グリム
グリムの一人称が間違っていたので修正しました
僕→私
一度目を閉じ、もう一度目を開く。
そうすると何かが変わるんじゃないかと思って。
「攻性防壁も切……んだって……」
『はい……あのような少女を死な……のは忍びな……』
でも、どうやら何も変わらないようだ。
さっきと変わらず、少し離れたところで二人が話している。
驚いた事にここはまだ夢の中らしい。
『申し訳……せん。私の独断……。この罰はいか……にも』
「いや、それは……よ。私だって流石にあ……子供が炭……のは見たくない。
……ちょっと防壁の威力……しすぎたかな」
よく聞こえない話を聞き流しながら手元を見る。
大人のものとは違う子供の手。さっきと体も変わっていないようだ。
『……おや、旦那様、彼女が目を覚ましたようです』
「ん? 起きたのかい?]
声に顔を向けると、人形さんがこちらを見ている。
どうやら私に気付いたようだ。
背中を向けていた男の方がゆっくりとこちらに振り返った。
「……おぅ」
思わず、変な声がでた。
振り返った男、そいつはとんでもないレベルのイケメンだった。
綺麗な金色の髪、空を想わせる色の目。
隙が全く見当たらない整った顔には柔和な笑顔が浮かんでいる。
物語に出てくる王子様だと言われたら、信じてしまいそうな感じだ。
「……くっ」
思わず唸ってしまう。
イケメンで、さわやかな感じの雰囲気。
そして初対面の相手に躊躇なく笑顔を向けられる社交性。
間違いない……こいつはリア充だ。
もてない男達の敵。
僕のような陰キャとは生きる場所が違う生物だ。
どうしよう……困る。
そんな人種とはこれまでほとんど関わったことがない。
「おはよう。君に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「……は、はい」
悩んでいたら、イケメンが話しかけてきた。
僕みたいな陰キャじゃあどうやって会話したらいいかわからないよ……。
彼らと僕じゃあ、そもそもの価値観が違う。
だからわざわざ進んで会話なんてしないし、僕はこれまで事務的な会話しかしたことがない。
「私の名前はグリム。君の名前は?」
「あ、有須です……」
フルネームで言えば有須蔭斗だけどそこまでいう必要はないだろう。
……というかこいつがグリムなのか。
人形さんが言っていたこの屋敷の主。つまるところ超金持ちだ。
何ということだろう。
イケメンの上に金持ちとは……天は二物を与えずと言うがそんなのは嘘っぱちだった。
「アリスちゃんか。君はどこから来たんだい?」
「……アリスちゃんって」
アリスちゃんという呼び方に違和感を覚える
でも、すぐに今の姿を思いだした。今は少女の姿だ。そう呼ばれるのも仕方ない。
「……うーん」
……しかし、どこから来た、かあ……。
どこからだろう。なんとも言い辛い。それでも強いて言うなら――。
「――現実から?」
「え?」
目の前でイケメン――グリムが首をかしげる。
でもそう言うしかない。
ここは夢で、僕は現実から来たのだ。
「……えっと、何があったかというと――」
怪訝そうな顔をする彼に説明する。
仕事場からの帰り道、気付いたら花畑にいたこと。
男だったのに少女みたいな姿になっていたこと。
真っ直ぐで不思議な道を歩いてここに来たこと。
そして、そんなことは現実だとありえないからここが夢だということ。
今の僕にわかることを一通り話した。
「……花畑?……真っ直ぐな道?
……まさか、狭間の事か?それとも妖精郷?」
すると、グリムはぶつぶつと何かを呟き始めた。
何かを考え込んでいるように見える。
その様子も様になっていて、妙にかっこいい。
……イケメンは得だなあ。
というかなんで男なんだろう。
どうせ夢なんだから館の主人は絶世の美女でもよかったと思う。
全く融通の聞かない夢だ。
「……はあ」
軽くため息を吐く。
……しかし、この夢本当に長いなあ。
まあ、現実と比べるとよっぽど楽しいからいいんだけど。
『……どうぞお茶です』
「人形さん、ありがとう」
そんなことを考えていると、人形さんが紅茶を渡してくれる。
気が効くいい人形さんだ。優しい。
話しつかれていたし、これは嬉しい。
すきっ腹に温かいお茶が染み渡る。
ケーキを食べたけど、もうお腹が空いていた。
「……う」
いきなり物を入れたからか、お腹から大きな音がした。
グリムと人形がこちらを見る。
そこまで注目されると少し恥ずかしい。
「……そういえば、夕飯はまだだったかな。
これから作るけど君も食べるかい?」
イケメンが苦笑しながら提案してくる。
……まあ、もらえるのなら貰いたい。
お腹は空いている。ケーキはおやつであって、ご飯ではないのだ。
「……ありがとう、ございます」
「いやいや。ついでだからね」
グリムが人形さんと一緒に部屋から出て行く。
僕もベッドから下り、それについていった。




