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#525 「ザッケンナオラー!」

 疲れ果てた俺はブラックロータスに戻って寝たかった――が、この研究施設に来るための足だったクリシュナは各種実験やデータ観測のために動かせない。というか、動かそうとしたらブーボ氏を始めとした研究者達に縋りつかれて泣かれそうになった。あと、ティーナとウィスカに無言で人体くらい簡単にバラバラにできそうなスペース工具を構えられたのが怖かった。

 多分生まれ変わったクリシュナのメンテナンス手順を構築し直しているんだろうな、あれは。今はクリシュナに触るのはやめておいたほうが良さそうだ。

 俺達の宿は聖遺物研究施設から少し離れた場所にあるホテルを確保してあるそうなので、そちらになるそうなのだが、残念ながら帰って寝たいという俺の希望が叶えられることはなかった。


「我が君、クリシュナに眠る力を引き出されたことお祝い申し上げます。ですが、我が君に眠る力はクリシュナに依るものだけではありません。寧ろ、我が君の肉体と精神こそが本領であり本質。今こそ我が君の潜在能力を開花させる時です」


と言われてだだっ広い野外の訓練場のようなところに連れ出されたわけだが。


「僭越ながらお手伝い致す」

「お覚悟を」

「クギの言うことはわかるけどお覚悟をはおかしいだろお覚悟をはよぉ!」


 俺はクギに聖遺物研究施設から連れ出され、法力学――つまりサイオニックパワーの研究家や、落ち人研究家であるフグルマ、その教え子でヴェルザルス神聖帝国の政府機関で働いているイナバ、それとどこから沸いて出たのかヴェルザルス神聖帝国の白兵戦の武官達――モエギやコノハの同類達を相手に異能力バトルをさせられている。生身で。


「タイム! 一回タイム! ニンジャアーマーの着用を要求する!」

「落ち人殿にあのように無粋な機械鎧などは不要。枷にしかなりませぬ」

「まともに当たったら死ぬような攻撃をバンバン浴びせられる俺の身になれや!?」


 今、俺と対峙しているのは巌のような肉体を持つ狼のような獣耳をの大男である。全身が筋肉でパンパンで頭が小さく見える……肉体改造を疑いたくなるような有り様なんだが、多分あの肉体は天然物なんだろうなぁ。


「むんっ!」

「きえぇっ!?」


 ただでさえ筋肉でパンパンになっている身体を更に盛り上がらせた大男が気合と共に拳を打ち出してきたので、俺は思わず奇声を上げながらその軌道上から退避した。すると、彼が拳を突き出した先の地面がまるで巨大な質量の大蛇でも這いずり回ったかのような粉砕され、土や小石を巻き上げる。あんなんまともに食らったら全身の骨が砕けそうなんだが?


「ザッケンナオラー!」


 手に持った木刀にサイオニックパワーを集中させ、刀身を『伸ばし』て間合いの外から狼筋肉ダルマに振るう。当たってもすっぱりと斬れたりはしないが、皮膚と肉を削り取って吹っ飛ばす程度の威力はある。イメージ的には念動力の棒だ。

 が、俺が振るったその一撃を筋肉ダルマは跳んで回避した。


「かかったなアホが!」


 その行動を待っていた。俺は不可視の棒にサイオニックパワーを込めて更にその長さを伸ばす。


「ぬゥッ!?」


 不可視の棒――いや、遥かに長く伸び、蛇のようにうねり狂う鞭と化したそれを振り回し、迂闊にも空中へと逃げた筋肉ダルマを連続で打擲する。ふははは! これぞ最近俺が編み出した新技、伸縮自在、不可視の伸びる剣だ! 所謂蛇腹剣と呼ばれるロマン武器をサイオニックパワーで再現したものである。

 しかし硬いなこいつ。なるほど、サイオニックパワーで身体の表面を覆って鎧……いや、防護スーツのようにしているのか。筋力も強化しているかもしれんな。


「ハァッ!」


 だが、筋肉ダルマも黙ってやられはしない。襲いかかる不可視の鞭を強化した肉体でいなし、殴りつけ、空中を『蹴って』俺へと肉薄してくる。

 それに対し俺は鞭のように伸ばしていたサイオニックパワーを手元の木刀に集め、拳を突き出して向かってくる筋肉ダルマを迎撃する構えを取った。その姿は傍から見ればバッターボックスでバットを構える野球選手のように見えたかも知れない。


「オラァッ! かっ飛べやぁ!」

「ぬおぉぉぉぉぉっ……――!?」


 長大な鞭と化していたサイオニックパワーを凝縮させ、強化されたその一振りは筋肉ダルマを理想的な角度で打ち返した。完璧だ。バックスクリーン直撃コースだな。


「次」


 武官の中で一番のお偉いさんなのだろう。頭に角を生やしたイケメンが無感情な声でそう言う。


「では私が」


 次に俺の前に出てきたのは俺と同じく木刀を携えた小柄な女性だ。コノハと同じような小振袖を着ていて、髪の毛の色は赤みがかった黒色。頭の上の獣耳は小さな丸耳。可愛らしい顔つきをしているが……む? なんか身体がざわざわする……なんだこれ、産毛が変な感じが――?


