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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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11.廃神殿

いつもありがとうございます。

「こちらにユリアさんはいますか? ご家族に依頼を受けて探しに来たんですけど」


 声を潜めて問いかけると「あっ」とひとりが小さな声をあげた。


「私です。私がユリアです」


「一体なにがあったんですか?」


 姉ちゃんが、端にいる人から順番に身体を拘束している縄を切っていく。


 ユリアさんは困惑した顔で首を横に振った。よく見ると目の下に隈ができていて、唇も乾いて切れている。


「それが……仕事から帰る途中、急に後ろから殴られて、気づいたらここで縛られていたんです。ゴブリンしかいないから理由もわからないし……」


「ゴブリン以外の者を見てないんですか?」


 女性たちは頷いた。


 ゴブリンってそんなに知能が高いんだろうか? って、それは運営の設定にもよるんだろうけど。


「まずはここから逃げましょう。立てますか?」


「カイくん!」


 姉ちゃんが遮るように俺を呼んだ。


 部屋の入り口から新たなゴブリンたちが飛び込んできた。その数15~6匹といったところか。一番後ろから、ひときわ大きなゴブリンが一匹入ってくる。身長2メートルほどの頭上に出たポップアップには『ゴブリンキング』と記されていた。


 こいつが親玉か?


「みんな鼻と口を布で押さえて!」


 姉ちゃんが女性たちに声がけするのと同時に、毒の風を勢いよく吹き付けてやった。紫色のエフェクトが出た集団にハンマーを構えて切り込む。


 前衛のゴブリンたちが勢いよく吹っ飛んでキラキラとともに消えた。


「うぉりゃあ!」


 人数が多くて密集しているのでハンマーを適当に振り回すだけでもよく当たる。そうやって蹴散らし、打ち漏らしたものは姉ちゃんが端から弓で仕留めていく。


 ふらつきながらも棍棒を振り上げたゴブリンキングの真下に駆け込んで顎下からハンマーを振り上げた。クリティカルで入った。


 巨体が後方へたたらを踏んだところへ追撃をかける。ハンマーは一振りが大きいから無駄振りしないよう頭に狙いを澄まして一回、のけぞった身体が戻ったタイミングで二回目。体勢を崩して前屈みになったところへ三回めのヒット。ゴブリンキングは床に倒れ、動かなくなった。




「ハンマーって強いなあ」


 キラキラエフェクトで消えていく大物を前に俺は感嘆を漏らした。フライパンとは威力が違う。


 残りの小物は姉ちゃんが綺麗に片付けてくれた。すぐに室内に元の静寂が戻った。


 女性たちの表情がさきほどよりもずいぶんとやわらいでいる。


「それじゃ脱出しましょう」


 と言ってはみたものの、今は夜だ。果たして外に出るべきか地下道に戻った方が良いのか判断に迷うな。


「うーむ……」


 姉ちゃんが少し考えてから言った。


「この人数で地下道だと毒が使いにくいんじゃない? 外のが良くない?」


「なるほど」


 そういえばさっきの戦闘でもそんな感じだったな。密閉空間で毒を撒けば耐性のある俺や姉ちゃんと違って、女性たちまでやられてしまう。


「それじゃ外に出よう」


 俺たちは先頭に俺、女性たち、しんがりに姉ちゃんの順で部屋を出た。


 階段とは逆方向に行けば出口があるだろう。廊下の突き当たりの扉を開けた。




 そこは大広間のような空間だった。おそらく拝殿だろう。廊下とはうってかわり、光が一切差し込んでいなかった。天井が高く広々とした空間の両脇に大きな篝火が焚かれている。


 暗さに目が慣れてきて、室内の様子がよく見えてきた。


「えっ……」


 祭壇の正面にある奇妙なもの。


 それは、地面に赤茶色い塗料で描かれた巨大な魔法陣から上半身だけ出ている巨大な化け物だった。


 地上に出ている部分だけで5~6メートルくらいあるだろうか。褐色の、人間に似た筋肉質の身体に馬の頭がついている。耳の両脇に捩れた角、筋肉の盛り上がった屈強な腕は二本。奥の壁に背中をつけて、手首にぐるぐると巻かれた太い鎖は天井に繋がれている。中世の画家が想像で描いた悪魔に似ている。


 下から見た限りで目を閉じて眠っているようだ。


 そしてその前方に置いてあるベッドくらいの大きさの直方体の石ってもしかしなくても生贄台ですよね!?


 そんなリアリティ要りませんから!


「ひえ……」


 ピロリンと高い音のアラートが鳴った。



【ウェスセカンド北の境界『召喚されし災厄の下僕』との戦闘を開始しますか? Yes/No】



 ちょっと待て! これ戦闘対象なの!?


「はわわわわ!」


 姉ちゃんが叫ぶ。


「無理! ぜったいムリ!」


 ですよねー。


 俺も全面的に同意して、さくっと【No】を押した。


 声も出せず身を寄せあってガタガタと震えている女性たちの手を引いて拝殿の端を出口に向かう。正面の観音開きの扉はすんなりと開いた。




 外に出ると森の中だった。月明かりの下、どこからかホーホーと鳥の鳴き声が聞こえてくる。


 急に普通の平和な場所に戻った気がして、誰からともなく安堵のため息が漏れた。


 名前の通り、あれは誰かが召喚した魔物なのだろう。女性たちはおそらくその良からぬ目的のために必要だったに違いない。


 あの場にゴブリンしかいなかったのは気になるけれど。もしかしたら黒幕がいるのかもしれない。でも、今はそういう話は止めておこう。


「ここ、どこだかわかりますか?」


 建物を振り返って女性たちに尋ねた。


「これは大厄災より前にあった旧聖皇国の神様の神殿だったと聞いたことがあります」


 この大陸の中央にある古代皇国のことかな。大厄災によって滅びたという伝説があるんだっけ。


 マップを確認すると、やはりいつも来ている森の北端あたりだった。


「方角はわかるから、歩いて行けばなんとかなるかな」


 森に沈んだ古い神殿だけど、足元を見ると新しい獣道らしきものができている。誰かが地上からも出入りしていたようだ。この道を辿れば街に出られるはず。


「まずはここから離れましょう」


 僕たちは森に入った。


 少し進んで広めに木々が開けた場所で休憩を取る。女性たちはかなり体力が落ちているはずだ。温かい食事を摂って休みを多めに入れながら進まなくてはいけない。


 夜の森だ。初見のモンスターがいるかもしれない。警戒しながら歩く。小さな獣やハンティングベアーを何回か撃退し、何度も休憩を取りながらゆっくり街まで帰った。

評価をどうもありがとうございます。いつも励みになっています。

(2023.1.9修正)改行を一部変更しました。

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