#471 「フリじゃないですよ。絶対だぞ」
これが読まれる頃、私は歯医者から帰ってきてシケ顔になっていることでしょう( 'ᾥ' )
「「もう運命だな」」
セレナとの出会いから今に至るまでの思い出を一通り話すと、エルドムアとエルンストの二人に声を揃えてそう言われた。
「親子で声揃えて言うのやめてもらえます?」
「とは言うがね、いくら意図的に追ったとしてもそんな頻度で顔を合わせるわけがないと思うのだが」
「標的が同じ宙賊で、帝国領内で活動しているということを差し引いても異常だ。一体どれだけの星系が帝国の支配下にあると思っている? 軽く三千を超えるんだぞ?」
「現実を突きつけるのをやめてくれ……」
まぁ、無意識的にだが俺はその運命を操作しているらしいしなぁ……具体的にどうやっているのかはわからないが、無意識で「セレナと再会する」という運命を何度も引き寄せているのだとしたら、それはもう運命的であるというウィルローズ親子の主張もあながち否定はできないのだろう。
そうすると、俺は無意識下でセレナをずっと求めていたのだということになるわけだが……面倒くさいとか言いながらも俺は無意識下でセレナを求めていたということか? それはなんか恥ずかしいな……俺の運命操作能力に関しては絶対にセレナには知られないようにしなければならない。
セレナのことだから絶対に「あれだけ邪険に扱ってたくせにやっぱり私のことが大好きだったんですね!」とか勝ち誇った顔で言ってきそう。そんなの耐えられん……。
「最後のひと押しは陛下の手で、か……やはり最初から逃れられなかったのでは?」
「こうなることを予測して陛下が介入したと?」
「陛下の深謀遠慮はもはや人の領域を超えていらっしゃるからな……」
「帝国の辺境で民間の輸送艦が一隻宙賊に襲われた、といった些細なことも全て把握していらっしゃると言われるほどだ」
「あー……それはね。マジであるかもしれない」
以前あのファッキンエンペラーと初めて顔を合わせて話をした時にも俺とクリシュナがターメーン星系に現れた瞬間からして把握していたし、その後コロニーに辿り着いた俺がクリシュナに引きこもって情報収集していた内容も、俺がどんな心理状態で情報収集をしていたのかも全て筒抜けだったからな。あの時もそうだったが、今思い出してもゾッとする。
などと考えながらちらりと女性陣に目を向けると、先程までの和やかかつ華やかな雑談は鳴りを潜めて今度は何か額を突き合わせてヒソヒソと話している。何か嫌な予感がするな。
「ところで先に聞いておきますけど、エルフィンさんはお付き合いとか婚約とかされている方は?」
エルフィンさんというのはエルマのお姉さんである。なんかさっきからチラチラと視線を感じるんだよな、あっちから。
「……それを聞いてどうするつもりかね?」
「どうするつもりもないってことを先に言っておきたいだけです。なんか面白そうだからついていくとか、皆に聞いてみたらなんか相性良さそうだから私も、とか仮に言い始めたら絶対に止めてくださいね。フリじゃないですよ。絶対だぞ」
「家長として絶対に止めるから安心してくれ……」
「そんな悪夢みたいなことは絶対に実現させんから心配するな」
□■□
「実際のところ、どうなの?」
「どうって言われても……何が聞きたいのかはっきり言って欲しいわね」
姉様が興味津々といった様子で聞いてくる。言いたいことはなんとなく分かるけど、あまり答えたくない。
「人となりとか、身体の相性とか」
「わ、私も気になります……!」
「……後ろの方は聞かなかったことにしておくわ。大体において誠実だし、私達を尊重してくれてると思うわよ? ヒロなりに気がつく範囲で配慮してくれてると思うし」
明らかに後半の方に力が入っている姉様とクリスの興味をスルーしてヒロの人となりを無難に述べておく。正直ヒロってかなり浮世離れしてるとは思うのよね。でも、それは彼の出自に関わることだから、いくら家族相手でも公言はできない。
「えー? でもほら、こんなにいるじゃない? 皆不満とか無いの?」