「――行きます」


 眼の前が真っ白に染まったかと思うと、凄まじい衝撃と轟音が俺を打ち貫いた。身体の感覚が鈍い。多分吹っ飛ばされて地面を転がっているんだと思うが、視界が焼かれて真っ暗だ。何が起こったのか全くわからん。


「こ、殺す気かオイ……」


 全身が痛む。特に右脇腹が泣くほど痛い。多分木刀で殴られたんだと思うが、それ以外にも身体のあちこちが痛いしビリビリする。なんとか身体を起こして俺を吹っ飛ばした女を見ると、奴は身体からバチバチと紫電を散らしていた。奴の赤みがかった黒髪が逆立ち、ざわざわと動いている。サイオニックパワーで雷を操るのか。もしかしたら高速移動とかもしているのかもしれん。さっきは一瞬でぶっ飛ばされたからな。


「落ち人は追い詰められれば追い詰められるほど力を発揮すると聞きます」

「だから死ぬ寸前まで追い詰めようってか……? そんなこと頼んでないんだがなぁ……?」


 どうしてこんなことを半ば強制されてボコられなきゃいかんのか? あまりにも理不尽では? ただでさえ疲れてて休みたかったってのに。あー、キレそう。キレたわ。オーケーオーケー。そっちがそう来るなら俺も遠慮はやめだ。

 吹っ切れた俺の身体からサイオニックパワーが溢れ出し、俺の身体から紫色に光る炎のようなものが立ち昇り始める。今まで制御し、抑え込んでいたサイオニックパワーを解放する。


「ひぇ……」


 キリッとした表情で俺と対峙していたビリビリ小動物女が途端に顔を青くして後退った。それでも身体に纏う紫電を強め、木刀を構え続けるのは見事と言うべきか?

 研究者連中が持っていた計測器具らしきものが砕け散る甲高い破砕音が聞こえた。


「あ、あの、我が君……?」


 俺がボコられて苦しむ様を興味深げに見ている研究者連中も、この程度かと言わんばかりの冷めた目で見ている連中も許せん。今回の件に関してはクギとて許せぬ。少し痛い目に遭ってもらおう。


「頼んでもいない打ち込み稽古でボコられた俺の痛みと怒りを思い知ってもらおう」

「ちょ、待っ――」


 全身が痛い。しかもまだビリビリしている。もしかしたら火傷もあるかもしれん。


『痛いの痛いの飛んでいけ』


 俺の身体を中心に、紫色の波紋が広がった。その波紋はビリビリ小動物女を突き抜け、更にその後ろ、俺と武官達とのトンデモ異能力バトルを観察していたフグルマを始めとした研究者達やクギを含めた周囲の者達にも浸透していく。クギを始めとして数人は精神防壁を張って防ごうとしたようだが、そうは問屋が降ろさん。俺の全力全開の第二法力――感覚共有のテレパシーはそんなものを容易く打ち砕き、周囲に居た全員に俺の苦痛と、怒りの感情を叩きつける。


「「「グワーーッ!?」」」


 例外なく、周囲に居た全員がその場に崩れ落ち、右脇腹を抱えて苦しみだした。少しばかり伝える苦痛のレベルを上げてしまった気がするが、多分誤差だ。多分。この一撃にはクギすらも例外なく巻き込まれており、彼女も地面に倒れ込んで右脇腹を押さえ込んで身体を震わせている。


「お前達のお役目だか使命だかに立ち向かう姿勢は立派だと思うが、そのノリを自分達以外にもナチュラルに押し付けてくるのは頂けんな……」


 ああ、なんか今ならなんでもできそうだな。そうだ、アレやってみるか。頭から直接情報を抜くやつ。そう思い立った地面に蹲っているビリビリ小動物女の頭を掴み、テレパシーの応用で先程の電撃のサイオニックパワーの使い方を無理矢理抜き取れないか試してみた。


「ぴっ――きっ、ひぃっ!?」

「んんー? こうか? こうかな?」


 何度か試すとビリビリ小動物女の頭から電撃を操るサイオニック能力の使い方を抜き取ることができた。ビリビリ小動物女はとても大変なことになってしまったようだが、多分無事だろう。知らんけど。

 早速能力を使ってみると、俺の身体から青白い電光がバチバチと迸り始めた。うん、これは使えそうだ。ぶっ殺すだけなら念動力が良いが、電撃というのは見た目の威圧感も抜群で威力調節もできるのが良い。


「実験台はよりどりみどりだなぁ……」


 俺の言葉を聞いた周りの連中が恐怖に顔を引き攣らせる。流石に非戦闘員を虐めるのはやめておくか。とりあえず武器を携えている連中は全員泣かす。まずは一番偉そうな角男からだ。

ヒロ……キレた……ッ!( 'ᾥ' )

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― 新着の感想 ―
魔王、爆誕www
過去の過ちの償いとか重い使命とか背負わされるって、常識的で普通の精神持ち合わせた普通レベルの人は耐えられなそうだから、長い年月で淘汰されて残ったのがクソ強メンタルとかどっか楽天的な万年躁メンタルとかや…
ダメだ、笑うことしか出来んわwww
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