#485 「……私にはつけないんですか?」
ユニコーンオーバーロード完……ッ!
ああ、明日からはライズオブローニンだ……( ˘ω˘ )
翌朝、ホテルのベッドで目を覚ました俺はすぐ側にぴったりと寄り添う温もりの主に目を向けた。
「すぅ……んん?」
俺がわずかに身じろぎしたのに気がついたのか、穏やかな寝顔を見せていたセレナも目を覚ます。しょぼしょぼとした紅い瞳とばっちり目が合った。普段キリッとしていて格好良い人が、こういう無防備な表情を見せるのってなんでこんなに可愛いんだろうな。
「おはようございます……」
「おはよう。もう少し寝てても良いぞ?」
起きた時に時計を見たが、時間的にまだまだ余裕があった。起きて動き出すのはもう少しばかり後でも大丈夫だろう。
「んー……」
俺の言葉を理解しているのかどうか怪しいセレナが俺の肩辺りに頬を擦り付けてくる。猫か何かかな? いてぇ、噛むな。ガジガジするんじゃない。
「何をしているんだ、何を」
「跡を残しておこうかなと……んー」
吸い付くな吸い付くな。肩からどんどん這い上がってくるな。跡が残る。いや、そのつもりなんだろうけども……まぁ好きにさせておくか。
「……私にはつけないんですか?」
胸元にくっついたまま、セレナが上目遣いで俺の顔をじっと見てくる。
「朝っぱらから挑発してくるねぇ……」
ベッドの上で俺を挑発するとどうなるのか、じっくりと理解らせてやろう。
☆★☆
「はぁ……」
「こういうことをした後に深い溜め息を吐かれると、とても微妙な気分になるんだが……疲れたか?」
部屋付きのメイドロイドが用意してくれた朝食を前に、俺は思わず苦笑を浮かべた。あの後起き抜けにしっぽりと楽しみ、二人でシャワーを浴びてメイドロイドに朝食の用意を頼んだんだが、シャワーを終えた辺りからセレナのテンションがダダ下がりしていた。
「いえ、これくらい別になんでもありませんけど……ただ、しばらくお別れだなと思うと」
「それはそうだな。俺も寂しい」
俺がそう言うと、セレナはジト目で俺を睨んできた。
「貴方は船に帰れば私以外にも沢山女の子がいるじゃないですか。寂しい思いをする暇なんて無いでしょう?」
「すまん、それはそうかもしれん。でも、今寂しいと思っているのは本当だから」
ここは誤魔化さずに素直に謝っておく。無論、セレナのことを完全に忘れるといったようなことにはならないだろうが、他の女の子と一緒にいる時にセレナのことを考えるのはそれはそれで失礼だからな。
「……まぁ良いです。わかっていて貴方とこういう関係になったんですから。そこは割り切ります。ただ、次に会う時には私一人の身体ではなくなっているかもしれないので、そこはよく考えておいてくださいね」
すました表情でぶち込んできたとんでもない発言に飲んでいたミルクを思わず噴き出しかける。そんな俺の反応が楽しいのか、セレナはティーカップを片手にニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「びっくりしたけど、良いのか? まぁ良いだけ婚前交渉しておいて俺が言うのもなんだが」
「母上達の入れ知恵ですから。父上は良い顔はしないでしょうが、父上は母上達には頭が上がらないですし。ああ、でも確実にというわけでもないですよ? 急なことで薬剤の調達も間に合わなかったですし。運次第といったところですね」
「薬剤って……」
なんだろう、服用したら百発百中にでもなる薬でもあるんだろうか? まぁ、簡単な注射一本で骨折や内臓損傷が治るような技術レベルだものな。致す前に一錠飲むだけで命中率100%みたいな薬があっても不思議ではないか。
「貴方みたいな人は子供くらい重い重石がないとフラフラと何処かへ行ってしまうでしょう?」
