#510 「ほう、あれがヴェルザルス神聖帝国の艦隊か」
大体落ち着いたので更新再開マン!( ˘ω˘ )
「ほう、あれがヴェルザルス神聖帝国の艦隊か」
ヴェルザルス神聖帝国の艦隊が現れたというので、ブラックロータスの食堂から休憩スペースに移動すると、他の面子も集まってきたので大型のホロディスプレイを起動して艦隊を眺めることにした――のだが。
「……なんというか、独特なデザインだな?」
「そう、ですね……なんというか、豪華? ですかね?」
「傭兵の船だとしたらちょっと装飾過多かしらね? でも、私は好きよ。ああいう優美なフォルム」
俺に続いてミミとエルマが感想を述べる。
ヴェルザルス神聖帝国の船はまるで純白の帆船のようなフォルムであった。いや、マストは無いので帆船と言うのは若干語弊があるか? だが、帆のない船――所謂俺の常識の範囲での艦船――に似たフォルムなのか? と言われるとやはり違う。あの流線型かつ若干丸みを帯びたフォルムはやはり帆のない帆船と呼ぶのが妥当であろう。
船体のあちこちには装飾のようにしか見えない金色の模様や彫刻のようなものが彫り込まれており、何より目立つのが船体の後部側面の辺りから出現している三対六枚の光の羽のようなものである。あれは一体何なんだろうか? ただの飾りなのか? それともスラスターやスタビライザーのような機能を持つものなのか? 何もわからん。武装らしき装置も一応見えるが、船体の大きさに対してあまりに小さいように思える。性能の予想が全くできんな。
「なんやあれ……どうやって動いとるんや? スラスターの類が無いで」
「うーーーーーん……結晶生命体とかと同じような重力系の駆動形態なのかな?」
「艦内の重力制御どないなっとんねん……グラヴィティ・ドライブは制御が困難過ぎて生体が乗り込む船には使えんって話やったやん?」
「下手するとスープになっちゃうからねー。じゃあ他の方法なのかな?」
整備士姉妹は早速ヴェルザルス神聖帝国の船を目にしてやいのやいのと技術談義を始めている。話している内容が若干怖いんだが。なんだよスープになるって。
「いやぁ、楽しみだねぇ。ヴェルザルス神聖帝国に行けば貴重なサンプルが沢山手に入りそうだよ」
「あの、先生。あまりそういうのは……」
「そりゃないよ、クギくん。同意を得れば血の一本や二本くらい抜かせてもらっても良いだろう?」
『特に理由もなく血を抜かせてくれるような奇特な人はそういないんじゃないかな、ドクター』
あちらではヴェルザルス神聖帝国の民から生体サンプルを得ようと張り切っているショーコ先生をクギとネーヴェが諌めているな。ショーコ先生は未知の遺伝子解析に目がないからなぁ……あまりあちらで無茶なことをやらないように気をつけたほうが良いだろうか。
とはいえ、この船で彼女の望む研究が一切できないというのもなぁ……それではショーコ先生がこの船に乗るメリットが薄くなってしまうし、そうすると我が船団は優秀な研究者兼医師を失うことにもなりかねない。何らかの形で協力することも視野に入れるか。
ちなみに、モエギとコノハは先程から虚空を見つめながら頭の上の狐耳や狸耳をピクピクと動かしている。念話で何かしらのやり取りをしているのだろう。それらしき精神波が先程からひっきりなしに飛び交っているのを感じる。
「それで、流れとしてはどういう感じになるんだ? 俺は一応帝国貴族の端くれなわけだが、何か特別な手続きとかは必要なのか?」
「事前の手続きなどは特に必要ないですね。ゲートウェイを通過する時に船籍や乗員については記録されますから」
「そうか。ならヴェルザルス神聖帝国の人員移動やなんかが終わり次第移動って形になるかな。ということは、あっちからの反応待ちか」
「そうなるわね。ああ、ミミ。ヴェルザルス神聖帝国にグラッカン帝国の品を持ち込むつもりら、輸出入の禁止項目に触れる品が無いかをちゃんとチェックしておくようにね」
「勿論です。一応メイさんにもチェックしてもらいますね」
「そうするのが無難だな」
それじゃあ俺もヴェルザルス神聖帝国に行く用意をしておくか。特にこれといってやることねぇけど!
