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#459 手の平超高速回転ドリルか?

肩と首がつらたんですわ!( 'ᾥ' )

「ご主人様、おはようございます」

「ああ、ヒロくんか。おはよう。エルマくん達に聞いてきたのかな?」

「おはよう、二人とも。そんなところだ」


 メディカルベイへと移動すると、メイドロイドのメイとショーコ先生に出迎えられた。

 メイドロイドのメイはオリエンドインダストリーというメイドロイド専門企業で造られたカスタムメイドロイドだ。設計者は俺で、俺のメイドという存在に対するロマンがこれでもかと詰め込まれている。

 具体的にはメイドロイドに搭載できる最上級の小型陽電子頭脳に始まり、特殊な合金製の金属骨格、最高品質の小型ジェネレーター、特殊金属繊維製の高出力人口筋肉、お掃除から船の管理、戦闘に教育まで詰め込める限り詰め込んだ技能プリセットなどなど、ぼくのかんがえたさいきょうのメイドさんという理想をそのままに体現している。

 当然、顔の造形や体つき、性格なども俺の趣味全開で設計させてもらった。黒髪ロングでクラシカルなメイド服に身を包んだ眼鏡装備のクールだけど愛情深いメイドさん。うん、最高だな。


「何か?」

「いや、メイは今日も頼りになる究極で完璧のメイドだなと」

「お褒めに預かり光栄です」


 そう言ってメイが恭しく頭を下げる。


「おや? 私には何か無いのかい?」

「ショーコ先生のおっぱいは今日も最高だな」


 実際彼女の胸部装甲はミミにも匹敵する重装甲である。ミミよりも身長がずっと高いので、単純にプロポーションがとても良いとも言える。


「そういう褒め方はどうかと思うけど……まぁ良いけどさ」


 俺の物言いを避難しながらもショーコ先生は機嫌良さげにニンマリとした笑みを浮かべる。

 彼女は優秀な生物・遺伝子工学を専門とする学者であり、医師でもある。それに関連してナノマシン工学や材料工学にも明るく、ティーナやウィスカと技術談義に花を咲かせていることもあるほど多彩な才能と知識を持つ才人だ。

 その才人という部分も、実は彼女がそうなるように造られたデザイナーズベビーであったからという理由があるらしいが、俺からしてみれば彼女はやはりなんかすごい知識と技術を持っている優秀なお医者さんである。生まれは少々特殊ななようだが、それを言ったら異世界から転がり込んできた俺のほうがよっぽど特殊な出自であるのだから、気にするようなことでもない。


「で、起きたって?」

「起きたというか、起こしただね。まだ免疫機能に問題があるから医療ポッドの外には出せないけど、自発呼吸とか代謝機能に関してはまぁなんとか目処がついたからさ。免疫機能の問題が片付いて、運動機能をある程度取り戻せたら外に出せるようになるかな」

「なるほど」


 ひょいと医療ポッドの中身を覗いてみると、血のように真っ赤な瞳がぼうっと天井に向けられていた。時折瞬きをしているので起きているのだろうが、反応らしい反応は何もない。

 彼女の名前はわからない。ベレベレム連邦の戦艦か何かに搭載されていた生体指揮ユニットとやらの中身が彼女だったのだ。彼女について俺達が把握できている情報は少ない。

 人間としては驚異的なレベルの演算能力というか、電子戦能力を有しているというのが一つ、見た目は少女というかもはや幼女と言っても良いような外見だが、何らかの生体工学的処置によって身体の成長をとめられているだけで、実際の年齢はミミよりもずっと年上、もしかしたらセレナ大佐と同い年くらいではないかということがもう一つ。

 そして、俺達が捕虜として回収するまで十数年、下手すると物心付いた時から生体ユニットのコアとして缶詰のような専用ユニットに詰め込まれていたのではないかということが最後の一つ。それ以外の情報は今のところ殆ど得られていない。彼女の脳内に埋め込まれているチップを経由してメイは何か情報を掴んでいるようだが、今のところ話してくれていない。メイが自分から話さないということは、今の時点で俺が知るべき情報ではないのだろうと思う。


