#457 どうしてそういうことするの???
一区切り!( ˘ω˘ )
戦場に散らばったベレベレム連邦軍の生存者の収容と捜索を終え、戦場を漁りに来るスカベンジャー対策に星系軍を中心とした二線級の戦力を残した帝国航宙軍は逆侵攻を開始し、今回の戦役が勃発する直前までの支配領域を取り戻した。
ベレベレム連邦軍の補給艦隊やその護衛戦力との偶発的な戦闘は何度か起こったものの、帝国航宙軍はこれを難なく撃破。臨時ながら防衛体制を確立したところで復旧したゲートウェイから帝国航宙軍の本隊が到着し、俺達はお役御免となった。
いや、クビとかではなく修理と補給のために後方へと退くことになったのだ。
『仕事、手伝ってもらえません?』
「嫌です。契約外なので」
イクサーマル伯爵を捕らえ、クリーオン星系の物資集積基地の指揮権を奪取していたセレナ大佐はそのまま後方へと戻る帝国航宙軍への補給を行う責任者とされてしまい、その仕事に忙殺されることになった。俺達の契約内容はあくまでも戦闘関連だけなので、補給業務を手伝うのは完全に契約外である。まぁ、流石に食っちゃ寝して報酬だけ分捕るというのは仁義にもとるので、クリーオン星系のパトロール任務はしているけど。
『鬼! 悪魔! 冷血の人でなし! 愛しい伴侶に冷た過ぎると思わないんですか!?』
「公私混同は良くないと思うなぁ……」
あと伴侶ではないと思う。少なくともまだ。
後方を騒がせていた重武装宙賊に関しては姿を消したようだとの話をセレナ大佐から聞いた。作戦の失敗を受けて身を隠したのか、ベレベレム連邦に返ったのか、それとも手足として使っていた宙賊に裏切られて活動ができなくなったのかはわからないが、活動を中止したとなると追うのは難しそうだ。
ちなみに、イクサーマル伯爵は証拠と共に憲兵によって帝都に連行されていった。いくらイクサーマル伯爵が伯爵としては埒外とも言える強大な権勢を誇っていたとしても、今回の証拠とやろうとしたことの内容を考えれば完全にアウトである。
本人はどんなに軽くとも死罪。家自体は存続される可能性があるが、利権や資産などの多くは帝国に接収されることになり、家が存続したとしても殆ど名ばかりの爵位となるか、帝国によって都合の良い傀儡にされるか……まぁその未来は暗いものになりそうだというのがセレナ大佐の話である。
「今回は大儲けね」
「大戦果ですよ! また勲章が貰えるかもしれません!」
「堅苦しい式典は嫌だなぁ」
クリシュナの撃破スコアは撃沈だけでなく大破や中破を含む戦闘能力の喪失を含めると、旗艦を含む戦艦級が四隻、巡洋艦級が七席、駆逐艦が十二隻、コルベット三隻、艦載機十八機となった。
アントリオンはコルベット七隻、艦載機二十二機、ブラックロータスは巡洋艦三隻、その他宙賊を名乗る武装艦などの撃破報酬も含め、契約金の1000万エネルなども加えると報酬額は総額で凡そ8000万エネルほどに膨れ上がると思われた。これはもうちょっとした大金持ちというか、億万長者である。
「鹵獲した物資とか装備品の売却益とかを抜きにしてそれかぁ……普通なら一生使い切れんね」
「ちょっと現実感無いよね」
「我が君はそれだけの富を何に使われるのでしょうか?」
「うーん……どこかの惑星上居住地に土地を買って豪邸でも建てるかな?」
そろそろ夢の一戸建ても現実的な選択肢になってきた。いや、ここは一つブラックロータスよりもデカくて強力な母艦を買って、そこを生活の拠点とするのもアリと言えばアリか? これだけの金額があれば選択肢はかなり広がるな。
「様子は?」
「最低限の処置を済ませるまでは意識レベルを下げてるから、目覚めないよ。しかしまぁなんというか、雑なやり方をする連中だよ。本当に」
そう言ってショーコ先生が苦笑いを浮かべる。その視線の先には医療ポッドの中で複数の管だのコードだのに繋がれた全裸の白い少女が横たわっていた。