☆★☆
ヴェルザルス神聖帝国からの接触は非常に速やかであった。ゲートウェイからワープアウトしてきた船の中でも特に小型の船がすぐに二ーパックプライムコロニーへと入港してきたのだ。
「すぐにこちらへと挨拶に来るとのことなのですが、よろしいでしょうか?」
「勿論だ。というか、直接顔を合わせに来るんだな。テレパシーを使えば俺とコミュニケーションを取るのなんて簡単だろうに」
「礼儀の問題ですね。特に知り合いでも無ければ同じ組織に所属している上司と部下、或いは同僚だとか、緊急事態でもない限り、いきなり第二法力を用いて接触するのは無礼とされていますから」
「なるほど」
コノハの説明に感心する。第二法力――つまりテレパシーを日常的に使えるようになり、他人との心の距離がより近くなった結果、ヴェルザルス神聖帝国では独特の礼儀作法が発達しているのかもしれない。いや、帝国でも同じか? 小型情報端末でホロ通話ができるとは言っても、それで全てを済ませることばかりってわけでもないしな。
「着いたようです、出迎えは……」
「メイが行ってる。俺達はここで待とう」
そうしてのんびり待っていると、メイが三名のお客人を連れて休憩スペースに現れた。一人は背中に黒い翼を生やしている以外には特に特徴の無い――いや、なんか胡散臭い顔つきの男。もう一人はクギと似たような服を着ている細身のうさ耳お姉さん、最後の一人はアホ毛のように頭のてっぺんに豪華な飾り羽のようなものを生やした若い男だ。
「どうも、お初にお目にかかります。私はカラス。臨時即応艦隊の長を務めています」
「どうも、キャプテン・ヒロだ。わざわざ大層な迎えの艦隊を寄越してくれた上に、こうして足を運んでもらって恐縮しきりだよ」
「ははは、お気になさらず。我々からすれば友好的な落ち人というのはそれだけで十分に歓迎に値する存在ですからね」
「友好的な、ね」
ということは、友好的じゃない落ち人も存在するってことだ――と、考えたところでピンク色のクソビ◯チの顔が脳裡を過る。奴と顔を合わせた時に感じたあの感覚も同時に。
「何か思うところが?」
数多に飾り羽を生やした男が緊張気味に聞いてくる。ああ、これは俺が友好的という部分に何か含むところがあると思われたのか。
「いや、俺としては特には無いさ。ただ、敢えてそう言うってことは、そうじゃない連中もいるのかなと思っただけだ。まぁ、立ち話もなんだ。あっちの食堂に腰を落ち着けよう。全員の自己紹介も終わってないしな」
肩を竦めて飾り羽君にそう答えた俺は彼等を食堂へと案内した。うちのクルーに加えてフウシン達とカラス達一緒なので、かなりの大所帯だ。
「挨拶が遅れました。私はイナバ。神祇省の記録官です」
「クジャ。武官だ」
うさ耳お姉さんと飾り羽男がそれぞれ簡単に自己紹介をする。それに合わせてこちらの面々も簡単に自己紹介をした。
「聞いてはいましたが、なんとまぁ……尊敬してしまいますな」
「それが皮肉でないなら『どうも』と言っておくよ。うちのクルー達は皆優秀だぞ」
尤も、俺との関係やトラブルを避けることを考えると、今更男性クルーを入れるわけにはいかないというのがある意味では難点だったりするんだが。
「まぁ、うちのクルーの話は後にしよう。俺としてもそちらに気になる人がいるが……まずは神聖帝国入りについて打ち合わせをするのが先決だろうな」
そう言いつつ俺はイナバさん――うさ耳お姉さん――に視線をちらりと向ける。気になるとは言っても色っぽい意味じゃないぞ? いや、イナバさんは美人だし、うさ耳巫女という存在そのものに惹かれる部分が無いとは言わないが、俺が気になっているのはそういう方向性の話ではない。彼女の所属に気になる点があるのだ。
彼女は神祇省の記録官と名乗っていた。神祇省といえば、クギも神祇省所属の巫女である。彼女がクギにとってどういう存在なのかはわからないが、俺とクギに何かしらの関係があるのは間違いないだろう。
「いや、話が早くて実に助かりますな。まず、出発に関してなのですが、およそ四十八時間後になります。それまでにコロニーから出港しておいて下さい。そうして頂ければこちらから同期航行の要請を行いますので」
「了解。積荷のチェックもそれまでに済ませておこう」
そう言いながらミミに視線を向けると、ミミは「任せて下さい!」という表情で頷いてみせた。積荷や補給物資に関してはミミ任せておけば安心だろう。
「その他には?」
「特には。常識的な行動を心がけて頂ければ十分です。突然発砲しないとか、斬りかからないとか、そういうレベルの」
「いやしねぇよ。突然撃たれたり斬りかかられたり法力を使われたりされなければだが」
俺のツッコミにカラスがカラカラと笑う。いまのは冗談なのか?