「いや、そんなことはない……と思うが」
ターメーン星系で目覚めてからこっち、散々方々の星系をふらついてきた俺が言っても何の説得力も無いが。
「でもいつもいつもそうやってフラフラして私の行く先に先回りしていたじゃないですか」
「逆だ逆。いつもいつも俺達の行く先にセレナが後乗りで現れてたんだろ。あの人めっちゃ執念深いよなって話してたんだぞ、俺達」
衝撃の新事実。セレナはいつも俺達の後を追ってきていたのではなく、偶然俺達のいる場所に現れていただけだった! いや、まぁなんとなく察してはいたけどね。俺が無自覚に使ってるっていう運命操作能力の影響だろうということは。
「なんでしょう。謂れのない中傷を受けていたと知って微妙に腹が立ってきました」
「どうどう。朝飯をゆっくり食べて落ち着こう。ほら、なんかよくわからんが美味しいぞこれ。あーん」
朝食に出てきていたヨーグルトかチーズかは判然としないが、乳製品っぽい風味が豊かなパイのようなものを一口大に切ってセレナの口元に運んでやる。すると、セレナは仏頂面のままぱくりと食いつき、そのままモグモグと口を動かし始めた。
「……あー」
「はいはい」
無言で口を開くセレナの口元にせっせと朝食を運んでやる。雛鳥か何かかな? まぁセレナみたいな美人さんに甘えられるのは悪い気分じゃないけれども。
そうやってセレナのお世話をしながら食事をしていたのだが、なんか部屋付きのメイドロイドにガン見されている気がする。いや、気のせいか? ちらりと見ても視線が合わないし。
☆★☆
朝食を終えたらそろそろ船に帰る時間だ。セレナと一緒に送迎の飛行型リムジンに乗って一路帝都の総合港湾施設に向かう。
ちなみに、俺の服装は昨日船から出た時と同じだが、セレナはレストランで着ていたイブニングドレスではなく上品な色合いのスカートと、暖かくて柔らかそうなセーターのような上着という実に普段着じみた服装である。いつもの軍服姿も凛々しくて格好良いが、こういう普通の格好をされると、雰囲気がかなり丸くなって単純に可愛い。正直イブニングドレス姿よりもこっちの方が俺は好きだ。
「……」
「……」
お互いに無言。しかしセレナは俺にべったりである。それはもう、これ以上無いほどに。俺の右腕を抱え込んで肩に頬を乗せ、ずっとすりすりしている。ぎゅっと抱きしめられた腕に柔らかい感触がこれでもかと押し付けられてもいる。セーター越しにしっかりと伝わってくる。素晴らしい。
「いかないでください」
「無理を言うな……さっきの割り切ってる発言はどこにいったんだよ」
セレナの可愛いお願いに思わず左手で顔を覆って天を仰いでしまう。残念ながら、リムジンの天井は俺に何も打開策を与えてはくれない。
「じゃあわたしがついていきます」
「それもアカンだろ……寂しいのはわかるが、それで互いの立場や仕事をぶん投げて無責任な行動を取るのは良くない」
「……ヒロは私よりも仕事や他の女の子が大事なんですね」
「うわぁめんどくさい。めんどくさいけど可愛い」
セレナの頬がぷくーっと膨れてフグみたいになっている。左手でその頬を撫でてやると、ぷしゅーっと音を立てて膨らんでいた頬が萎んだ。吐息が耳元やら頬やらに当たってくすぐったい。
そんな感じでセレナに一方的に絡まれつつイチャイチャしているうちに空中リムジンが目的地へと辿り着いた。
「ほら、降りるぞ」
「やだぁ……」
「やだじゃないから……泣きそうな声でそういうこと言うの本当にやめてくれ。胸が締め付けられる」
ぐずるセレナをなんとかかんとかリムジンから引っ張り出してブラックロータスのタラップ前に降り立つ。さて、このひっつき虫をなんとか宥めすかしてやらんといかんな。どうしたもんか。




