#448 屍山血河を築きながら
ぐへへ展開は無いです( ˘ω˘ )(ネタバレ
先を争うように情報をゲロった二人の兵士をテレパシーの応用で昏倒させ、奴らの装備を奪ってミミ達の救出に動き始めた。
え? テレパシーの応用でどうやって昏倒させたかって? 俺のサイオニックパワーは強大だからな。直接頭に触れて『眠れ!』って感じで思念を最大出力で脳味噌に叩きつければ一発よ。
普通の人にやると後遺症が残りかねないというか、最悪死ぬ可能性があるから使う時は慎重にって言われたけど、この状況じゃ知ったこっちゃないな。クギくらいテレパシーの扱いに熟達していればもっとスマートにやれるらしいが、サイオニック能力をやっと扱えるようになった程度の俺ではこれくらいが限界だ。
「しかしやたらでかい船だな。クソ、マップ表示機能があるガジェットが欲しい……」
この状況では片手を小型情報端末で塞ぐのは得策じゃないし、そもそもいつ俺の脱走がバレてこの船に乗っている兵士が襲いかかってくるかわからない。スカ○ター的なウェアラブルデバイスの導入も考えておくか。
などと考えながら兵士に吐かせた情報に従ってミミ達が監禁されているという部屋へと向かっていると、二人組の兵士と鉢合わせした。
「お前は……止まれ、ここで何をしている」
「ヴィンセント殿の依頼を受けることになってな。仲間の無事を確認するために移動中だ。ほら、信頼の証に彼の剣を借り受けてるぞ」
そう言って俺は誰何してきた兵士にヴィンセントの剣の柄を指し示してみせた。声をかけてきた兵士は剣の柄に視線を向け、もう一人の兵士はいつでもレーザーライフルを俺に向けられるように身構えている。流石にまだ銃口をこちらに向けてきてはいないが、いつ向けてきてもおかしくないな。
「待て、確認する」
「それは困るな」
「は――?」
俺は一瞬息を止め、抜き打ちで二人の兵士を両断した。
信じられない、とでも言いたげな表情で胴体の半ばから両断された二人の兵士が艦内の廊下に倒れ、俺の足元が血と臓物に塗れる。
「やるしかないな」
警戒している相手の頭に直接触れることは難しいし、そもそも集中が間に合わない。こうなってしまっては斬るしかない。
俺は既にヴィンセントを手にかけているし、イクサーマル伯爵家が俺とセレナ大佐と敵対するという姿勢は明白だ。こうなったら後は暴力で押し通る他あるまい。ああ、やだなぁ。致死出力のレーザーライフルなんざ食らったら一発でお陀仏なんだが。
「パワーアーマーどころかコンバットアーマーもなしの完全生身はなぁ……仕方ない」
手近な壁に剣を振るい、盾として使うのに適当な大きさに切り出す。
レーザー兵器というのは対象の表面要素を超高熱で蒸散爆発させて破壊するという原理上、破壊力は高いが貫通力はあまり高くない。戦艦内の通路の壁材というのは白兵戦を想定してそれなりに頑丈な素材でできている筈なので、これでも数発……最悪でも一発はレーザー兵器の攻撃を防げる筈だ。盾が壊れたらまた壁から切り出せば良い。その分イクサーマル伯爵家の旗艦がボロボロになるが、知ったことか。
切り出した壁材の盾をサイオニック能力で作り出した『手』で一枚ずつ持ち、駆け足で目的の部屋へと向かう。
「うわっ!? なんだ!?」
「止まれ!」
「断る!」
曲がり角で出会った兵士に向けて壁材の盾を押し出し、盾が当たってたたらを踏んだところを一息で斬り捨てる。彼らに罪は何もないだろうが、立ちはだかる以上は敵だ。敵は斬る。
俺が派手に暴れればそれだけミミ達への注意も逸れるだろう。そうすれば彼女達だけで脱出を果たすということも考えられる。ミミはともかくとしてエルマも徒手格闘では俺よりも強いし、人並み以上にレーザーガンなどの武器を扱うことだってできる。クギには強力なサイオニック能力もある。可能性は十分だ。
「何事だ!?」
「負傷者あり! コード03! コード03! セクター2-Bでコード03発生! 応援求む!」