「それとイナバ殿からヒロ殿に頼み事があるようで。イナバ殿」
「はい。突然かつ失礼な申し出であることは承知の上でどうかお許し頂きたいことがあるのです」
そう言ってうさ耳巫女さんが俺の目をまっすぐに見つめてくる。そう言えばこの人は正確には巫女さんではなく記録官という役職だったか。何を記録する人なんだろう。
「とりあえずどのような内容か聞かせていただきます」
「はい、私どもの国に着くまで、そして着いてからもお側に置いて頂きたいのです」
「……ええと?」
決意に満ちた視線を俺に向けて宣言する彼女に俺はただただ困惑するしかない。助けを求めてカラスに視線を向けるが、彼は胡散臭い笑みを浮かべているばかりで何も言わない。それではとフウシン殿に視線を向けてみると、彼は一つ咳払いをしてから口を開いた。
「イナバ殿、ヒロ殿が困惑しておられますぞ。もう少し事情を説明してはいかがかな?」
「はい。落ち人であるヒロ殿の一挙手一投足を記録する――というのは流石に大げさですが、その言動や考え方、行動原理などを記録し、後世に遺すのが私のような記録官の務めなのです。その務めを果たすため、是非とも行動を供にさせて頂ければと」
「いや、シンプルに遠慮したいんだが……」
俺がそう言うと、彼女はこの世の終わりのような表情を浮かべた。ピンと伸びていたうさ耳がへにょへにょと萎れてしまっている。可哀想だとは思うのだが、流石に一挙手一投足を記録された上に後世に遺すとか言われたらそりゃ嫌だろう。
「とはいえまぁ、神祇省――のことはよく知らんのだが、クギも同じところに所属してるんだよな?」
「はい、我が君。同じ神祇省の内部でも部署? が色々あるらしいので、恐らくは。此の身は所属していながら実はよく知らないのですが」
「知らない……? どうしてだ?」
「此の身は巫女になると決まってからはずっと修行の毎日で、神祇省の職員? としてのお務めは特に無かったもので……」
そう言ってクギが申し訳無さそうにしているのだが、それは……流石になにかおかしくないか?
常々思っていたのだが、クギはヴェルザルス神聖帝国の政府機関に所属するエージェントとしては、あまりに純粋というか、箱入り娘過ぎると思うんだよな。あくまでも俺に仕えることを至上命題としていて、自分が所属する国家に利益誘導するような素振りが全く無い。
「あの、僭越ながらご説明致しますとですね……神祇省において巫女という存在と、彼女達を育成する部署、というか機関は特殊なところなのですよ。巫女であるセイジョウ殿が私どものような神祇省職員というか、他の部署のことを知らないのはそういう教育を受けている――いえ、受けていないからなのです」
「なる、ほど……? 意味がわからんが、そういうものなんだととりあえず納得はしておく」
本当にどういうことなんだよ。意味がわからん。そのうち説明はしてもらうとして、今はクギに関する疑問は横においておこう。
「……記録官のイナバさんはヴェルザルス神聖帝国の事情通でもあるという認識で良いか?」
「えっと、はい。そうですね。それなりには」
「それじゃあ取引だ。俺はイナバさんが俺について記録を取るのを黙認する代わりに、イナバさんんには俺が疑問に思ったことに関して都度情報を提供してもらう。この条件を呑めるなら同行を許そう」
なんか視界の隅でモエギが自分自身を指さして愕然とした表情をしているが……まぁ、イナバさんとは別に指定されるかもしれないから。というか、そこまで同行したかったのか?




