#512 「なんだその全生命体に喧嘩を売ってるような危険生物は……」
最強宇宙船13巻は9月刊!
カジノが出てくるということは……賢明な皆さんならおわかりですね?( ˘ω˘ )
宇宙空間に突如紫色の光が発生し、その中から眩く光る球体がいくつも飛び出してくる。球体と言ってもその形は不揃いで、真球に近いものから楕円体に近いもの、球体とは言えないものなどもあり、概ね球体と表現したほうが妥当かもしれない。
「で、なんなんだありゃ?」
「光子生命体と呼ばれる亜空間生物の一種ですね。有機生命体でも無機生命体でも関係なく感知範囲に入った生命体に取り付いて生命力を吸い殺します。所謂宇宙怪獣と呼ばれるものです」
「なんだその全生命体に喧嘩を売ってるような危険生物は……」
「幸い、超光速航行能力などは無いので普通の船なら容易に逃げられるんですけど、万が一生命体が生活しているコロニーや居住惑星の近傍に出現したりすると、大変危険なんですよ」
「それは危険ね……」
「結晶生命体も危ないですけど、光子生命体というのもとんでもないですね……」
俺とイナバの話を横で聞いていたエルマとミミが顔を引きつらせている。生命力を吸い殺されるってどんな感じになるんだろうな。一瞬でミイラみたいにカラカラに干からびたりするんだろうか? おっかねぇ。
ちなみに何の対策も無く結晶生命体と接触すると侵食同化される。つまり肉体が結晶化して吸収されるか、最悪の場合極小の結晶生命体に変異する。コワイネ。
「はい、なので発見次第対処するのが私どもの国では規則となっています。放置すると長い時間をかけてコロニーや惑星上居住地に辿り着いて被害を出しかねませんから」
「なるほど……ヴェルザルス神聖帝国は宇宙怪獣への対処に特に注力してるって話だったが、実際にこうして対処してるんだな」
「はい、我が君。こうして対処をするのが此の身どもの務めですから……始まるようです」
クギがそう言うのと同時に、距離を置いて光子生命体達を包囲していた神聖帝国艦隊の艦艇がそれぞれ前面に光の紋章のようなものを投影し始めた。紋章の意味は全くわからんが、膨大なサイオニックパワーが艦の前面に集中していっているということがブラックロータスの装甲越しにも感じられる。おいおい、何が始まるんだよ。
と思わず顔を引きつらせた次の瞬間、展開していた紋章の中心から真っ白い光線が発射された。
ああ、だめだ。あれは駄目だ。あれは死ぬ。それがなんであれ、生き物であれば殺す。あれはそういう光だ。なんというものを兵器化してるんだよ、神聖帝国は。
俺が発射された光の異常性に戦慄している間にも発射された白い光線が光子生命体を貫き、消滅させていく。ミミや整備士姉妹なんかは目を輝かせてその光景を見ているが、俺は全くそういう気になれない。あまりに怖いぞ、あの光は。
「大丈夫?」
俺の様子が若干おかしいことに気づいたのか、エルマが気遣うように俺の背中に手を添えて声をかけてきた。こういう事によく気がつくよな、エルマは。
「背筋が震えそう。まぁ大丈夫ではあるが……クギ、あれって第二法力の応用兵器か?」
「恐らくはそうかと……此の身はあまり兵器には詳しくないので詳細はわかりませんが」
そう言ってクギがイナバに視線を向けると、イナバは頷いた。
「仰る通り、あれは第二法力の応用兵器で、魂砕き――ソウルクラッシュと名付けられている対生命体兵器です。物理的な破壊力は皆無ですが、生命体であれば『それがなんであれ』殺傷します」
「えげつねぇなオイ……つまりそんなもんが必要な相手と普段から戦ってるってことか」
あの光子生命体とやらもクリシュナやアントリオン、ブラックロータスが装備している通常の兵器で倒せるものかどうかはちょっと怪しかったもんな……流石に対艦反応弾頭魚雷をぶちこめば吹き飛んでくれると思いたいもんだが、どうだろうか。吹き飛んでくれると良いな。
そんな事を考えなが戦闘を見守っていると、危なげなく神聖帝国艦隊が勝利した。あの兵器、発射から着弾までがレーザー砲と然程大差が無いように思えたし、もしアレを相手にするとなるとどうすれば良いのかわからんな。撃たれる前に撃破するか、懐に潜り込むか、それとも逃げるか……逃げるのが現実的なんだろうが、ジャンプドライブなんてものを装備している相手から逃げられるものかどうか。
「エルマ、本当に可能な限り神聖帝国を敵に回すのはやめような」
「もとよりそのつもりだけど、その意見には全面的に賛成するわ」
「落ち人を敵に回すのは私どもも御免ですよ」