「今日は服を着せたんだな」


 今日の白い少女は簡素な手術着のようなものを着せられていた。医療ポッドの中に入れられたままの彼女にどうやって服を着せたのかはわからないが、何かしら方法があるのだろう。


「いつまでもヒロくんの目に彼女の裸体を晒してるわけにもいかないからね」

「別にこんな起伏も何もない身体を見てもなんとも思わんが……まぁ素っ裸よりは落ち着くな。目のやり場には困らない」

『起伏も何もない貧相な身体で悪かったな』


 いきなり声が聞こえてきてびっくりした。どこからだ? と辺りを見回すと医療ポッドの中の少女の瞳が僅かにこちらに向けられているような気がした。焦点は全然合ってないが、確かな意志を感じる。

 声は恐らく彼女自身の声ではないだろう。どこかで聞いたことのあるような合成音声だ。


「今のはお前の言葉か? 話せるのか?」

『身体も動かないしほとんど目も見えないし、音も微かにしか聞こえない。だが医療ポッドに取り付けられたセンサーの情報は拾ってる』


 そう言われてみると、医療ポッドに見覚えのないパーツがいくつかついているように思える。これのどれかが光学センサーだったり集音センサーだったりするのだろう。


「なるほど。無遠慮にお前の身体を見たり論評したりして悪かったな。今後は気をつける」

『別に気にしなくて良い。私の肉体なんてただの容れ物だ』

「なかなかキマった意見だなぁ……名前とか聞いても良いか? 俺はキャプテン・ヒロだ。こっちはメイドロイドのメイで、こっちはうちの船医を勤めてもらってるショーコ先生だ」

『ユニット104だ』

「それは名前じゃないと思うが……」

『私はそう呼ばれていたし、そう呼ばれたことしかない。人間としての名前なんて元から無いんだ』


 スピーカーから憮然とした声が返ってくる。なるほど、徹底してるなぁ。


「一応俺の立場とお前の状態を説明しようと思うが、聞くか?」

『そこのメイドロイドにある程度の情報は貰っているが、聞こう。状況を判断する上で複数の情報源があったほうが精度も上がるし、比較検討もできる。それに、お前はそのメイドロイドの主だそうだしな』

「オーケー。まず、国境沿いでの戦闘は覚えてるな? 戦闘終了後、俺が戦場を漂っているお前が入ったポッドを見つけて回収した。ちなみに、戦闘はグラッカン帝国の勝利に終わった。そして俺はグラッカン帝国に雇われていた傭兵で、今この船は帝都に向かってる。お前の立場は俺が拿捕した捕虜ってことになってて、お前は身体が弱いから、少なくとも動けるようになるまではうちのドクターがお前の身体を治療することになってる」


 俺の説明を聞いたユニット104はほんの少しだか考えるような間を置き、発言した。


『状況は理解したが、私を治療しても無駄だと思うぞ。私の耐用年数は一年を切っている。治療したところで耐用年数は超えられないだろう。資源と時間の無駄だ』

「ベレベレム連邦の技術だとそうなのかもしれないけどね。私達の技術ならそこはクリアできるんだよ」


 俺の代わりにショーコ先生が答えた。俺にウィンクをして見せてるってことは、ここは任せろってことか。


『だとしても費用対効果が見合わないだろう。確かに私は立場上ベレベレム連邦の軍事機密をいくつも記憶しているが、情報の鮮度は刻一刻と落ちる。私を治療する技術は恐らくグラッカン帝国の貴族に使用される生体工学的身体強化技術なのだろうと思うが、あの技術は施術コストが高いという噂を聞いている。私のような使い捨ての指揮ユニットに使用するにはコストが高すぎる筈だ』

「それは強化の度合い次第さ。普通に生活できる程度の処置なら、目玉が飛び出るほどの高額ってわけでもないよ」

『なるほど。だがそれでも安くはない筈だ。グラッカン帝国がそのコストを許容するとも思えないが。一体何が目的だ? 誰がどのような意志をもって私を治療しようとしている?』


