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#446 伯爵家の男達

読者の皆様のお陰で11巻の出だしは好調のようです! ありがとうございます!_(:3」∠)_

 俺達が壮年の執事に案内されたのは落ち着いた雰囲気の食堂のような場所だった。程よい広さの空間には真っ白のテーブルクロスが敷かれた大きなテーブルが設えられており、既に貴族らしき男性が二人とセレナ大佐、それに副官の女性士官が席についていた。


「デイビット様、傭兵のヒロ殿をお連れ致しました」

「ご苦労。ヒロ殿、お連れの御婦人達もどうぞ席についてくれ給え」


 二人いる男性貴族のうち年嵩――中年男性の方が俺達に着席を促してきた。特に断る理由もないので、素直に従って全員で席につく。


「実に華やかで素晴らしい。最近は忙しくて花を愛でる時間も取れていなかったのでね。ああ、いやいや、わかっているとも。あまりに露骨で不躾な視線を送るつもりはないので安心してほしい。ただただ最近は心労が募るばかりだったという話なのだよ」


 俺達が席につくなり、俺達に着席を促した紳士はそう言って爽やかな笑みを浮かべてみせた。いや、その発言だけでかなり失礼というか眼福ですって言っているようなものだと思うが。それでもあまり不快な気持ちにならないのはこの男が放つ不思議なカリスマ性のようなものの効果なのか。


「ああ、これは失礼。自己紹介がまだだったな。私はデイビット。デイビット・イクサーマルだ。イクサーマル伯爵家の当主で、伯爵だ。私の隣に座っているのが――」

「ヴィンセント・イクサーマル……こいつの息子だ」


 ヴィンセントと名乗った男性貴族――見た目だけなら俺と同じか、少し若いくらいに見える――がそう言って軽く肩を竦めてみせた。こちらは目付きが鋭く、いかにも油断できなそうな相手だ。


「やれやれ……当主にして父である私をこいつ呼ばわりとは。これが反抗期というやつなのだろうかね? まぁ良い。ヒロ殿、良ければお連れの御婦人達を紹介してくれないかね?」

「オーケー。ただ、先に断っておくが貴族に対する適切な振る舞いというものは期待しないでくれ」

「いいとも。この場は公式な場というわけでないからね」

「そりゃどうも。まずこの子がミミ。ターメーン星系出身で、俺の妻だ。俺の船のオペレーターで、傭兵団全体の補給官としても腕をふるってもらっている」

「つ、妻のミミです」


 ミミがガチガチに緊張したまま顔を真赤にして小さな声でそう言ってから頭を下げる。そういえば他人にミミのことを妻だと紹介するのは初めてかもしれない。自然とそうしてしまったんだが、はて?


「次にこっちがシルバーランク傭兵のエルマ。帝都にあるウィルローズ子爵家の娘で、俺のパートナーだ。傭兵団の運用全般を支えてくれるアドバイザーで、うちの団のナンバーツーだ」

「どうも」


 エルマはミミと打って変わって事務的にイクサーマル伯爵家の二人に挨拶をした。


「そして最後にこの子がクギ。諸般の事情によって俺の従者をしてくれている。団全体のメンタルサポートもしてくれている」

「クギと申します。お見知りおきを」


 クギはそう言って優雅にお辞儀をしてみせる。ふむ、こうしてみると三者三様というか、それぞれ個性的だよな。うちの面子は。ここにティーナやウィスカ、それにショーコ先生がいたらどんな風に挨拶をしていたのかね? メイだけは容易に想像がつくけど。


「妻にパートナーに従者か。生きたままシルバーウィングとゴールドスターを賜る英雄らしいといえば英雄らしいな。変人揃いのプラチナランカーの一人でもあると考えれば、まぁ妥当というか穏便というか、まだ理解できる範囲だ」


 そう言ってヴィンセントが皮肉げな笑みを浮かべる。

 女性を大量に側に侍らせているスケベ野郎という評価は甘んじて受けざるをえないが、少し気になることを言ったな?