騒ぎを聞きつけた兵士達が集まってきた。SOLで白兵戦を何度もやってわかったことはいくつかあるが、一対多で戦闘をする時の鉄則がある。
「うわぁっ!? 突っ込んできた!?」
「応戦し――グァッ!?」
頭数の多い相手と腰を据えてまともに撃ち合ってはいけないということだ。完全にジリ貧になって火力差で押し負けるからな。装甲とシールドが許す限り距離を詰めて敵の体を他の敵からの攻撃の盾にして、的を絞らせず、誤射を恐れさせ、攻撃頻度を下げさせる。
それを意識しながら盾を全面に押し出して兵士達に詰め寄り、まごついている間に左手のレーザーガンで撃ち、右手の剣で斬り捨てていく。当然間合いが開いている敵兵はレーザーライフルで射撃を加えてくるが、引っ剥がした壁材の盾と切り捨てた兵士の死体をサイオニック能力で作った『手』で掴み上げ、盾として使って防ぐ。
「ひっ、ひいぃ!? し、死体が!?」
「死体を操ってるぞ!?」
「こうなりたくなきゃ武器を捨てて道を空けろ! そうしないなら同じように斬り捨てる!」
見た目がかなり邪悪なことになっているが、壁から盾を切り出す暇もないのが悪い。
「わ、わかった! 武器を捨てる! 捨てるから!」
「馬鹿野郎! 伯爵閣下に殺されるぞ!」
「知るか! 俺は殺されて死体まで弄ばれるのは御免だ!」
レーザーライフルとレーザーガンを放り出して床に伏せて降伏する兵士も出てきた。それでも抵抗する奴はいるので、死体を投げつけて動きを止め、死体ごと斬り捨てて命を奪う。ついでに放り捨てられているレーザーライフルやレーザーガンも斬り捨てておく。背中から撃たれるのは御免だからな。
「面妖な! 斬り捨ててくれる!」
「出たな貴族兵」
曲がり角から躍り出てきた貴族兵が死体の盾を掻い潜って肉薄してきた。振り上げられた剣が照明を反射してギラリと輝く。
「もらっ――なっ!?」
「残念」
貴族兵が振り上げた状態でピクリとも動かなくなった剣に驚愕し、俺は剣を振り上げて無防備になった貴族兵の腹をヴィンセントの剣で撫で斬りにする。
確かに剣の切れ味はパワーアーマーどころか戦艦の装甲材すら切り裂くのだろうが、目に見えず、触れることもできない『力』を斬ることはできない。貴族の剣でもシールドを斬ることはできないのと同じことだ。
死体の盾を手離した『手』で刀身を受け止め、握り込んだ剣はいくら身体強化した貴族であっても振り抜くことなどできはしない。
「ばか……な」
「剣は貰っていくぞ」
上半身だけになった貴族兵の手から剣をもぎ取り、ヴィンセントの剣で首を刎ねてしっかりとどめを刺しておく。左手用の剣としては少々重いが、贅沢は言えない。これでいつものスタイルに戻ったな。
「おらぁ! 死にたいやつからかかってこいや!」
両手の剣で壁を切り裂き、新しい盾を補充しながら敵兵を挑発する。こうなったらとことんやってやろうじゃないか。死体の山を築き上げてでもうちのクルーを返してもらうぞ。
□■□
「ふん……算盤が合わんな。忌々しい」
ヒロが誰かから奪った二本の剣でイクサーマル伯爵家の私兵を斬って斬って斬りまくる大暴れをしているライブ映像を見ながら、反逆者デイビット・イクサーマルが言葉通り忌々しげな表情をする。
「船を降りても強いという報告は聞いていたが、ここまでとは……」
別のホロディスプレイには対宙賊独立艦隊の海兵達とイクサーマル伯爵家の私兵達が一触即発の雰囲気で睨み合っている映像が表示されており、また別のディスプレイにはこの船、マジェスティックのハッチをブリーチングして突入し、艦内で戦闘を繰り広げている軍用戦闘ボットとメイドロイドの姿が映し出されている。
「役立たずなのは君だけのようだな? ホールズのご令嬢」
「……」
デイビット・イクサーマル伯爵……いや、反逆者デイビットがそう言いながら皮肉げな表情を向けてくるが、私はそれを黙殺した。何らかの反応を返してもこの男を喜ばせるだけだ。
