#450 後始末
天候が良くないせいか頭痛がペインで捗らなかった_(:3」∠)_
セレナ大佐はデイビットの身柄を既に確保しているという事実を大いに利用し、帝国航宙軍クリーオン星系物資集積基地――正式名称が長くてキレそう――の制圧を進めていった。
曰く。
「デイビット・イクサーマル伯爵は帝国と皇帝陛下への反逆を企て、その手始めとして卑劣な手段で私の身柄を拘束しようとしましたが、失敗しました。既に彼は私の手によって拘束されており、物的証拠も押さえ、自供も得ています。最早デイビットに与する意味はありません。投降し、帝国と皇帝陛下への忠誠を見せなさい」
イクサーマル伯爵家の旗艦、マジェスティックのブリッジを掌握したセレナ大佐が体調不良にも構わず物資集積基地全域に演説を打ち、結果としてイクサーマル伯爵家の私兵を含め物資集積基地の兵達の多くはセレナ大佐へと降った。
無論、従わない連中もいる。そういった連中はセレナ大佐麾下の海兵達が制圧中である。
「はぁ……結果論ですが、貴方がヴィンセントを討っていたのが功を奏しましたね。継嗣となりうる血筋の者は他にも居ますが……はぁ、この基地にはいませんから。求心力の行き先が無ければ兵は纏まるのが難しいですから……ふぅ」
レスタリアスの艦橋まで戻ってきたセレナ大佐が艦長用のシートに腰掛け、時折苦しげ……というか悩ましげな息を吐きながら現状を分析する。
「大丈夫に見えないんだが」
「はぁ……正直キツいですね。一体何を打たれたのやら……早急にメディカルチェックを受けないと……ふぅ」
受け答えこそしっかりできているが、彼女の顔色は発熱でもしているかのように悪く、発汗もしている。身体も震えているように見える。どう考えてもまともなクスリを打たれたとは思えないので、かなり心配だ。恐らく死ぬようなことはないだろうけれども。もしデイビットが彼女を殺す気だったなら、そんな回りくどい真似をしないで剣で斬れば良かったわけだからな。
「ところで、デイビットの状態はどれくらいこのままなのですか?」
デイビットは専用の器具でガッチリと全身を拘束されたままレスタリアスの艦橋の床に転がり、忘我の表情で虚空を見つめている。セレナ大佐が彼女の海兵達に命じてここまで移送してきたのだ。
「何もせず放置していればあと一時間も保たないと思います」
「では今のうちに吐かせるべきことを全て吐かせておきましょう。協力してくれますか?」
セレナ大佐に協力を要請されたクギが視線を向けてきたので、俺はクギに向かって頷いた。
「はい、わかりました」
「はぁ……助かります。エマ」
「はい、大佐。クギさん、こちらに」
セレナ大佐の女性副官がセレナ大佐の指示を受け海兵達と共にデイビットを連れてクギと一緒に艦橋の外へと退出していく。彼女も無力化されてマジェスティックに拘束されていたのだが、対宙賊独立艦隊の海兵達と一緒にマジェスティックの艦橋を制圧する傍ら、彼女を解放したのだ。
「はぁ……それで……聞きたいことがいくつか……あるのですが……」
「いや、それよりも休めよ。どう見ても普通の状態じゃない。聞きたいことは後で時間のある時にでも話してやるから」
「約束ですよ……?」
「わかったわかった、約束だ。それで、この船の治療設備はしっかりしてるのか? 船医は? うちの船なら一流の設備と一流の医者が揃ってるぞ?」
「ご心配なく……うちのクルーも優秀ですから……」
そう言ってセレナ大佐は彼女のクルーを呼び、二人がかりで肩を貸されながらメディカルベイへと運ばれていった。
さて、それじゃあ俺達は……帰れないな。クギがデイビットの尋問に協力してるし。仕方ない、ここで待つか。
「じー……」
「……」
周りの人が少なくなった途端、ミミとエルマが俺を凝視してきている。メイは戦闘ボット達を連れて先にブラックロータスに戻っているので、今レスタリアスのブリッジに残っているのは俺とミミとエルマ、それにレスタリアスのブリッジ要員が数名だけだ。
「随分無茶をしたみたいね?」
「必死だったからな」
嘘偽りが一切ない事実である。何にせよミミ達を取り戻さないことには詰むと思っていたので、一切余裕がなかった。サイオニック能力までフル活用して暴れたのは今思えばもう少しやりようがあったのではないかと思わなくもないが、そんなものは後知恵である。
「怪我はなかったみたいですから、それは良かったですけど……なんというか、コミックのダークヒーローみたいになってましたね」
「言わないでくれ」
ミミにそう言って両腕を組み、目を瞑って天井を仰ぐ。サイオニック能力の『手』もとい念動力を使って大暴れしたからなぁ、今回は。呼吸を止めての時間鈍化も多用したし、何より剣を使って相当数の兵を斬り殺した。終いには血に酔いでもしたのか、新たな念動力の使い方に開眼してしまった。もうここまで来るとジ○ダイの騎士というよりシ○の暗黒卿である。そのうち手から電撃とか放つようになるかもしれない。
「で、大丈夫なの? クギはあんたが危険な状態だって言ってたけど」
「何が危険なのかはわからんが、今の俺はいつもの俺だと思うぞ。ただ、剣を振るって血の海を作っていた瞬間の俺はどうだったかと言うと自信がないな。やっぱりクリシュナで船ごと何十人も宙賊をスペースデブリにするのとは勝手が違うよな」
今思い出してもあの瞬間の俺はいつもの俺ではなかったように思える。落ち着いたら座禅でも組んで心を落ち着けるか、誰かに甘えて心を癒やすかした方が良いかもしれない。
「そういえば俺、兵士をかなり斬り殺してしまったんだが……もしかして逮捕される?」
「ええっと……どうなんでしょう?」
ミミも不安げな表情でエルマに視線を送る。俺とミミの二人に視線を向けられたエルマはというと、これまたかなり苦々しげな表情であった。
「情状酌量の余地はあると思うし、そもそもヒロは名誉貴族だから平民の兵士に関しては戦闘になった時点でヒロに有利な裁定が下る可能性が高いけど、ヴィンセントを始めとした貴族に関してはどうかしらね……セレナ大佐の主張が認められれヒロの正当性も補強されるでしょうけど、そうでなかった場合には覚悟したほうが良いかもしれないわ」
「……最悪逃げるか」
「あなたいつもそう言うけど、結局逃げないじゃない……それは本当に最終手段にしなさい。傭兵ギルドでも貴族のコネでもなんでも使って切り抜けるしか無いわね」
「いざとなったら俺をここに送り込んだ皇帝陛下にケツ持ちをしてもらおう……」
それはそれで面倒なことになりそうだが、仕方があるまい。最悪の場合は帝国を出ていくという選択肢もあるが、そうすると帝国内のコネをすべて失うことになるし、傭兵ギルドからも良い顔はされないだろうし。最悪、傭兵ギルドから追手がかかるかもしれん。
「ままならねぇ……とにかく今はシャワーでも浴びて休みたいぜ」
「同感……」
「皆でゆっくりしたいですね……」
しかし状況を考えるとゆっくりしている暇があるかどうか……ベレベレム連邦の大攻勢も始まっていそうだし、最寄りのゲートウェイの様子も心配だ。
くそ、あのファッキンエンペラーめ。こんな面倒な状況に俺達を放り込みやがって。今度会うことがあったら文句の一つも言ってやらなきゃ気が済まんな。