「あの、我が君、エルマさん。此の身どもが我が君と敵対するなんてことはありませんから」
俺、真顔。エルマ、真顔。イナバさん、真顔。そしてクギだけは苦笑い。ヴェルザルス神聖帝国が俺のような落ち人に危害を加えることに忌避しているのが本当に救いだな。そうじゃなかったらなんとか理由をつけてこの場でグラッカン帝国に引き返していたかもしれん。
☆★☆
神聖帝国艦隊は暫く後続が現れないかを確認した後、再び目的地へと向かって移動を開始した。そしてその後は何事もなくヴェルザルス神聖帝国の中心領域へと到達した――のだが。
「なにこれぇ……」
「はぇー……」
「うわぁ……」
俺達はホロディスプレイ越しに見えるその光景に放心していた。いや、だってこの光景は凄いぞ。恒星を中心としてほぼ同じくらいの距離に環状の惑星群があるんだ。所謂ハビタブルゾーン――恒星から程よい強さのエネルギーを受けられる領域――に大小様々な惑星が転々と存在している。
「あんなに沢山惑星があって衝突したりせぇへんのやろか……?」
「惑星引力の干渉とか大丈夫なのかな……?」
「此の身の知る限りはそういったことが起きたことはないですよ」
心配している整備士姉妹をクギが笑顔で安心させようとしている。まぁ、見る限り衝突して砕け散っている惑星とかは見当たらないから大丈夫ではあるんだろうが、これって明らかに自然に形成された星系ではないよな。
「惑星をハビタブルゾーンに移動させた上でテラフォーミングしたのかねぇ? 随分とまた強引というかなんというか……一体どれほどの労力をかけたのか想像もつかないよ」
『恒星とあれだけの数の惑星の引力を緻密に計算して奇跡的なバランスを成立させるのは、いくらなんでも無理じゃないかと思うんだけど……』
「データ不足です」
インテリ組は感動したり驚いたりするよりも心配が先に立つらしい。メイは恒星と惑星群の質量や速度を計算しようとしているのだろうか。不条理な結果に終わる気しかしないからやめておいた方が良いと思うが。
「目的地はどれなんだ……?」
「ええっと……」
俺の質問にイナバが目を逸らす。あれだけ惑星があるとピンポイントではわからないらしい。どの星も水が存在する居住可能惑星に見えるものな。ほぼ全景が見えているとは言え、距離的にはまだ数十万キロメートルとか下手したらそれ以上あるだろうし、この距離で肉眼で見つけろというのが無理な話か。
「ご主人様、同期航行により超光速ドライブを起動します」
「了解」
艦外の様子を映している大型ホロディスプレイに超光速ドライブ起動までのカウントダウンが開始される。程なくしてカウントが終わり、遥か彼方からの恒星の光が点から線へと変化する。
「そう言えばこんな護衛艦隊なんて出してもらったからには、着いたら『あとは適当に観光します』ってわけにはいかないよな」
ポツリとそう言うと、その場にいるほぼ全員から「それはそうだろう」みたいな視線を送られてしまった。いやそうだと思ったから一応確認したんじゃん……そんな呆れたような視線で見なくてもええやん……。
「ええと、私の知る限りでは……主星ヴェールの首都宇宙港に着陸後、宇宙港でささやかなセレモニーを行って、その後は大社で祓えの儀を執り行うという流れだったはずです」
「おおやしろ? はらえのぎ?」
「大社というのは此の身どもの国で様々な祭祀や儀式などが執り行なわれている中心施設のことで、祓えの儀というのは身についた穢れなどを浄化する儀式です、我が君」
「穢れねぇ……? まぁ俺は穢れだらけだろうけども」
帝国法の上で俺とミミは夫婦関係だが、その他のクルーとはそういった手続きはしていない。ということは、ミミ以外とのそういう行為は所謂不義である、と言われるとそれはそうかもしれん。
その他にも宙賊やら何やらをぶっ殺しまくっているしな。殺生はしまくってるよな。盗みとかはしてないけど。いや、宙賊とかをぶっ殺して物資を略奪するのは盗みになるのか? でも法的に認められてるしなぁ。
「寝床や停泊所の確保とかは心配要らないんだろうか?」
「はい、そちらに関しては私どもの方でしっかりとお世話をさせていたくことになると思いますので、ご心配なく」
「そうか、ならいいや。世話になるからにはまずできる限りの協力をするよ」
そもそもヴェルザルス神聖帝国への訪問は俺が希望して、神聖帝国側の厚意で実現したものだ。面倒事は嫌だ、自由に観光させろ、最大限配慮もしろ、などと自分に都合が良い事ばかり言うのもどうかと思うしな。
「まず心配すんのが寝床と停泊所ってのが兄さんらしいわ」
「確かにそうかも」
ほっとけ。