「俺以外のプラチナランカーとも付き合いが?」

「一人だけだがな。やり取りはメッセージだけ、顔どころか姿も見せない変人だ」


 なんか御前試合でそんなのと戦った気がするな……名前は忘れたが。そういやあんまりプラチナランカーに関してはリサーチもしてないんだよな。そもそも会うことがないし、会いに行く予定もないから。


「なるほど、俺以外のプラチナランカーはそんなにアクの強いのばかりなのか」

「連中と比べてお前のアクが強くないわけじゃないと思うがね……歓談も良いが、そろそろ喉ぐらい潤しても良いんじゃないか?」

「そうだな。用意を」


 デイビットがそう言うと、壁際に待機していたメイドや執事達がテキパキと動いて食前酒のようなものを用意し始めた。高級そうなボトルから注がれた金色の液体がクリスタル製と思しきグラスに注がれていく。


「俺は下戸なんだが……」

「そうなのかね? まぁ、然程酒精の強いものではないから、アレルギーというわけではないなら一杯だけ付き合ってくれ給えよ。さて、何に乾杯するべきか。そうだな……月並みだが、ヒロ殿達との新たな出会いに乾杯ということにしよう。では、新たな出会いに」


 そう言ってデイビットはグラスを掲げ、金色の液体を飲み干した。俺を含めた他の面子も彼に倣い、グラスを掲げて金色の液体を飲み干す。渋みの少ないさっぱりとした味の液体だ。甘みよりも酸味が強く、とても飲みやすい。だが、しっかりとアルコールも感じる。こりゃ飲みやすいからとカパカパ飲んだら速攻で潰れるやつだな。ああ、もう既に顔が火照ってきている気がする。


「それにしても今回はすまなかったね、大佐。作戦の途中だというのに呼び戻してこの集積基地に貼り付けるような真似をして。しかし万が一のことを考えると予備兵力はいくらあっても足りないというのが現実だ。現状の戦力だけでも連邦軍は跳ね返せるだろうし、数日で帝国軍本隊の増援も来るから問題はないとは思うのだがね」

「いいえ、司令。私が貴方の立場でも同じ選択をしたかもしれませんから、お気になさらず。陛下の剣として為すべきことを為すだけです」

「そう言ってくれると助かるよ」


 デイビットはセレナ大佐と帝国航宙軍トークを繰り広げるつもりらしい。完全にあちらに意識を向けているところを見ると、俺達のホストはデイビットではなくヴィンセントの方なのだろう。


「データを見たが、貴様の戦果はなかなかユニークだな。それに、宙賊ばかりを狩っているというのも珍しい。何か宙賊討伐への拘りがあるのか?」

「別に執着しているわけじゃないが、奴らはどこにでもいて、狩り方を知ってさえいれば良い金蔓になるからな。それに好きなだけぶっ飛ばして奪い尽くしても良心が傷まないし、なんなら各方面から感謝もされる。獲物として理想的だろ?」

「なるほど。参考までに、どれくらい稼げるものなのか聞いても良いか?」

「狩り場によってムラがあるが、だいたい一週間で百万エネル以上だな。今は船も増やしたし、もう少し行けるんじゃないか? まだ連携を調整中でね」

「ほう? 流石にプラチナランカーともなれば稼ぐものなのだな。まぁそれだけ女を囲うならそれくらいの甲斐性は必要か」

「そんなところだな。他にも大きなヤマが入ればそっちに専念するし、母艦のカーゴ容量を活かしてちょっとした物資輸送なんかもやるな。大きなヤマの発注元や仕事内容については話せないが」


 ヴィンセントは俺の話を興味深げに聞いている。

 ふん? ちょっと警戒していたが、こうして話してみると普通の貴族と変わらんな。取り繕うのが上手いのか、それとも取り繕うまでもないのか。今のところ特に敵意も害意も感じないが、そのような感情を持たず、息をするようにこちらを害してくるような人間だとすると厄介だ。


「グラスが空いているな」

「ああ、だが」

「酒は要らないんだろう? 酒以外にも飲み物の用意はあるさ。じきに料理も運ばれてくる」


 ヴィンセントが手で合図をすると、メイドさんが何か飲み物を持ってきた。色からすると何かの果物の果汁とかだろうか? かなビビッドなピンク色で手を伸ばすのを躊躇ってしまうんだが。


「とりあえず、貴様との縁に乾杯だ」

「そりゃどうも」


 すぐに切れる縁じゃないかと思うんだがね。どんなにこの場で友好的にふるまったとしても、クリスへの妨害の件については忘れないからな。俺は。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 手に汗握る緊迫感の中、激烈な感情の発露の様が伝わってくる。 [気になる点] 首を斬っても脳細胞がまだ生きていて、生き返って来ちゃったらちょっと心配です。
[気になる点] とにかく1杯飲ませたいという気配が怖い。 対サイオニック装備がこの規模で完璧だとしたら恐ろしいし、 そうじゃなくて実は敵意がある相手なら更に… [一言] 漫画で作品を知ってここまで一気…
[一言] リアルなプラチナランカーのイメージ 誰に認められるワケでも無いのに、自発的に1ヶ月の断食修行を決行する忍者 何故か試合で使えない急所攻撃のコンビネーションばかり練習している、とある打撃競技…
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