#534 「やめてくれ、ミミ。その発言は俺に効く」
虚空を突き破り、様々な色に光り輝く結晶生命体達が出現する。その数は歌う水晶でもこの場でぶっ壊したのか? とでも言いたくなるほどの数だ。何もせんでもこんな数がグラッカン帝国で湧いて出てきたら、大惨事なんじゃないかね。
「初撃で数を減らす。巻き込まれないように注意してくれ」
『『『承知』』』
この第十一波に至るまでに見せた俺の活躍が功を奏したのか、俺の提案は神聖帝国艦隊の甲種護衛艦の船長達に快く受け入れられた。
まぁ、実際にはただ単に巻き込まれたらたまらないというものなのかもしれないが。
「念動光輪だ。ミミ、サポートを頼む」
「はい!」
ミミが勢い込んで返事をする。
今までミミがクリシュナのオペレーターとして担当していた仕事というのは、所謂通信士と航海士を兼ねたようなものであった。平時はナビゲートの他、コロニーや他の船との通信を担当し、戦闘中は有力な敵の出現があれば俺に即座に警告し、レーダーレンジを臨機応変に切り替えてこちらへと向かってくる敵影が無いか早期警戒を行うといった感じのものだ。
そこに、擬似的とはいえ誘導兵器である念動光輪がクリシュナの武装として加わった結果、彼女には新しい役割が加えられることになった。
「目標捕捉完了です!」
「よし、やるぞ」
ミミがロックオンした結晶生命体の群れに向かって念動光輪を発射する。クリシュナの後部に展開された巨大な光輪が六つに分かれて飛翔し、それぞれが小型艦を両断できるほどのサイズの光輪となって結晶生命体の群れに襲いかかった。
『~~~~ッ!?』
空間に結晶生命体の苦痛と困惑の悲鳴――のような精神波――が響き渡る。
縦横無尽に宇宙空間を飛び回る念動光輪が結晶生命体を蹂躙し、その数を加速度的に減じさせて行く。この念動光輪の良いところは用途に合わせて光輪の大きさを調整できるところだ。最初に生成する巨大な光輪を単体で飛ばすこともできるし、今やっているように六つに分けることもできる。無論、それ以下にもそれ以上にもできる。
とは言っても数が増えれば増えるほど俺の制御が追いつかなくなるから、精密に操作できるのは精々今の倍、十二程度が限界だ。それ以上になると誘導が大雑把になるし、それを更に超えれば散弾のようにとにかく大量にぶっ放すみたいな使い方しかできなくなる。別に切断能力というか、攻撃能力そのものが下がるわけではないので、それはそれで広範囲攻撃になって凶悪ではあるのだが。
そしてこの念動光輪の威力なのだが、これがかなり凶悪だ。まず、実験の結果通常技術によるシールドの影響を一切受けなかった。貫通である。シールドを減衰させもしないが、防がれもしない。
そしてその切れ味はというと、一般的に戦艦の装甲材として使われている特殊鋼を難なく切り裂いた。ヴェルザルス神聖帝国が採用しているサイオニックパワーに耐性が期待できる装甲すら切り裂いた。実質的にシールド、装甲無効で船体を直接切り刻むというわけだ。凶悪すぎる。
『今だ! かかれ!』
『『『おおォォーーッ!』』』
数を半分ほどに減らした結晶生命体の群れにヴェルザルス神聖帝国の甲種護衛艦達が文字通り突っ込んで行き、四方八方に青白い電撃のような攻撃を放って結晶生命体達を駆逐していく。放たれた電撃は生き物のように結晶生命体達の間を駆け巡り、連鎖的にその身体を粉砕していった。
良いな! あの電撃! 俺ああいうの好きなんだよ! チェインライトニングって男の子だよな!
「クリシュナも突っ込むぞ」
「はいっ!」
「あ、あの中にですか!?」
クギは結晶生命体と甲種護衛艦達が入り乱れる乱戦に突っ込むのが怖いらしい。あれくらいなんでもないと思うんだけどな。ほれ、ミミを見てみろ。もう慣れたもんですよって顔してるぞ。
「ひええぇぇぇっ……」
クギの狐耳と尻尾がボワッと膨らんでいるのを横目で見ながら、乱戦の中へと突っ込む。重力子砲にしても、念動衝撃砲にしても、貫通力が高いから誤射に気をつけないといかんのだよな。
「敵もそうだが、味方の位置もマークしてくれ」
「はい、ヒロ様!」
後は空間把握能力の問題だ。周囲で乱戦状態になっている味方の甲種護衛艦と敵の結晶生命体の軌道。それらを考慮しつつ、味方を巻き込まないように結晶生命体に重力子砲を撃ち込んでいく。
「パワーアップした重レーザー砲、ちょっと威力が強すぎませんか?」
「本当にそれな……あと重レーザー砲じゃなくて重力子砲な」
ミミが危惧している通り、重力子砲の威力は今後の戦闘を考えると少々考えものの威力であった。こいつに撃ち貫かれた結晶生命体は直撃部分が消失、そしてその消失した部分に向かって全体が『内側に』拉げて砕け散っているのだ。もしかしたらマイクロブラックホールでも発生しているんじゃなかろうか? 怖い。
「我が君が操縦していない時には通常の重レーザー砲になるということなら、重力子砲にするかどうかをオンオフできるのではないでしょうか?」
「それだ。試してみよう」
機動光翼を使った不規則かつ無軌道な機動で四方八方から突撃し、襲いかかってくる結晶生命体をヒラヒラと避けながら、ウェポンシステムを弄って重レーザー砲を重力子砲に変化させているあの魔法陣のようなものをカットできないか試してみる。
「お、できた。重力子砲のサブメニューにカットの項目があるな」
いつもの緑色の重レーザー砲へと戻った四門のレーザー砲を乱射して四方八方から迫りくる結晶生命体どもを粉砕していく。うん、使い慣れた感覚だ。しかし、こいつら相手には重力子砲の方が単純に便利だな。誤射にさえ気をつければ複数の個体にダメージを与えることも可能だし。
「念動衝撃砲はこれ、宙賊相手に使ったら跡形も残らんのと違うか?」
「結晶生命体が文字通り木っ端微塵ですからねぇ……」
「戦利品を得られないのは困りますね、我が君」
大型散弾砲が変化というか進化した念動衝撃砲だが、これはこれで困ったちゃんであった。いや、威力だけを見れば文句の付け所がないんだよ。範囲も射程も威力も連射性も継戦能力も全てにおいて大型散弾砲より上だ。
というか、クギから出てくる意見が見事に染まってきている。いいぞ、その調子だクギ。
「でもこいつは俺の気合の入れ具合でなんか調整できそうな気がする」
「これってヒロ様の超能力で撃ってるんですか?」
「そういうわけじゃないんだが、なんかクリシュナが進化してからこう、俺とクリシュナが繋がっているような感覚があってな……言葉にしにくい」
「落ち人と聖遺物は繋がり合い、共鳴し合うと言われているので……そういうものなのかもしれません」
実際のところ、機動光翼を使った回避機動なんかは操縦桿による操作ではなく、操縦桿越しに俺が直接機動光翼を動かしているような感覚がある。手足での操縦とは別に、脳でも動かしているというかなんというか。
「いよいよ人外めいてきましたね、ヒロ様」
「やめてくれ、ミミ。その発言は俺に効く」
ぶっちゃけここ数日で駆けられた言葉の中で一番重い。俺はまだ人間の枠内に収まっている筈だ。
苦しいか? いや、苦しかろうともそう主張することだけは諦めまい。でないと俺の心が死ぬ。