 ユニット104の問いかけにショーコ先生は答えず、ただ俺に視線を向けた。メイも同様に俺に視線を向けている。


『キャプテン、君の意志なのか。何故だ?』

「別に深い理由なんて無い。見捨てたら寝覚めが悪いと思っただけだ」

『寝覚めが、悪い……?』


 ユニット104が心底理解出来ないというような声を発した。機械音声の割には感情が乗ってるな。


「帝国航宙軍はお前を尋問するだろう。お前が抵抗せず、洗いざらい喋ればまぁ、処刑されるようなことにもならないだろうな。で、お前を捕虜として扱って、場合によってはベレベレム連邦の非人道的な行いの証人として利用したりしようとするかもしれない。でも、それもベレベレム連邦がしらを切れば然程のダメージにはならないだろうと帝国航宙軍の大佐は言っていた」


 これはセレナ大佐から聞いた話だ。絶対にそうなるとは限らないが、高確率でそうなるだろうとセレナ大佐は寝物語にそう言っていた。


「そうするとお前は帝国臣民でも連邦国民でもない異邦人として放免されることになる。誰の助けもなく、帝都に放り出されるだろう。そうしたらお前は死ぬだろう。そこらの路地裏で寒さと飢えと苦しみに塗れながら、惨めに。そんなのは寝覚めが悪いじゃないか」

『そんな風に死ぬ人間など連邦にも、帝国にだって掃いて捨てるほどいる筈だろう。お前のその行動は偽善に他ならないのではないか?』


 それはそうだな。そういう人間は多分掃いて捨てるほどいるし、俺自身コロニーに降り立ってそこらを歩けば路地裏で無気力に座り込んでる連中だの、物乞いだのって連中を見かける。その全てに手を差し伸べるほどの博愛精神は持ち合わせてはいない。いないがな。


「偽善で何か悪いことがあるか? 俺は俺の心の安寧のためにお前を助けようと思ってるだけだ。世のため人のためじゃない、他でもない俺だけのためにな。それを誰かに批判される筋合いはないね。お前に自身にもな」

『流石に私のことなのだから文句の一つくらい言う権利くらいはあると思うが……?』

「じゃあなんだ? お前はベレベレム連邦に利用されるだけ利用されて、お前なんぞ知らんと放り出されて惨めに死ぬのが良いってのか? よくもやってくれたなと一発かましてやろうとか思わんのか?」

『当然思っている。奴らのケツの穴に手を突っ込んで奥歯をガタガタ言わせてやりたいさ。だが、お前の庇護下に入ったところで何ができる? お前が傭兵だというのは知っているが、だからといってベレベレム連邦相手に何ができるというんだ?』

「先の戦いでは俺が操艦するクリシュナだけで旗艦を含む戦艦級を四隻、巡洋艦級を七隻、駆逐艦を十二隻、その他コルベットや艦載機も山程叩き落した。配下の船とこのブラックロータスでも戦果を上げているが」

『よし乗った。私は使えるやつだぞキャプテン。なんなら君の情婦になってもいい。貧相な身体だが、貧相な身体には貧相な身体なりの魅力があると思うぞキャプテン。これでも二十四歳だから合法だしな』

「手の平超高速回転ドリルか? 滅茶苦茶食いついてくるじゃん……まぁ、帝国の思惑も関わってくるところだから確約は出来ないけど、俺はお前を引き取るつもりだから。そのつもりでな」

『了解した。信じているぞ、キャプテン』


 こうしてユニット104とのファーストコンタクトは終了した。下手すると帝国航宙軍よりも過激なベレベレム連邦絶対殺すウーマンが誕生しそうだが、今のところはグラッカン帝国で活動するつもりだから問題にはならないだろう。協力的なのも結構なことだしな。

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― 新着の感想 ―
やっぱ単機で昔の対宙賊独立艦隊二つ分くらいの戦力を損失させるって手のひら高速ドリルさせるほどヤバい戦果なんですね しかも単純な撃破数以上に指揮系統を破壊して本格的軍事侵攻の出鼻を挫き、攻撃艦隊壊滅の…
いくらベレベレム連邦の艦艇を沈めたところで同じ境遇の指揮ユニットを殺すだけなんですよね。 やるならこのシステムを考えた研究者やこれらを許可した上層部をたたかないと。
Her blood lust is iconic. Just the hint that Hiro could easily harm the Federation, and all here cau…
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