#560 「何やってんすか皇帝陛下」
現行作業のために近々更新休止します!
ゆるしてね!!!_(:3」∠)_
クリスとイチャイチャしたり、結婚式のリハーサルをVRでやったり、セレナとイチャイチャしたり、衣装の最終確認をしたり、エルマとイチャイチャしたり、帝都への降下準備を整えたり、ミミとクギに寝室に引きずり込まれたりしている間に結婚式当日と相成った。
アントリオンはグラキウスセカンダスコロニーに停泊させたまま、クリシュナを内蔵したブラックロータスで帝都グラキウスへ降下する。降下コースは厳密に定められたルート通りに。基本的に武装を封印した上で帝都グラキウスを守る近衛艦隊の監視下で降下する。
逆らうと最悪反逆罪で即時撃破されるという話だ。実際、年に数隻は馬鹿をやって消し飛ぶ船がいるらしい。こわいね。
ちなみに、降下先は帝城である。帝城の近衛艦隊専用の宇宙港である。そりゃ俺達の結婚式には陛下も御臨席なされるのだから当たり前といえば当たり前なんだが。何せ式場が帝城のホールだしな。
安全上の観点から陛下を帝城の外にある式場などに呼びつけるわけにもいかないし、そもそも陛下を帝城の外に呼びつけるなんて不敬であると言われるとそれはそうとしか言いようがない。
「これで相手は十人か? 大したものだな」
「余計なお世話でごぜーますというか、何やってんすか皇帝陛下」
二時間後の式の開会に備えていると、護衛を連れた皇帝陛下が俺の待機している部屋に突撃してきた。名誉子爵如きの式に臨席するだけでも異例だろうに、控室にまで顔を出すとかどうなってんだよ。
「なに、あまりお前に隔意を持たれるのも面倒だと思ってな。今回のホールズ侯爵令嬢に関する一連の流れは期待はしていたが仕組んでいたものではない、とな。ああ、言葉遣いについては普段通りで構わんぞ。余もオフモードなのでな」
「そりゃどうも。っつかそれ未必の故意ってことじゃねーか。俺もクルーも軽く死にかけたんだが?」
「その件については悪いと思っている。皇帝などと言っても全知全能ではないのでな。イクサーマル伯爵があの時点で大きく動くとは思っていなかったのだ。お前とホールズ侯爵令嬢が奴らの尻尾を掴んでくれることを期待して送り込んだのだが、どういうわけか尻尾を掴むどころか首を取ってきてこちらも驚いたぞ」
そう言って皇帝陛下が肩を竦める。悪いと思っているとか言いながら悪びれる様子も無いんだが。このファッキンエンペラーがよぉ。
「詫びと言ってはなんだが、ホールズ侯爵令嬢の船を用立ててやろう。なに、遠慮は要らんぞ。運用データだけは提出してもらうがな」
「待て、待ってくれ。ちょっと意味がわからない。詫び代わりに船をくれるのは嬉しいが、資金提供じゃなく船を用立てる? 帝国航宙軍の船でも横流ししてくれるってことか?」
「レスタリアスを譲ってやりたいのは山々だがな、そうはいかんし、譲られても持て余すであろう? これは公然の秘密なのだがな。実は帝室が運営している企業というのがいくつもあるのだ。その中にはシップメーカーすら存在する」
「そこから横流しというか、用立ててくれるわけか……いや、セレナに使ってもらおうとしているのはちょっと特殊な船なんだが?」
「ドローンキャリアであろう? カタログとデータを取り寄せたシップメーカーのうち一つが帝室の運営するものだ」
そう言って皇帝陛下が手を挙げると、護衛の騎士の一人がタブレット端末を俺に手渡してきた。タブレットの画面に映っていたのは、俺達が検討していた中でも購入にかかる費用が高すぎてちょっと厳しいだろうと考えていた船の姿だった。
SDC-021 Morriganとシップメーカーに名付けられているこの船は、強力なクラスⅢレーザー砲を二門と三機のプラズマキャノンドローン、六機のクラスⅡパルスレーザードローンを搭載しており、各ドローンは船に接続している状態でも発砲可能。つまり、ドローン展開前でも中型戦闘艦として強力な火力を発揮できるように設計されている。
無論、ドローンキャリアである以上はドローンを展開することによって多角的な攻撃も可能だ。特に宙賊艦のような脆く、小粒なターゲットを相手にする際にはこれがとても役に立つ。シールドも装甲も薄っぺらい宙賊艦相手にこの船の火力を全て叩きつけるのは過剰だからな。
「良い船であろう? スペックは最高だ。高くて全く売れんがな」
「駄目じゃねぇか。検討したけど高すぎて断念したやつだぞこれ。ブラックロータス並みのコストは許容できないよなって話になって」
「それが問題でな。中型艦としては足は早めだが小型艦を振り切れるわけではないし、小型艦ほど被弾を抑えられるわけでもない。宙賊のような小粒の敵を殲滅するのには便利だが、何せ高いしドローンキャリアなので高度な身体強化を受けた貴族でもないとまともに扱えん。主な販売ターゲットは貴族なのだが、売れていないので実績もない。それでは買ってくれる貴族も出てこないという悪循環でな。同じような価格でフリゲートや小型の駆逐艦が買えるし、そちらのほうが装甲もシールドも頑丈だ。それらよりも小さく小回りがきくのが売りなのだがなぁ……」
そう言って皇帝陛下が憂いを帯びた溜め息を吐く。めっちゃ喋るじゃん皇帝陛下。やっぱり皇帝陛下も男の子なんだな。船の話を始めると口がよく回る。
「広告塔は得意であろう? 例の傭兵ドキュメント番組放映後、スペース・ドウェルグ社のスキーズブラズニル級も売れ行きが良くなっているそうではないか。ついでに、船の内装を見直す傭兵も出てきて船の内装メーカーが高笑いしていると聞くぞ」
「なにそれ知らん……こわ。まぁくれるというなら有り難く頂くけども」
「そうしてくれ。式が終わった後に担当の者から連絡が行くようにしておくのでな」
そう言って皇帝陛下は満足そうな笑みを浮かべて去っていった。帝城内に限ってフッ軽なのだろうか、あの人。
「まぁ……良いか」
顔を合わせたら文句の一つも言ってやろうと思っていたが、詫びを入れられた上に高額の船まで下賜されたとあってはそうもいかんか。現金な話だが、数千万エネルする船をポンとやると言われたらなぁ……陛下から下賜された船だと言ったらセレナが萎縮しそうだから、黙っておくか?
いや、絶対に事情を聞かれるからそういうわけにはいかないか。可哀想だが、セレナには我慢して乗ってもらおう。そのうち慣れるだろ。




