた。


「遅くまで頑張ったかいがあったね」


 オビクロ世界は朝だが現実世界ではそろそろ丑三つ時だ。


 春休み中の俺はともかく姉ちゃんは明日も会社があるので、今日の探索はここで終了することにしてまっすぐ仮宿へ向かう。


「ところでリンネ神の領域ってどこだろ? 護符にもそんなこと書いてあったけど」


「……マップにそれらしい表示ないわね」


 歩きながらざっと確認した姉ちゃんが首を傾げた。


「リンネ神ってのは、ずっと古くからこの土地に住んでいた人たちのいわゆる土着信仰なのね。今はクラディス教っていう女神信仰が主流で、街にある大きな神殿もみんなそれ。リンネ教は日陰に追いやられている感じ……っていうのがマニュアルの説明ね。これ以上の詳しいことは、どこか調べ物ができる施設に行かないといけないみたい」


 そういやこの国で本とか見たことなかったな。


「図書館ってどこにあるのかな」


「騎士団の人に聞いたらわかるかしら」


 話しながら来たら仮宿に着いてしまったので、本日はこれにてログアウト。




 流れが変わったのは、翌日のことだった。


「は? 今なんて?」


「今日の昼休みに会社でね、有理紗……デイジーちゃんに相談してみたんだけど、いちど駄目元で試してみたらどうかなって話になったの」


 姉ちゃんが夕飯の席で唐突に言いだした。


「……あの化け物のこと?」


「うん」


 寝耳に水である。


 なんでも職場で情報収集をしたところ、今居る西2から次の西3の街へ向かう境界のモンスターを倒したパーティは、プレイヤーレベルが13から18だったらしい。


「カイくん今16でしょ、私は14でデイジーちゃん17なんですって。だから誰か助っ人入れて試してみたらどうかなって」


「……………………べつにいいけど」


 どうしていきなりやる気になっちゃうかなあ……というのが箸を咥えて平静を装っている俺の正直な気持ちだ。


 だって俺、プレイヤーレベルは16あっても料理のレベルしか高くないもん。ハンマーだって始めたばっかりだし。戦闘職の同レベルとはパラメータが全然違う。


 でも俺は姉ちゃんのお供だから、姉ちゃんがやってみたいと言うなら反対できないよな。いいだろう、漢らしく散ってみせようではないか。


「助っ人はどうする? 下手に野良で募集して会社の人が来たらやばいんじゃない?」


「デイジーちゃんが生産職で知り合ったレベル18の友達を一人呼べるって。あとよかったらヒカリさんと耕助さんに声をかけてみたらどうかなって」


 パーティは6人までだっけ。ちょうどだ。


「わかった。連絡してみるよ」


 スマホから連動アプリでフレンドにメッセージ送ることができる。


 食後にその場で連絡すると、二人とも快諾してくれた。彼らもすでにレベルが20くらいあるとのこと。なんとも心強い。


評価・ブックマークをどうもありがとうございます。とても励みになります。

(2023.1.9修正)改行を一部変更しました。

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