#567 「「「駄目でしょ(やろ)」」」
「今更だけどさ」
「はい? どうしました?」
俺の横に座り、肩が触れ合う距離でタブレット型端末を操作していたミミが俺を見上げて首を傾げる。
「すっげぇ女所帯というか……これだけ人がいて男が俺一人ってのもとんでもないなと」
ええと? 何人だ? ミミ、エルマ、メイ、ティーナとウィスカ、クギ、ショーコ先生、ネーヴェ、セレナ、クリス、エデルトルート、ルシアにイゾルデ、あとまだ名乗ってもらってない女性近衛兵が三人。
タマモはクギの中に居るから除外するとして……十六人。十六人かぁ。
「あはは……まぁ、本当に今更ですね。でも、ヒロ様以外の男の人を今更クルーとして迎えるのも難しいんじゃないかと」
「それは本当にそう」
俺がこの女所帯でたった一人の男でも肩身が狭い思いをしないで済んでいるのは、女性陣がそのように取り計らってくれているからだ。同時に、俺と彼女達――ルシアとその護衛は除く――が所謂夫婦とか婚約者とか恋人とかパートナーといった男女の関係であり、また彼女達も俺という存在を納得の上で上手くシェアしてくれているからでもある。
この環境に新しく男性クルーが入ってきたら……肩身が狭いなんてものじゃないだろうし、女性陣も気を遣わなければならない部分が多くなってしまうに違いない。エルマとかティーナは風呂とかシャワーに入った後、下着姿でうろついたりしてることあるしな。ショーコ先生なんて下着どころが素っ裸で歩いてることもあるし。
「ウィンダステルティウスコロニーに行ったら、ヘイゼル・スターシップ社と剣を買いに行くことになるよな。多分ほぼ全員一緒に行動するだろ」
「そう、ですね……ショーコ先生は研究室に篭ってるかもしれませんけど」
「ショーコ先生は出不精だからなぁ……それにしても俺を除いて十五人。一人で十五人も美人さんを引き連れて練り歩いたらちょっとしたニュースになりそうじゃない……?」
「あー……SNSとかにホロ画像とかアップロードされそうですね」
ティーナ達とかネーヴェみたいな見た目がアレな合法ロリからセレナやイゾルデ達みたいなモデル体型の美人、それにミミやクリス、ルシアみたいな美少女にエルマやクギ、メイみたいなある意味変わり種の美人。それを引き連れて練り歩く傭兵風の男が一人。絶対目立つ。間違いない。
「いっそ俺一人で別行動して現地で合流した方が良くねぇ……?」
「そして一人で行動している時にトラブルに巻き込まれてまた女の子が一人増えるんですよね。わかります」
「ミミさん、それはちょっとチクチク言葉というやつではないか……? いや、何一つ否定ができないんだが、俺は無罪を主張したい」
にっこり笑顔でそう言われてしまってとても心が痛い。でも俺は悪くないと思うんだ。トラブルが向こうから飛び込んできたりするんだ。俺は悪くない。義を見てせざるは勇無きなりって言うじゃないか。眼の前で可愛い女の子がトラブルに巻き込まれていたら助けるじゃん。
「ヒロ様は目の前でトラブルが起こって誰かが困っていたら、放っておけませんもんね……私もそれで助けられましたから、それについては強くは言えないですけど」
「俺は無償の愛で全てを救う救世主や聖人じゃないんだから、誰でもは助けないぞ。ミミを助けたのだってほら、ミミが可愛かったからだし」
「本当かなぁ……? なんだか私、あの状況だともし私が男だったとしてもヒロ様は助けてくれたんじゃないかって気がするんですけど」
「そんなことはない。男だったら無視だ無視。男は自分でなんとかしろ」
俺はきっぱりとそう言ったが、ミミはあまり納得していないようだ。本当だって。男とか助けないって。今までだって男は放置して……いや、そりゃ助けられる範囲では助けてきた気がするけどさ。そりゃ敢えて見捨てたりはしないけどさ。
「なんだか面白そうな話をしてますね?」
そうしてミミと益体もない話していると、シャワー上がりらしいセレナが声をかけてきた。トレーニングウェアのようなものを着ているところを見ると、どうやら身体を動かしてきたようだな。ふむ、良いね。何がとは言わないがとてもいい。
「なんだか視線がいやらしいですね……別に良いですけど」
「むぅ……私もセレナさんくらい、こう……絞った感じに」
「ミミは今のままでいてくれ。それで、面白そうな話……俺が犬が歩けば棒に当たるレベルでトラブルに巻き込まれる話についてか?」
「その話ですね。そんなにトラブルに巻き込まれたり、それで女性が増えたりしているんですか?」
セレナの言葉に俺とミミは顔を見合わせ、それから女性が増えたトラブルに関して指折り数えていく。
「まずセレナだろ。こっちに来て宙賊に絡まれて、返り討ちにしてコロニーに行ったら悪徳官吏にネチネチと絡まれて、そこに颯爽と登場。その後のアレコレについては言うまでもないよな?」
「天文学的な確率で何度も再会しましたよね」
「そ、それはそうですね……」
