#562 「ほう……? それは俺に対する挑戦だな?」
こうしんさいかい!_(:3」∠)_(おまたせしました
結婚式を終えたら? やはり初夜か? というかこっちにはそういう風習はあるのか? 地球の常識はこっちの非常識、こっちの常識は地球の非常識だったりするから、こういう暗黙の了解というか不文律みたいな領域の話って案外判断がつかないんだよな。常識であるが故か誰も説明してくれなかったりするし。
というわけで、どんな時にも頼りになるメイに小型情報端末のメッセージアプリを使って聞いてみた。
『俺の常識だとこうなんだけど、こっちだとどう? こっちの常識を知らないからこっちのやり方に合わせたいんだけど、そもそもどう動いて良いものかもわからないんだ』
事前に聞いておけば良かったと言えばそうなんだが、何せ全ての用意をホールズ侯爵家に任せてしまったからな……割とセンシティブな話題だから、うちのクルー達には聞き辛いし。早めにメイに相談しておけばよかった。
それに、俺も地球では結婚したことなんて無かったからな。結婚後、どういう流れでどこで初夜を迎えるものなのかもわからん。二人で住む場所なり新居なりに帰って致すものなのか? それともホテルに部屋を取るのか? なんもわからん。
なんとなくそういう風習があるよな? とは知っていても実際にどうなっているのかわからないしなぁ……そもそも婚前交渉が横行している社会で初夜なんて風習がそこまで重要なものなのか?
と、そう考えながら新郎控え室的な部屋――帝城の一室だ――で悶々としていると、バァン! と控え室の扉が勢い良く開いた。
びっくりした。今の俺は精神波を探知してかなりの範囲の人の動きを把握することができるんだが、そんなことを常時やっていたら疲れるからな。結婚式直後の今は流石に気を抜いていた。本当にびっくりした。
「な、なにごと?」
扉を開けて部屋の中へと突入してきたのは花嫁達であった。何れもウェディングドレス姿のままのセレナとエルマ、そしてクリスの三人である。その衣装のままデッドヒートを繰り広げてきたのか、若干髪の毛とか衣装が乱れている。全く息を切らせているような様子が無い辺りは流石は身体強化を施した貴族の令嬢達といったところだろうか。
「貴方がなかなか迎えに来てくれないので」
「抜け駆けは良くないわよね」
「私も出遅れるわけにはいきませんから!」
それぞれセレナ、エルマ、クリスのお言葉である。なるほど、もしかしてこのタイミングで俺が彼女達を迎えに行くのが正解だったのかな。しかしそれだと抜け駆けとか出遅れるとかいう話はちょっとおかしい気がするな。
などと考えていると、俺の小型情報端末がメッセージの着信を報せた。駄目だ、なんか長文だ。チラッと見ただけじゃ内容が把握できん。
「オーケー、落ち着いてくれ。まず、俺はこの後花婿がどう動くべきなのか把握していなかった。それで今、メイにこういう時の常識というか定石を聞いていたところなんだ。事前に把握しておくべきだった。すまん」
「……ああ、なるほど。そういうことですか」
「……そう言われてみると、ヒロにこの手の常識を期待するのは間違ってたわね。それも貴族の、となると尚更ね」
「……そうなんですね?」
俺の出自を完全に把握しているセレナとエルマは納得してくれたようだが、クリスはピンと来ないようだ。そう言えば、クリスには俺の出自について話した覚えがないよな。
「そうなんだよ。その辺りの話をクリスにもそろそろしないとな」
「……私だけ聞いていない感じですか?」
自分だけ除け者にされているように感じたのか、クリスが眉根を寄せて悲しそうな顔をする。いや、タイミングがね……? そうベラベラと話すようなことでもないし。
「クリス。私も聞いたのはつい最近……その、初めてした後のことでしたから。そういうタイミングで話をするのが慣例化しているだけだと思いますよ」
セレナがそう言って苦笑を浮かべる。別に意識的に肉体関係を結んでから出自について話をしようと考えていたわけじゃないが、なんとなくそういう時でもないとタイミングがな。
「そうなんですか……? それなら、仕方ないですかね……?」
クリスは納得しきれていないような表情だが、すまんがそこは許してくれ。自分のトンデモな出自を話すタイミングって難しいんだよ。今でこそ皆は受け入れてくれているけど、初めてエルマに話した時はあれでそれなりに覚悟が必要だったんだぞ。頭のおかしいやつ扱いされるかもしれないし。
「納得してくれると嬉しい。それで、この後はどういう流れなんだ?」
「陛下のご厚意で帝城に部屋を用意して下さっているようです」
「手回しの良いことで……」
ありがたいけどなんか嫌だなぁ……いくらなんでも下世話なことはしないと思うが。
いや、寧ろ陛下が用意した上で覗きだの記録だのして、それが発覚した方がよほど不名誉かつデメリットが大きいか。逆に安心できそうだな。
「ありがたくご厚意に甘えるとしようか。場所はわかるか?」
「わかりますが……全員で行くのですか?」
「そのつもりだけど」
「三人同時に相手するつもり……?」
「そうだな」
俺の返答に三人がなんとも言えない表情を浮かべる。気持ちはわからないでもない。風習的としては地球と同じく初夜という概念はあるっぽいし、やはり特別なものなのだろう。クリスに至っては初めての同衾となるわけだしな。
「元より型破りというか、他所様から見れば型無しなんだ。埋め合わせは後日たっぷりするから、今日のところは辛抱してくれ」
一人一人部屋に呼び出す形で三人順番に相手をするよりも、こっちのほうが俺達らしいだろう。帝国貴族的には褒められたことじゃなさそうな雰囲気だが、そもそも俺が言ったように何もかも異例なんだろうしな。気にしても仕方がないと思うんだ。
「それは良いんですが……大丈夫ですか? 身体強化処置を受けた三人を相手なんてできます?」
「いくらヒロでも基礎体力が違い過ぎるんじゃない?」
「ほう……? それは俺に対する挑戦だな?」
確かに二人、いやクリスも入れれば三人は身体強化処置を受けた貴族の子女だ。その身体能力はベッドの上でも発揮される。普通に考えると、いくら鍛えているとは言っても身体強化処置を受けていない俺が三人を同時に相手取るのは無茶だと言えよう。
「受けて立とうじゃないか。後で許してって言ってもやめてやらんからな」
「なんでそんなに自信満々なんですか」
「流石に三人相手は無茶でしょ」
「あわわ……み、みんなで……? よにんで……?」
いつもベッドの上で俺に負けまくっている二名が俺の強硬な態度に冷や汗を垂らし始めている。今更遅いからな。あと、クリスは予想外の展開にいっぱいいっぱいになってるな。可愛い。
「話は決まったな。誰から相手をするかはクリスに決めてもらおうか。さぁ、行こう」
三人を相手にしたら体力的には確かに敵わないけれども、俺にはサイオニック能力があるからな。こういう時のためにクギやタマモと修業を重ねてきた成果を披露しようじゃないか。
「ちょっと待って! ちょっとまって! それ絶対ダメなヤツでしょ!? セレナが大変なことになって――えっ、ちょ、身体が動かな……だめだめだめやめっ」
「ぴぇぇ……」
最終的にセレナとエルマの惨状を目にしたクリスが泣きかけた。感度三千倍とかは流石にショック死待ったなしだから、軽めにしたんだけどな。クリスには優しくするとして、二人にはもう少し頑張ってもらおうか。