「治療じゃなくて身体を作り替えて意識とか生体脳を載せ替えるとかはできないのか? 彼女の遺伝子から培養したスペアボディとか、完全に義体化しちゃうとか」
「ヒロくんは偶にとんでもないことを言い出すよね……? そういう所謂スペアボディというかクローンを勝手に製造すること事態がまず違法だし、培養したクローンに意識や生体脳を載せ替えるっていうのは普通に重殺人だからね? 脳以外の完全義体化に関しては帝国では技術がまだ確立されていないし、陽電子頭脳などを持つアンドロイドなどへ意識をコピーする手法も同様に帝国では技術が確立されてないから。帝国の遺伝子・生物工学の分野から見ると、壊れたり機能が著しく低下していたりする臓器やなんかをナノマシン製剤などを使って正常な状態に戻したり、作り替えたりするほうがローリスクで確実だよ」
「なるほどなぁ……意識のデジタル化って機械知性でもできないのか?」
「はい、ご主人様。申し訳ありませんが、そういった手法に関しては私は存じ上げません」
メイが俺の質問に謝罪して頭を下げる。いや、謝るほどのことでもないんだが。
「まぁ、素人の思いつきだから。彼女に関しては二人に完全に任せるから、何かあったら報告してくれ」
「うん、わかったよ」
「はい、ご主人様」
☆★☆
と、いうわけで今回のお仕事も無事完了したというわけで……いや、無事だったろうか? 最終的にうちのクルーには怪我人も無く、船も無事。ならトラブルはあったが無事に仕事を終えたと評価しても良いな。ヨシ!
「ちょっと、聞いてるんですか?」
「聞いてるヨー。セレナチャンカワイイヤッター」
「えへ……そ、そうですか? えへへ」
俺のとてもぞんざいなお世辞に顔を赤くしたセレナ大佐がふにゃりと表情を崩して笑う。顔が赤いのは照れているだけではなく、酔っ払っているからだけど。
セレナ大佐と関係を持ってからというもの、彼女は暇さえあればこうしてブラックロータスに遊びに来ては酔い潰れたり、俺に甘えたり、うちのクルーとおしゃべりと言うか酒盛りをしにきたりしている。
俺もセレナ大佐のオフタイムを狙ってこうしてブラックロータスを帰港させているのだけれども。いくら軍人とは言っても流石に二十四時間勤務ってわけじゃないからな。事前にスケジュールを教えて貰っていればそれくらいの融通はきかせられる。
「別に俺が気にすることじゃないかもしれないんだが、こんなに露骨にうちに通い詰めて大丈夫なのか?」
「気にすることはないですよーだ。大佐の想いがついに実っただとか、大佐が男を知った顔にだとか言われてますけどぉー」
「それは気にするべきことなのでは……?」
俺は訝しんだが、セレナ大佐は俺の心配に取り合おうともしなかった。まぁ、本人が良いって言うなら良いけどさ。
「そ、れ、よ、り、もぉー……わかってますよねぇ?」
「なんのことかな?」
「ごたごたを片付けてここの後任が来たら、一緒に帝都に帰りますよって話ですよぉ。付き合ってもらいますからねぇ?」
「はいはい、行きます。行きますよ」
今回は対ベレベレム連邦軍との戦闘において帝国航宙軍が雇った傭兵として公式な戦果を……それも大戦果を挙げたので、またぞろぴっかぴかできらきらの勲章を頂くことになるようだし、その前にイクサーマル家の連中をバッサバッサと斬りまくったからな。イクサーマル家の嫡男であったヴィンセントの首も落としたし。物理的な意味で。そっちの方の裁判というか審問というか、軍法会議というか、そんな風味のイベントもある。セレナ大佐の帝都帰還にはついていかざるを得ない。
「わかってるなら良いんですよ、わかってるなら。えへ、貴方も素直になりましたねぇ」
セレナ大佐はニコニコしているが、別にセレナ大佐とそういう関係になったから彼女の言うことを素直に聞くことになったわけじゃなく、今回は必要に駆られてなんだけど……まぁそういう部分が一ミリもないと言ったら嘘になるだろうけどさぁ。