身に覚えがありすぎるのかセレナが頬を引き攣らせる。多少は意識していたという話だが、セレナ視点では行く先々に俺達がいて逆に訝しんでいたって話だったもんな。
「で、エルマだろ。船から降りてメシを買えるところを探してたら向こうから絡んできた」
「その後はセレナさんも知っての通り、星系軍の船に突っ込んで賠償金を課されて首が回らなくなって、あわや監獄コロニーに収監される直前ってところでヒロ様に助けられた感じですね」
「そしてミミはエルマと出会ってエルマがクルーになるまでの間にコロニーでチンピラに路地裏に引きずり込まれそうになってたのを俺が助けたんだよな」
「あの時のことは忘れません。誰も……本当に誰も助けてくれなかった中、ヒロ様だけが私を助けてくれたんです」
そう言ってミミが俺の腕にぎゅっと抱きつき、身を寄せてくる。エルマにはあの時放っておけとか言われたんだけどな。それでも目の前でミミみたいな子が酷い目に遭うのは見過ごせなかったんだよな。あそこで見捨てていたら、寝覚めが悪いなんてもんじゃなかっただろうし。
で、ショーコ先生は目的の星系についたら速攻で乗っていた船が宙賊に襲われている場面に遭遇。助けてなんやかやした末に再会してそのままクルーへ。
クリスも同じく目的の星系に移動したところで襲いかかってきた宙賊の戦利品からクリス入りの脱出ポッドをサルベージ。その後お家騒動に巻き込まれて助けることになり、なんやかやあって婚約者に。
メイは追手への目眩ましのためにクリスと共に降下したリゾート星系で狡猾な統括管理AIに売り込みをかけられ、緊急離陸時にしれっと船に乗り込んでいたのでそのまま購入。
ティーナとウィスカは母艦を買いに行った先で突如俺に飛んできて俺が負傷。その後謝罪のために身体を差し出そうとしてきたりと何やかやの末に出向整備士としてブラックロータスに同乗。その後何やかやあって正式にクルーに。
クギは今から向かうウィンダステルティウスコロニーに着いたところでいきなり向こうから来た。発言がかなり不思議ちゃんだったが、ヴェルザルス神聖帝国の巫女で俺の出自に関わる情報を持っており、もし彼女の同行を断った場合「処分」されるという話もあってなし崩し的に加入。
そしてネーヴェはベレベレム連邦の戦艦の残骸をサルベージしたら缶詰みたいな謎のパーツに生体反応があって、生存者なら放っておけないということで開封したら非人道的生体ユニットやんけ! ということが判明。余命一年以下のボロボロの状態を放っておくことも出来ず、結局助けて面倒を見ることに。
タマモに関しては割愛。タマモの存在に関してはまだセレナ達には説明していないし、説明が面倒だから。遠くから「なんでじゃ!」って思念波が飛んできているような気がするが、無視しておく。
え? エルフのティニアとかリーメイプライムコロニーのリンダはって? ティニアが俺の船のクルーになることはないだろうし、そういう関係になったわけでもないから。リンダに至ってはあくまで数年後にクルーになるかもしれないね、って話だし。それでもミミは二人についても話してたけど。
「女を引っ掛け過ぎでは???」
「無罪を主張する!」
「いや、ちょっとそれは……偶然でそんなことあります?」
いつの間にかメイ以外の全員が休憩スペースに集まって俺の女性遍歴……というか引っ掛け話を聞いていた。メイもブリッジから話は聞いているだろうから、実質全員集合である。
「でも結局手を出してるわけですよね?」
「言っておくけどセレナとクリスに関しては俺、だいぶ自重というか自制してたからな? 積極的に食おうと思ってたら二人とももっと早くそういう事になってたからな? ティーナとウィスカに手を出すのもだいぶ悩んだんだぞ」
「それはそうやね」
「手を出してもらうまでだいぶかかったよね」
「此の身もそうですね。我が君は相手の立場や身をちゃんと慮って下さる方ですよ」
「私に関してはまだ手を出して貰ってないからね」
ティーナとウィスカ、そしてネーヴェの合法ロリ三人娘が俺の言葉に頷く。三人に関しては自制というかなんというか、あまりに見た目というか体格差が不安だから手を出しにくかったのもあるんだけどな。
クギに関しては巫女としての義務とか責務とかに関する感情が強すぎて、俺から迫るのはちょっとって感じだったし。
「私は速攻で手を出されたけどね」
「私も正式なクルーになったらすぐだったねぇ」
エルマはジト目を、ショーコ先生は面白がるような視線を向けてくる。二人は自立した大人だから、そりゃね。据え膳食わぬはなんとやらと言うし。俺だって手を出す相手の立場とかは考えるよ。
「何にせよ女難の相が強いというかなんというか……ええと、なんでしたっけ? 目立たないようにするためにヒロを一人でウィンダステルティウスコロニーに放流するって話でしたっけ?」
「そういう話でしたね。どう思います?」
「「「駄目でしょ(やろ)」」」
満場一致であった。それでも俺は無罪を主張するぞ。俺は悪くねぇ!