「うーん、勿論全くないとは言いませんけど、ヒロ様の身体は一つですし。そこは折り合いをつけけてますよ」
微妙に口を尖らせながら言う姉様をミミが上手くいなす。ミミも頼もしくなったわよね。船に乗ったばかりの頃は何をやるにもビクビクして小動物みたいだったのに。
「いくら兄さんが頼りがいあっても、流石に皆で寄っかかったら潰れてしまうさかい。そこはうちらも一緒に支え合うってことやね」
「お兄さんという柱を中心として、私達自身も柱となって互いに支え合ってる感じです。その辺りの調整はメイさんが上手くやってくれてますよね」
「はい。メイさんは我が君を中心とした集団の調整役として上手く差配をしてくださっていると思います」
ティーナ達の意見にクギが乗っかる。ティーナ達に関しては今更言うこともないけど、クギは如才ないわ。ヒロよりもずっと浮世離れした性格のはずなのに、こういう場ではそれをまったく感じさせない。
「ヒロくんが表のリーダーだとすればメイくんは裏のリーダーだよねぇ。まぁ、恐らく彼女達の観察対象として極めて興味深いのだろうね。明らかなバックアップを受けてるよ」
「あー……ヒロは気にしてないけど、メイは優秀よね。異常に」
ショーコ先生のメイへの評価には私も同意する。確かにメイの優秀さは異常よね。フルスペックのメイドロイドなら優秀なのは当然なのだけど、それに輪をかけて彼女は優秀だ。
「やっぱりそういうことなんですか?」
「まぁ、間違いないかと」
ミミの疑問にクリスが苦笑いを浮かべながら答える。別に悪いことは何もないのだけれど、彼女達は強かと表現するのも生ぬるい程度にはやり手だから。ヒロのような特殊な存在を前にして彼女達が何も行動を起こさないなどということは絶対にありえない。まず間違いなくメイは機械知性達の大いなる支援を受けていることだろう。
「彼女達は個にして全、全にして個の存在だからねぇ。いくらメイくんがオーダーメイドのフルスペック機とは言っても、あの優秀さは異常だよ。多分彼女達が独自開発したって噂の反エントロピー演算器とか入ってるんじゃないかな?」
「熱を利用して演算を行って低温になっていくっていうやつ? あれほんまに存在するん?」
「彼女達は実用化しているという噂だね。エネルギーを使って演算し、熱を発生させる通常の陽電子頭脳と組み合わせれば冷却装置を必要としなくなる上に演算能力が跳ね上がるってわけだ」
「まさかと思う自分と、やっぱりと思う自分がせめぎ合ってる……」
メイの異常な性能の話になった途端、うちのインテリ達が技術論議に脱線し始める。
「あー、もう。テッキーが三人もいるとすぐそっちに脱線するわね。今はそっちの話はやめよ、やめ。メイが優秀で困ることなんてない。オーケー?」
「はいはい、そうだね。それじゃあ身体の相性の話でもするかい? エルマくんにとってはある意味鬼門だと思うけど」
「……そっちの話もなし。いくら家族相手でもそういうのはあまりオープンにすることじゃないと思うの」
混ぜっ返してきたショーコ先生に正論をぶつける。だが、私のささやかな抵抗はニヤリと笑ったティーナに呆気なく破壊された。
「まぁ競うことでもないしなぁ。ちなみにうちはウィーと一緒に可愛がられる事が多いで」
「ドワーフ二人相手にってちょっと凄くない?」
「その……まぁ、実際すごいと思います」
頬を染めて口元を隠しつつ、まさに興味津々といった感じで姉様が聞き返し、ウィスカが顔を赤くしながらもじもじとしはじめる。クリスなんて顔を真赤にして鼻息も荒いし……次期伯爵様、はしたないわよ。
「私はいつも先にダウンしちゃいます……もっと体力をつけないと」
「此の身もですね……でも、我が君は優しいですよね?」
「乱暴なことはしないねぇ」
「だからやめなさいって」
皆が話題に乗り始めてしまった。こうなるともう止まらない。
その話題はやめましょう? ね? なんでって……話したくないからよ! ミミはわかってるでしょ! 母様、その顔をやめて。
「エルフの女はそういうものだから」
「やめてってば!」
私の叫びも虚しく、全ては詳らかにされてしまった。もうやだ。