「んや? らんれふかぁ?」
「可愛いからつつきたくなっただけだ」
微妙にドヤ顔成分を含んだ笑顔が可愛いけどちょっとイラッとしたので頬をつついてやっただけである。まぁ、少し前ならセレナ大佐のご尊顔にこんなに気軽に触れようとは思わなかっただろうから、自分ではあまり変わっていないつもりでも結構変わってる部分はあるんだろうな。
「えへ、えへへ……ならしかたないですねぇ」
少し可愛いとか褒めるとこんなにちょろくなってしまうセレナ大佐が正直かなり心配である。いや、俺以外に言われてもこんなにはならないのかもしれないが。くそ、可愛いなぁ。
「ぐぬぬ……」
「どうどう。気持ちはわかるけど」
「ここは先駆者の余裕を見せるところやで、ミミ」
「お姉ちゃん、強化樹脂製のグラスが軋んでるよ……」
少し離れたテーブルからミミ達の強い視線を感じる。エルマとウィスカは押さえに回ってくれてるけど、あれはあれでなぁ……今は冷静だけど反動が激しいんだよな。二人とも。反動とは何かという点については説明を控えるが。
「……」
クギはそんな俺達を見て機嫌が良さそうににこにことしている。尻尾の動きも機嫌が良い時というか、嬉しい時の動きなので本当に機嫌が良いのだろう。クギは一歩引いているところがあるから、あとでちゃんと構ってやらないとな。
ショーコ先生はメイと一緒に例の白い少女――ベレベレム連邦の生体指揮ユニットにつきっきりである。彼女がつきっきりでないとすぐにでも容態が急変してしまう、というような状態ではないようだが、連邦の遺伝子・生命工学について知る良い検体でもあるということで没頭しているようだ。
メイは生体指揮ユニットの脳内チップにアクセスして情報を引っこ抜いたり、夢を見ているような状態の彼女に脳内チップを介して彼女の状況や俺達の関しての情報を提供しているらしい。
生体ユニットの彼女の意識レベルはショーコ先生によって意図的に落とされているが、脳が活動を停止しているというわけではない。そこに彼女の脳に埋め込まれているチップだのなんだのが作用してそのような芸当ができているようだ。
え? 説明が曖昧? んなこと言われてもな。一応説明は受けたが、俺の頭じゃ理解できなかったんだよ。身体は寝てるけど脳とチップが動いてて、そこにメイがアクセスしてるってことくらいしか。
「粗相をしないようにちゃんと教育をしておきますので、ご安心を」
「お、おう」
教育って一体何をしているんだ? とは聞けなかった。なんか怖くて。
「メイくんがアクセスしてる時、たまにあの子のバイタルが不安定になるんだよね。困るから言っておいてくれないかい?」
「メイがやることだし、必要なことなんだろうから目を瞑ってくれ」
「うーん……まぁ、そう言うなら」
ショーコ先生はすっきりしない表情だったが、俺も藪を突きたくはないので我慢してもらおう。少なくとも、俺にとって不利益になるようなことはないだろうから。
そんないつも通りといえばいつも通りの日々を少しの間過ごした後、ついに帝都からセレナ大佐の後任が赴任してきた。俺が顔を合わせることはなかったが、どこかの貴族の跡取りか何かが実績作りのために抜擢されたしい。
そんな彼に後を任せ、セレナ大佐の対宙賊独立艦隊と俺達は帝都へと向けて出発した。
「ああ、ヒロ。クリスに今回の件について書いたホロメッセージを送っておいたから。頑張ってね」
「どうしてそういうことするの???」
「淑女協定がありますから」
「俺の知らんところで俺の知らん協定が……」
なんとなく存在には感づいていたけどさ。ああ、そうなるとクリスも帝都に来そうだな。下手するとホールズ侯爵家とダレインワルド伯爵家の板挟みになるのか?
い、胃が痛ぇ……!!