天井から垂れている鎖に両手を繋がれ、辛うじてつま先が床に着くくらいの状態で吊るされている私に為す術が無いのは事実だが、この反逆者にそう言われると腸が煮えくり返りそうになる。
「変に色気を出さずにあの男は殺しておくべきだったか。人質を集めたほうが良いな……ゴンザレス、応答しろ。女どもを私のところまで連れてこい。ジェイムズ、艦の被害は考慮しないで構わん。仕留めろ。せめて足止めをしろ。ボットどもにはEMPを食らわせてやれ。使用を許可する」
部下達から了解の旨が返ってきたのか、デイビットは満足そうに頷いて私に向き直った。そして、私のすぐ近くに設置されている台に視線を向ける。
「ふぅむ、軍用の異物除去インプラントの影響か、薬剤系の効きが極端に悪いな。量の調節が難しい。ワームを試してみるか……? それとも他の手を……」
小さなカプセルの中で蠢く悍ましい何かを見ながらデイビットがブツブツと呟いている。先程から私に怪しげな薬剤をインジェクターでブスブスと……何を期待しているのか知りませんが、気色が悪い。身体的要因ではなく、精神的な要因で吐き気がする。
「こいつは物理的に脳を破壊する恐れがな……流石にそれは手間だし、スキャンですぐにバレるのは良くない。マリオネットの投与量を増やして異物除去インプラントのキャパシティオーバーを狙うか……? これも過剰投与は危険だが……」
『閣下、人質の女どもを連れて来ました』
デイビットが何事かろくでもないことを思い悩んでいるうちに、奴の部下らしき声が聞こえてきた。人質の女ということは、ヒロのクルー達が連れてこられたのでしょう。これはまずい。私のように身体強化も異物除去インプラントも無い彼女達ではデイビットの怪しい薬剤に対抗できない可能性が高い。
「ご苦労、入れ――……」
扉が開いた瞬間、デイビットが突然身体をピンと伸ばして仰向けに倒れ込んだ。倒れたまま身体をガクガクと震わせ、白目を剥き、泡まで噴いている。一体何が?
「うわ……凄いことになってるわよ、イクサーマル伯爵」
「これ、大丈夫なんですか?」
「少々強くしましたが、命を奪う程ではありません」
大柄な士官の後ろから部屋に入ってきたヒロのクルー達が緊張感の欠片もない様子で反逆者の様子を見ている。肝心の士官は倒れている反逆者を見ても全く無反応だ。よく見ると、瞳の焦点が合っていないように見えるが……何らかの方法で操っているのだろうか?
「あら、随分な格好ね。ご機嫌いかが?」
「最悪です。早く解放してくれませんか?」
「今助けますね!」
「此の身はこの男を傀儡にします」
どうやったのかはまったくわかりませんが、彼女達は自力で危機を乗り越えたようだ。ヴェルザルス神聖帝国の巫女――確かクギという名だったはず――が泡を吹いて倒れている反逆者の額に手を置くと、反逆者の痙攣が強くなり始めたが……あれは大丈夫なのだろうか?
「その男を操れるなら早くしてください。ヒロが死にますよ」
ミミさんが頑張って私を解放しようと鎖を下ろす方法を探しているのを横目に見ながら、激しい攻撃に晒されながらも奮戦しているヒロが映っているホロディスプレイを顎で指し示す。
「うわ、これは不味いわね。クギ、急いで」
「もう少しです。なかなか頑固な方ですね」
そう言いながらクギさんは冷酷さすら感じさせる冷たい目で痙攣する反逆者を見下ろしていた。ヴェルザルス神聖帝国のサイオニック能力者というのはやはり侮れない……帝国貴族を反撃の余地もなく昏倒させて傀儡にすると言ってのけるとは。帝国貴族にして帝国軍人である私としては言いたいこともあるが、この状況では黙認するしかない。
「あ、このコンソールでしょうか? こうかな?」
「いたたた! 上がってます! 逆です逆!」
「す、すみません!」
どうしてそこで逆を引くのか。助けてくれたことには感謝しますけれど。




